AIへの「高い期待」と「低調な利用実態」ギャップ解消の鍵は? Dropbox国内実態調査
経営者はわかってくれない? 中間管理職の“AI業務活用”期待と悩み
課題は「AI活用の環境整備」と「経営者層の理解、デジタル化の推進」
AI業務活用への期待値が高い一方で、実際の活用が進んでいない原因は何か。今回の調査結果から、Dropboxでは「環境整備が不十分」「経営者層の理解不足」「経営者層におけるDX/デジタル活用の遅れ」の3つを挙げている。
「環境整備が不十分」については、AI導入に至っていない理由としてトップの「勤め先で推奨されていない、ルールが決まっていない」(28.4%)のほか、「AIに関する情報が不十分」(22.8%)、「どのように活用すればいいかわからない」(21.3%)、「投資する資金がない」(20.0%)といった実態がある。
「経営者層の理解不足」および「経営者層におけるDX/デジタル活用の遅れ」については、「AIを業務で取り入れたい」とした経営者層が78.4%と全体平均より5ポイントも低く、前出の中間管理職(88.9%)とは対照的な“消極性”が見られた。この点についてDropboxでは、AIについての情報と知識が少ないために「AIがもたらす効果を過小評価している可能性」があり、リスクやコストにばかり意識が向いていると指摘する。
この現状について岡崎氏は、10年ほど前の「クラウド」に対する意識とまったく同じだと指摘する。クラウドに対する情報が不十分だった登場当初は、そのメリットも理解されておらず、セキュリティリスクやコスト面での議論ばかりがなされていた。現在のAIに対する意識はそれと同じだという指摘だ。
AIへの“消極性”の背景として、そもそも経営者自身が業務の中でデジタルツールを活用できていない可能性も挙げている。調査では、経営者層における情報管理ツールとして、「紙に印刷したデータや手書きメモ付箋」(43.1%)や「USBメモリ、SDカード、CD-ROMなどの記録媒体」(43.1%)が平均よりも多く使われていること、また利用するITツール数が平均よりも少なく、「他の人と協業するツールをまったく使わない」回答者が多い(35%)ことがわかっている。
まとめとして岡崎氏は、ナレッジワーカー全体からの期待が高いAI業務活用の推進のためには、現状の「ルール不足、ノウハウ欠如、資金の少なさ」という課題を解消する対策が必要であること、また経営者層を含むテクノロジーや働き方に関するコミュニケーション/知識共有機会が重要であることを指摘した。
「生成AIは海外にビジネスを拡大できるツール」と気づくことも重要
東京大学大学院の川原氏は、今回の調査結果をふまえて、日本におけるAI業務活用をどう前向きに進めていくかについての見解を示した。
川原氏は、「環境整備が不十分」「経営者の理解が不十分」という現状を変えていくための方策として、東京大学で学内スタートアップ育成に取り組む馬場隆明氏の「未来を実装する」という書籍を紹介した。同書では「成功する社会実装の4つの原則」が示されており、これがAI業務活用の推進にも適用できるとする。
「『最終的なインパクト』については、AIを使うとこんな良いことが起こるというのを、他社での事例なども情報収集しながら自社個別の事例に当てはめて説明する、しっかり社内で共有することだ。これによって経営者も『たしかにそれは重要だ』となれば、副作用として生じるリスクにどう対処し、どう働き方を変えなければならないのかというアクションプランにつながりやすい」(川原氏)
また川原氏は、AI業務活用に対する経営者の期待値を高めるために、単に「中間管理職や一般社員の業務効率が改善する」というだけでなく、「売上が伸びる、ビジネスが拡大する」ストーリーも紹介する方策もあると説明した。
「たとえば、生成AIは英語(外国語)への精度の高い翻訳が得意だ。海外にマーケットを拡大したい製造業、小売業などの会社でこれを活用すれば、海外向けの製品紹介ページ(Webページ)を臨機応変に作成したり、海外のクライアントとのコミュニケーションを向上させたりできるだろう。『生成AIは海外にビジネスを拡大できるツール』である、と気づくことも重要ではないか」(川原氏)
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