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新清士の「メタバース・プレゼンス」 第80回

ゲーム開発はAI活用が当たり前になりつつあるが、面白さを作り出すのは人間の仕事

2024年09月23日 07時00分更新

文● 新清士 編集●ASCII

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ゲーム特化の生成AIサービスも登場

 そんななか、ゲームに特化した生成AIサービスを提供している企業も登場してきています。Scenario(シナリオ)というクラウド生成AIサービスの米スタートアップは、Unityなどと連携して使えるような、特に2Dアセットの開発用ツールを用意しています。

 画像を生成する基本機能から、LoRA作成、テクスチャ・マテリアル生成、ピクセル化といった特殊スタイル生成などの基本ツールが用意されています。それを使うことで、アドベンチャーゲームに使うようなキャラの立ち絵から、表情のバリエーションの作成、背景、アイテムのアイコンなどを作成できるというわけです。

「Scenario」。ケーススタディとして2Dのアクションゲームの開発方法が紹介されている

 共同創業者のEmm氏は、Scenarioを使った新しいアセットの開発法をXに多くポストしていますが、最近では、話題のFLUX.1に対応したノウハウの提案をしています。

△FLUX.1を使ったアイコンの作成プロンプトの紹介

△FLUX.1で、一貫性を持ったキャラクターデザインシートの作成方法

Emm氏のプロンプトで、「goblin」となっている部分を「Japanese RPG Female Character」に変更してFLUX.1 devで生成したもの

 カナダのRed Meat Gamesは、スマホやタブレット向けアドベンチャーゲームの「Moriarty」という最新ゲームに、Scenarioの環境を実験的に使って自社のアーティストのデータを学習させた上で利用して、スタッフとの共同作業に有効に使っていることを明らかにしています。

Red Meat Gamesの「Moriarty」。同社の講演を紹介するブログより

 一方、ChatGPTのような大規模言語モデル系で注目されているのはInworldという会社で、インタラクティブなNPCを実現するエンジン環境を提供している企業です。6月に発表したNVIDIAとの共同開発したデモでは、ゲーム内のNPCと人間のような会話ができるということをアピールしていました。

 ただ、これを本格的に使ったゲームはまだ出ていません。

 APIをゲームエンジンに組み込み、会話をさせるということ自体はかなり簡単にできるのですが、会話を1回するたびにAPIの利用料金がかかってしまうことと、AIが“考える時間”をとるために会話にタイムラグが出てしまうことが大きな課題です。この課題を解決するには、ゲーム機(エッジデバイス)側に小さなAIモデルを入れるなどの工夫が必要になります。この2つのボトルネックが解消しないと、なかなかゲームでの本格利用が広がることは難しいと考えられます。

「面白いゲーム」を作るのは、AIではなく人間の仕事

 「生成AIを使ってゲームを開発する」という切り口でニュースが報じられることがありますが、ゲーム業界にとって最大のインパクトは少人数でも作れるゲームの幅が広がった点で、1年前と大きく変わったとは言えません。ただし、様々な生成AIの環境が整ってきていることもあり、特定の目的に絞るならば、使い勝手がよくなってきているとは言えます。それが粗製乱造を増やす可能性もあるとも言えますし、激しい競争のなかから優れたゲームを登場させる確率も上げたとも言えます。まだ、正確な評価は難しい段階です。

 そもそも、インディゲームのスタジオに生成AIが広がっているのは、開発リソースがないからです。そこを補うために、世界中で利用されるケースは増えていくことは間違いないでしょう。ただ、生成AIをゲームデザインに組み込むとしても、生成AIを使ったからと言って、そのゲームが面白くなることは何も保証されていません。むしろ、品質をコントロールするにはより人間のセンスが必要になっていると感じられます。そして何よりゲームの面白さは、人間が作り出さなければなりません。この点は、1年前から何も変わっていません。

 「プロンプトを入れれば、AIが何から何までやってくれて、面白いゲームができあがる」といった未来は、まだまだ当分訪れることはなさそうです。

 

筆者紹介:新清士(しんきよし)

1970年生まれ。株式会社AI Frog Interactive代表。デジタルハリウッド大学大学院教授。慶應義塾大学商学部及び環境情報学部卒。ゲームジャーナリストとして活躍後、VRマルチプレイ剣戟アクションゲーム「ソード・オブ・ガルガンチュア」の開発を主導。現在は、新作のインディゲームの開発をしている。著書に『メタバースビジネス覇権戦争』(NHK出版新書)がある。

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