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業務を変えるkintoneユーザー事例 第245回

苦労の末行き着いた自動化・リアルタイム化・PDCAサイクル

限界、自分たちで決めてない? 老舗海苔屋が挑んだkintoneの基幹システム

2024年10月07日 11時00分更新

文● 柳谷智宣 編集● 福澤/TECH.ASCII.jp

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 kintoneユーザーによる事例・ノウハウの共有イベント「kintone hive 2024 Tokyo」が開催された。

 4番手として登壇したのは浅草の海苔メーカーである小善本店だ。同社情シス部の小林祐介氏・松川菜々美氏によるプレゼン「kintoneの限界決めてませんか~kintoneによる『理想のIT化』への挑戦~」をレポートする。

小善本店 情報システム部部長 小林祐介氏

理想のIT化とかけ離れたパッケージの基幹システム、思い切ってkintoneでの構築を決断

 1894年に、乾海苔問屋として浅草で創業した小善本店。以来海苔の販売を中心に事業を営み、今年で130周年を迎える。レーザーカットを用いたデザイン海苔「のりあーと」やふりかけタイプの味付け海苔「のりカケルくん」といった商品を手掛け、「海苔を世界へ」をビジョンに海外販売にも力を入れる。

 2019年、同社の情報システム部部長である小林氏は悩んでいた。市販パッケージの基幹システムが稼働していたのだが、紙やエクセルが大量発生していた。ヒアリングしてみると、製造現場では「そもそも現場で使えない!」、営業では「前のシステムの方が全然早く仕事ができる」と言われ、経営陣からは「システムは任せるから、良い会議資料を作ってね」と返された。

「パッケージなので、入力が非効率的でした。モバイル端末に対応していなかったので、リアルタイムに情報を活用することも難しかったです。そもそもが要件を完全に満たしていなかったため、システム外に大量の紙やExcelが発生していました」(小林氏)

 パッケージの基幹システムは、理想のIT化の状態とはかけ離れており、一方の小林氏も、カスタムできないシステムにイライラしていたという。

パッケージシステムは理想と大きなギャップ

 そして2020年、小林氏が巡り合ったのがkintoneだ。JavaScriptやCSSを使って、カスタマイズし放題なことに心を射抜かれた。「kintoneで安価にDX化します!」と社長に提案したところ、社長もCMでkintoneを知っており、すんなりと導入に至った。

 小林氏は、さっそく「業務日誌」や「稟議」「進捗管理」といった簡単なアプリをkintoneで作成。自身で勉強しつつ、社員にもkintoneに慣れてもらうことから始めた。そうこうしていると、基幹システムで扱う、売上や仕入れといった重要なデータも、kintoneで管理したくなる。とはいえ、基幹システムとの二重入力が発生しまい、ミスの温床になる可能性があった。

 そこで小林氏は、基幹システムとkintoneを連携する仕組みを開発。入力は効率化されたが、連携エラーが起き、リアルタイム性も限界があった。RPAによるコストも増大するなど、様々な問題が発生してしまう。

kintoneと基幹システムを連携する仕組みを開発

 最終的に行き着いたのは、「基幹システムをkintoneで作ってしまえば、すべて解決するのではないか」という考えだ。基幹システムのコストが高かったため社長からもゴーサインをもらえ、kintoneによる開発がスタートした。

想像以上に大変だった基幹システムの開発、苦労の末行き着いたのは?

「そして始まった基幹システムの開発ですが、私が想像している以上に大変なものでした。100人以上が使用する基幹システムなので、対象業務と機能が膨大にあり、複雑にからみあっていました。kintoneで開発できるとはいえ制約もあり、それを把握するのも大変でした」(小林氏)

全体のアプリ相関図

 それでも良かった点として、すでに社内でkintoneを使い始めていたため、要件定義がスムーズに進められたこと。そして、テストアプリをノーコードかつ容易に展開できたというメリットもあった。加えてkintoneがベースになるため、インフラ管理の手間もない。

 大変だった開発もいよいよ終盤。テスト工程で松川氏が入社する。てんてこ舞いな小林氏は、テスト作業で必要な数百数、数千件のデータの登録を入社したての松川さんにお願いする。

 「入社して右も左も分からない状態でデータの登録をお願いされ、正直焦りました」と松川氏。しかし、データ入力を通して、システムのことを徐々に把握できたという。

小善本店 情報システム部 松川菜々美氏

 2人の努力の末、システムは完成し、2023年5月に運用がスタート。kintoneのポータル画面には「マスタ」「在庫」「請求支払」といったカテゴリごとに、たくさんのアプリが並ぶ。基幹システムの開発には約1年の時間を要した。

完成した基幹システムのkintoneアプリ群

 kintoneで実現した“理想のIT化”は3つだ。ひとつ目が、作業が「自動化・効率化」されたこと。小善本店にはさまざまなフォーマットで発注データが送られてくる。そのデータをkintoneアプリ上の「CSV取り込み」ボタンをクリックするだけで、受注できるようにした。システム内での手入力が不要になったため、担当者によっては1日1時間程度、作業時間が短縮されたという。

 2つ目は「リアルタイムな情報活用」。モバイル対応によって、現場で加工報告や関連業務の入力、リアルタイムな在庫確認が可能になった。実績も手軽に集計できようになり、会議資料の作成に費やしていた時間も軽減できた。

 3つ目は「PDCAによる改善サイクル」が回りだしたこと。各帳票は「プリントクリエイター」(トヨクモ)を使用してフォーマットを作成しているが、修正依頼があったらすぐに対応できるようになった。

kintoneによる基幹システムで理想のIT化が実現した

「社内の反応も変化しました。現場で使えるシステムになったため、改善要望が積極的に出てくるように。営業からも、『会議資料の作成や伝票出力が圧倒的に速くなった』という声をもらっています。経営陣からは『リアルタイムに情報を把握できるのは便利』と言われました」(松川氏)

 小林氏は、「これからは、グループ海外拠点もIT化を進めていきたいと考えています。私たちはkintoneで大規模システムを自ら構築し、運用することができました。その環境下でkintoneのメリットを最大限享受しています」と締めくくった。

製造現場や営業、経営の各セクションから嬉しい声が寄せられた

kintoneで基幹システムを作る際に大事なこと

 プレゼン後にはサイボウズ パートナー第1営業部の沖沙保里氏から質問が投げかけられた。

沖氏:海苔の工場でkintoneの画面がモニターにドンと表示されているのには感動しました。kintoneを基幹システムにしようと思っても、「どこから手を付けたら良いのかわからない」という企業に向けてアドバイスをいただきたいです。

小林氏:基幹システムはそう簡単には変えられるものではないです。kintoneで管理している情報を基幹システムに取り込むですとか、APIを公開してるサービスをつなぐなど、まずは“連携という形”から入るのが現実的だと思っています。私たちもそのステップは踏んで、kintoneで何ができるのかを把握してから、次のステップに進みました。

アフタートーク

 

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