テクノロジーとデザインで“コンテンツを創造する力”を高める取り組み、ネットワークの役割
TBSのR&D拠点「Tech Design X」がネットギアProAVスイッチを導入した背景
2024年06月27日 09時00分更新
TBSグループが、東京・赤坂に構えるイノベーションスペース「Tech Design X(テックデザインクロス)」。これまでの放送という枠にとらわれず、“最新のテクノロジー”と“最高のデザイン”をかけあわせた未来のコンテンツづくりを目指すR&D拠点として、2023年3月末にオープンした施設だ。
このTech Design Xに、ネットギアのAV over IP向けProAVスイッチ「M4350/M4250シリーズ」が導入され、活用されているという。同施設の運営に携わるTBSテレビ メディアテクノロジー局 未来技術設計部の原 拓氏、永山知実氏に、ネットギアのProAVスイッチを導入した背景や製品への評価などを聞いた。
TBSのコアバリュー「コンテンツを創造する力」を高めるためのR&D施設
Tech Design Xには、TBSグループの技術系/美術系スタッフが常駐している。開放的な雰囲気のスペースで、CG制作や映像編集といった通常業務のほか、リモートプロダクション※注による番組制作、バーチャルプロダクション※注やカメラトラッキングのテストなど、先進的かつイノベーティブな取り組みを行う拠点としても活用されている。
※リモートプロダクション:遠隔地にある中継先とスタジオをIPネットワークでつなぎ、番組制作を行う手法。カメラの遠隔制御や映像のスイッチングなどをスタジオ側で行うことで、中継先に用意する機材と人員を抑えることができる。
※バーチャルプロダクション:スタジオの背景に高精細な大型LEDスクリーンを設置し、そこにCGの背景映像を表示させながらカメラ撮影することで、合成映像を撮影する技術。従来のクロマキー合成よりもリアルな合成映像が実現できる。
「TBSグループでは、2030年に向けた経営ビジョンの中で『放送の枠を超え コンテンツを無限に拡げよう あらゆる「最高の“時”」へ』という言葉を掲げています。自分たちのコアバリューを『コンテンツを創造する力』ととらえ、地上波放送以外にもコンテンツづくりの力を拡げていく――。そうした狙いから、イノベーションスペースとしてTech Design Xが作られました」(永山氏)
Tech Design Xでは、TBSグループ内だけでなく、外部の企業や大学などの研究/教育機関、フリーランスのエンジニアやクリエイター、学生などを招いたコラボレーションも積極的に展開している。コンテンツ制作技術の実証実験のほか、ハッカソンや技術体験会、R&D成果発表会といったイベントの場としても公開するため、6×3.4メートルの超高解像度LEDウォール、11.1ch空間音響設備、照明電飾設備などを常設する。こうした設備群がすべてIPネットワークで接続され、映像/音声データの伝送や制御ができる点も特徴だ。
「社名も知らなかった」ネットギアのスイッチを選択した理由
Tech Design Xには現在、フロアスイッチとして2台のネットギアProAVスイッチが導入されている。
1台目のProAVスイッチ(M4250-40G8F-PoE+)は、2023年春の施設オープン時に導入したものだ。ただし、ネットワーク機器の選定に携わった原氏は「選定の段階では、まだ『ネットギア』という社名も知りませんでした」と明かす。それがなぜ、ネットギアのProAVスイッチに行き着いたのだろうか。
Tech Design Xは、リモートプロダクションのスタジオとして利用されることがある。その際、映像伝送プロトコルにはNDIを使っているが、このNDIに最適化されたネットワーク設定(プロファイル)をあらかじめ搭載していたのが、ネットギアのProAVスイッチだった。簡単なクリック操作だけでNDIに最適な設定ができる。
「選定時にはいろいろなメーカーの製品を調べたのですが、その中で“NDI Ready”のスイッチがネットギアから出ていると聞きました。映像業界向けに特化したスイッチを出しているメーカーはほかになく、きっとネットギアならばわれわれの要件を満たす製品があるのではないかと考えました」(原氏)
ネットギアのスイッチがWeb GUIを備えており、スイッチのパフォーマンスやトラフィックの状態が一目でわかる点も選定のポイントになったという。実は以前、映像伝送で他社製のスイッチを使ったことがあるが、コマンド操作が必要なそのスイッチでは稼働状態がわかりにくく「トラブルの原因切り分けが難しかった」と振り返る。
「ネットワーク伝送の映像が乱れた場合、その原因はスイッチ、ネットワーク、エンコーダーなど、いろいろと考えられます。しかし、以前使ったスイッチでは原因が切り分けられませんでした。ネットギアの場合は、管理画面でCPUの使用率からパケットロスの回数まで簡単に確認できますから、原因の切り分けは容易です。トラブル解決と今後の改善につながります」(原氏)
ちなみに、業界内の知人から「ネットギアのスイッチは壊れにくい」という評判を聞いたことも、選定を後押ししたという。「まったく定量的な評価ではないのですが、そういう評判はやはり安心感につながりますよね」と原氏は笑う。
なお、このスイッチはPoE+給電(合計480W)に対応しており、ネットギアのWiFiアクセスポイントのほか、天井設置のPTZカメラ、スピーカーなど、フロア内の多くのデバイスに給電している。「ネットワークと電源を別々に配線しなくてよいので、その点も大切ですね」と原氏は語った。
SMPTE対応スイッチも追加導入、これからの「可能性の広がり」に期待
2台目のProAVスイッチ(M4350-40X4C)は、2024年2月に導入されたマルチギガ/10GbE対応のモデルだ。もともと社内から、大容量の映像データをフロア内のNASに保存するために「マルチギガ対応のスイッチを導入してほしい」という要望があり、新しいスイッチの導入検討を進めていた。
ちょうどそのタイミングで、ネットギアがM4350シリーズでSMPTE ST 2110(放送映像機器向けのIP伝送規格)対応のモデルを発表した。ポート数やPoE++の給電容量といったそのほかの要件も満たしていたため、このモデルに決定したという。
「放送業界はまさにいま、同軸ケーブルで映像データをやり取りしていたところから、IPネットワークを使った非圧縮の映像伝送へと切り替わっていく過渡期にあります。Tech Design Xでも、これからはSMPTEを使った実験などが広がるだろうという読みもあり、このスイッチを導入しても絶対に無駄な投資にはならないと考えました」(原氏)
ちなみに、Tech Design XにはネットギアのWiFi 6Eアクセスポイント「WAX630E」も導入されている。
Tech Design XはR&D施設であり、常に「これまでにない」「イノベーティブな」コンテンツ制作技術の研究開発を行う役割を担っている。永山氏も「将来的な可能性の広がりを考えて、“何でもできる”ネットワークを導入したことは良かったと思います」と評価する。
Tech Design Xのネットワークは、ビル内の別フロアだけでなく、TBS放送センタービルや建設中の新しいビル、赤坂サカス広場などとも光ケーブルで接続されている。将来的にSMPTEへの対応が進めば、それらの場所から映像をIPで伝送して、Tech Design Xで番組やイベントのオペレーションを行うことも考えられるという。これから赤坂の街をエンタテインメントで盛り上げていくうえでも、Tech Design X、そしてネットギアのProAVスイッチは重要な役割を果たしそうだ。