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IIJ主催、法律専門家・UX/UIデザイナー・コンサルタントのパネルディスカッションより

“消費者をだます、操る”ダークパターンからの脱却、成功した企業の共通点は?

2024年08月23日 15時30分更新

文● 福澤陽介/TECH.ASCII.jp

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脱ダークパターンに成功している企業は何をしているか

 続いて川崎氏から、法的リスク以外でのダークパターンが企業に与える影響について説明された。

 想像しやすい影響として、企業の評判に傷がつく“レピュテーションリスク”がある。「短期の売上につながっても、『退会しづらくて諦めた』、『知らないうちに定期購入してしまった』といったネガティブな感情を持たれてしまうと、2度とサービスが使われなくなってしまう」。加えて川崎氏は、「今では誰もがSNSで意見を発信でき、発信されたネガティブな意見を減らすことは容易ではない」と強調した。

 また脱ダークパターンに成功している企業の特徴は、「『ダークパターンを使わない』という意思を全社的に持っている」ことだと川崎氏。ダークパターンは、現場の個人の意思で用いられると考える人も多いが、「基本的には、『退会率を下げなければいけない』、『メールマガジンの開封率を上げなければいけない』といった、真面目に数値的目標を達成するために用いられている」という。そのため、ダークパターンが起こりづらい組織構造が必要となる。

 脱ダークパターンを進める企業では、まず研修を通してダークパターンへの理解を深めて、ガイドラインやチェックリストといった“共通の線引き”を設けていることが多いという。「ただし線引きが難しいので、シビアに設定するのではなく、皆で議論できるような余地を残すことが重要だ」と川崎氏。

 例えばメディアプラットフォーム「note」を展開するnoteでは、A/Bテストを実施する際に、プロダクトチームだけではなく、PR部門や法務部門、カスタマーサクセス部門でも確認して、色々な視点から意見を出し合っている。加えて、良い数値ほど“最悪のケース”を疑うようにしており、A/Bテストで定量的な結果を得られても、ユーザーの誤操作で数値が上がっていることなどを疑い、数字だけに捉われずユーザーを第一優先として意思決定を下しているという。

 

「何か特別なことをしなくても、まっとうにユーザー中心のサービスを作っていればダークパターンは使われない。きれいごとになるかもしれないが、『自分がユーザーだったら嫌なこと』を実装しないという視点が大事」(川崎氏)

 IIJの加藤氏は、海外のユニークな事例を紹介した。典型的なダークパターンに、「Confirmshaming」という消費者の罪悪感や羞恥心を引き起こして意思決定に影響を与えるトリックがあるが、その逆で、退会フォームに「We will miss you !(あなたが退会すると寂しくなります)」と記載してある事例だ。加藤氏は、「ユーザーに“良い後味”を残す、ポジティブな影響を与えるサイトがあってもいいのでは」と言及した。

退会フォームに「we will miss you」と記載した海外サイトの事例

類型に当てはまらなければ“何をやっても良い”ということでは決してない

 最後に、ダークパターンから脱却できていない企業は何をすべきか、それぞれの視点から語られた。

 UX/UIデザイナーの視点として川崎氏は、「人をだましてしまう、操ってしまうことは、程度の差はあってもどんな企業でも起こり得る」と説明。その上で重要なのは、「経営層が気軽にディスカッションしていけるようなカルチャーを醸成すること」だという。

 法律専門家の視点として岡田氏は、「一般的なプライバシーガバナンスなどと同様に、経営層が“経営上の重要事項”として認識して、その姿勢を組織の内外に示すこと、そしてカルチャーや価値観を醸成することが重要なのはその通り」と補足。

 加えて、「法令で明確に規制されていないダークパターンのような領域では、法律の細かい該当性にとらわれ過ぎず、原理原則となる理念や指針に立ち返った検討をして、消費者の目線を持ち続けるのが大事。もっとも、価値観が多様化する現在では『炎上しないか』などと消極的になり過ぎると身動きが取れなくなるため、適度なバランス感覚で対応する必要がある」と付け加えた。

 岡田氏も、「ダークパターンのよくある類型に当てはまらなければ何でもやっても良いということでは決してない。ダークパターンは人を欺いたり、操ったりするもの全般を指す、という理解に立ち返るべき」と強調した。

オンラインセミナーの様子

 加藤氏は、Cookieバナー実装の視点として、「チェックリストを作って運用するのが有効」と説明。新しいサービスやサイトを立ち上げる際に、確認の機会が設けられると共に、関係者の意識も向上できる。

 また、ユーザーからのフィードバックを収集して、自社では気づけないダークパターンになりうる要素を把握すること。そして何より、個人情報を扱っていることを常日頃から意識して、「倫理観を醸成すること」が大事になると強調した。

 加藤氏は、「ダークパターンを利用しない誠実な企業が、取引先や顧客から評価されるような、より良い世の中になれば」とパネルディスカッションを締めくくった。

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