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日本のエンタープライズ顧客のニーズはどう変化してきたか、法人セールス責任者に聞く

生成AIなどの新サービス追加で動き出すDropbox、目指す未来とは?

文●大塚昭彦/TECH.ASCII.jp 写真● 平原克彦

提供: Dropbox

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 Dropboxがいま、活発な動きを見せている。創業時からの主力サービスであるクラウドストレージにとどまらず、電子署名や動画コラボレーション、ドキュメント閲覧分析など、幅広いクラウドサービス群を提供する企業になっているのだ。

 さらに最近では、クラウドサービス間のユニバーサルサーチ「Dropbox Dash」やコンテンツ分析でユーザーを支援する「Dropbox AI」といった、AI/生成AI技術の積極的な活用も目立ちはじめている。こうした新たな動きを通じて、Dropboxは何を目指そうとしているのか。

 今回は、Dropbox Japanの立ち上げ初期から法人向けセールスに携わってきた龍村洋一氏に、これまでの顧客ニーズの変化や、これからのDropboxが目指す方向性について聞いた。

Dropbox Japan エンタープライズ営業本部 エンタープライズ営業本部長の龍村(りょうむら)洋一氏。東京・日本橋のDropbox日本法人Studioにて

「ゼロ」から立ち上げた法人向けビジネスを成長軌道に乗せるまで

 Dropbox Japanが設立されたのは2014年9月。龍村氏はその翌年、2015年7月にDropboxへ入社した。それ以前は複数のITベンダーでラージエンタープライズ(大規模企業)を対象としたセールスを経験しており、Dropboxでもエンタープライズ向けセールスの立ち上げを任されることになった。

 ただし、2015年当時はまだ、一般的なユーザー企業の「クラウド」に対する見方は厳しかった。Dropboxのビジネス利用を提案しても、これまでセールスしてきたIT製品のようには受け入れられなかったという。

 「まだまだ“クラウド=危ない”というイメージで語られる時代でした。特にエンタープライズのお客様はその傾向が強く、前職でおつきあいのあったお客様にDropboxをご紹介しても、『クラウド? そんなのオモチャでしょ?』とか『いや、うちはクラウドはちょっと……』といった反応ばかりでした」

 さらに当時のDropboxは、国内の法人向けビジネスの実績はまだほとんどゼロだった。法人向けセールス組織もなく、提案資料も導入事例も何もない状態――。そこからDropboxの法人向けビジネスを立ち上げていくことになった。

当時のDropboxにはビジネス向けセールスの仕組みがなく、立ち上げには苦労したという。もっとも「それはそれで良い経験でしたし、面白かったな」と振り返る

 龍村氏は当初、過去に経験したエンタープライズセールスの手法を踏襲しながら、顧客にDropboxを提案していた。しかし、そのやり方ではまったく成果が出ず、実際に「1年目、2年目の売上はかなり苦戦しました」と苦笑いする。

 ただし、そうした成果の出ないセールス手法を見直す中で、龍村氏はあることに気づいた。これまで経験してきたセールスは、すでに導入されている製品のリプレースを提案することが中心だった。一方で、Dropboxは顧客企業にとってまったく新しい業務ツールである。したがって、その導入価値をきちんと伝え、理解してもらわなければ、製品導入には結びつかない。

 「お伝えすべきポイントは、カタログに書いてあるスペックや機能ではなく、Dropboxの導入で『お客様の業務がいかに改善するのか』ということ、さらにその具体的な事例でした。それに気づいたのは、あるテレビ局のお客様に提案した際、お客様の業務に即して『Dropboxの便利な点はこれで、御社のビジネスにはこう役立ちます』とご提案したところ、利用中の競合製品を解約してまですぐにご契約いただいた経験からです」

 顧客の導入事例がひとつ出来たら、それを同じ業界内の企業に紹介して横展開していく――。そうした手法で、建設業やメディア、大学/教育機関といった市場におけるプレゼンスを徐々に高めていった。3年目となる2018年度には売上目標を達成し、この年以降、Dropbox Japanの法人向けビジネスは急成長を遂げていく。

 「2018年にはアーリーアダプターのお客様を獲得し、その導入事例をご紹介することで、2019年以降はアーリーマジョリティーのお客様へとDropboxを広げていきました。2019年から2022年のDropbox Japanの売上成長は、グローバルのそれをはるかに上回っています」

顧客ニーズは単なる「クラウドストレージ」から拡大している

 この時期にはもうひとつ、法人向けビジネスに大きなインパクトを与える出来事が起きた。新型コロナウイルスのパンデミック発生だ。顧客からの引き合いが爆発的に増えたのと同時に、顧客ニーズの変化も生じたという。

 「パンデミックの発生で、お客様が会社に行けない、外にも出られない状態になった。まずお客様が反応したのはZoomです。ビデオ会議を導入して、とにかく社内外のコミュニケーションを成立させようと。その動きを見ながら、次はおそらく『ファイルサーバーのクラウド化』の波が来るだろうと考えていました」

 龍村氏は、ビジネス向けのクラウドサービスが“市民権を得た(一般化した)”のは2018年ごろだったのではないか、と振り返る。「Office 365(現Microsoft 365)」や「G Suite(現Google Workspace)」、「Salesforce」といったクラウドサービスが浸透していった時期だ。

 ただし、ファイルサーバーだけはクラウド化の波に乗れず、社内に残っていた。政府も「働き方改革」を叫んでいた時期だったが、龍村氏は「社内のファイルサーバーをなんとかしないと、働き方は変わらない」と感じていたという。

 「たとえば外回りの営業さん向けに、VPN経由で社内のファイルサーバーにアクセスできるようにしてあっても、実際は通信が遅くて使い物にならない。だから、みんなこっそり会社に戻り、必要なファイルを全部PCにダウンロードしてからまた出かける。これだと結局は『部分的なリモートワーク』にしかならないので、働き方が変わりません」

 結局、この状況を大きく変えたのがパンデミックだった。実際に、2020年前半には多くの引き合いがあったという。「オンプレミスのファイルサーバーをクラウドに移行して、(業務に必要なシステムを)フルクラウド化する実績が多く出来ました。その実績に基づいて提案したケースも多いですね」と語る。

龍村氏は入社以来8年間、奈良県にある自宅でのフルリモートワークを続けている。「Dropboxはバーチャルファーストな働き方を提唱していますが、それ以前から実践している“アンバサダー第一号”ですね(笑)」

 そのほかにも顧客ニーズの変化は現れている。たとえば「電帳法への対応」「電子署名の活用」といったものだ。Dropboxでは「Dropboxデータガバナンスアドオン」オプションを追加することで、コンプライアンスや監査といったニーズに対応できる。また「Dropbox Sign」を利用して、電子署名も簡単に扱うことが可能だ。

 「最近は『電帳法対応が必要だが、Dropboxは対応できるのか』というお問い合わせから、オプション製品のデータガバナンスアドオンをご採用いただく事例も多くなりました。また『発注システムをDropbox Signと連携させて、従来の紙のやり取りをなくしたい』といった、電子署名の導入に関するご相談もいただきますね」

 Dropboxの活用で「サステナビリティ経営」を実現する、というニーズも出てきている。建設業の飛島建設では、企業としてのサステナビリティ(持続可能性)を高めるために組織横断型のイノベーションとDXに取り組んでいるが、Dropboxの導入によって、旧来の組織の枠を越えた柔軟な情報共有が可能になった。「経営における組織論や業務に関しても、Dropboxが大きなインパクトを与えるようになっています」と龍村氏は語る。

飛島建設では、サステナビリティ経営を目指す「トビシマSX」を掲げており、その実践にDropboxも一役買っている(画像は導入事例ページより)

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