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VCスタートアップ健保が始動。マイナ保険証の活用で健保サービスのその先へ

 従業員の健康は、事業の継続・成長に欠かせない要素。少数精鋭のスタートアップではなおさらだが、成長に伴う事業スピードや既存企業とは異なるワークスタイルに対して、既存の仕組みでカバーできるものはこれまで存在しなかった。そのような中で、一般社団法人VCスタートアップ労働衛生推進協会は、ベンチャーキャピタルとスタートアップのための健康保険組合「VCスタートアップ健康保険組合」を6月1日に設立し、事業を開始する。

 健康保険は、病気やけが、それにともなう休業などによる経済的な負担を保障してくれる仕組みであり、もしもの時の助けになる。スタートアップが加入できる健康保険としては、IT産業を対象とした健康保険組合、全国の中小企業向けの「協会けんぽ」(全国健康保険協会)があるが、前者は加入条件が厳しく、後者は対象が広いことから必ずしもスタートアップにフィットする内容になっていない。「スタートアップのための健保」とはどういうものなのか、代表理事の吉澤美弥子氏、理事の金谷義久氏に伺った。

VC、スタートアップの特性に寄り添う健保サービス

 VCスタートアップ健保はデジタル化を徹底することでコストを削減し、8.98%という保険料率を実現している。保険料率の低減は、企業の負担が減るとともに、従業員には手取りの増加というメリットをもたらす。

 同健保では、加入する事業所・従業員と健保とのやり取りは電子申請が基本で、マイナポータル、マイナ保険証も活用する。そのようなコミュニケーションを実施するためのプラットフォーム「mykenpo」も自社で開発。スタートアップは従業員のITリテラシーが高いことや、DXを受け入れやすい業界だからこその特徴だという。

「事業所の皆様にも電子申請へのご協力をお願いしています。従業員の入社日にはマイナ保険証が使えるように、入社手続きの事前確認といったところから対応を進めています。このあたりは、既存の国のシステムをきちんと使うということなのですが、ほかの健保さんでは事業所側の理解が得られなかったり、健保側が対応していなかったりといったことがありがちです。VCスタートアップ健保では、両者が問題なく対応できるという点が特徴のひとつになっていると思います」と吉澤氏は語る。

VCスタートアップ健保の特徴。加入事業所と加入者に3つのメリットを提供する

 業界の年齢構成によって対応すべき健康課題が違うこともわかっている。VCスタートアップ健保加入者の平均年齢は35.5歳。協会けんぽの同46歳と比べると10歳以上の開きがあることから、健保が担う保健事業のニーズが変わってくるのは明らかだ。VC・スタートアップ業界では、メンタルヘルス不調の予防、出産・育児の支援が期待されているという。これらの点に注力するとともに、受診データの蓄積・分析から検診で見つかるより早く生活習慣病の兆候をとらえて予防につなげていくといったことも目指しているという。

マイナ保険証を活用して個人の健康にアプローチ

 6月のスタートを控え、VCスタートアップ健保の開業時での加入予定事業所は、設立直後で180社を数え、設立後の随時加入予定の申込済み事業所が326社となっている。

 被保険者数は、6692人、被扶養者数は3434人で約1万人の規模となっており、待機中の申し込み事業所も控えており、スタートダッシュとしては十分な規模を達成できているようだ。吉澤氏は、VCスタートアップ健保の目標について次のように説明する。

「健保と事業所さんは、連携できているようでできていないことが課題だと思っています。オンラインのプラットフォームを用意することでコミュニケーションの頻度を上げて、従業員の健康に関してより効率的に無駄なく取り組めるようにすることが目標の一つです。さらに第2段階として個人へのアプローチ。従業員ひとりひとりへの最適な支援ができればと思っています」

 現在、マイナ保険証でなくても、健保にはレセプトのデータや健診結果をもとに個人単位での課題抽出は可能になっている。だが、従来の健保ではそもそも個別のコミュニケーションチャネルが郵送または電話といった手段が主であるため、課題がわかっていても介入ができないという問題や、そもそも加入者へそれを伝達する方法がなかったという。

 VCスタートアップ健保では、マイナ保険証を活用することでより個人が定期的に健診結果や服薬内容、受けた医療を把握することができたり、上述した「mykenpo」からの個別通知等も合わせて、個人に届やすくなると吉澤氏は語る。

 また、高額医療費の払い戻しや、医療費控除の計算なども自動で行える。制度を知らないと活用できなかった各種の金銭的補助が簡単に利用できるようになるのは、誰もが歓迎するところだろう。

「利用者の体験を良くすることが、健康意識が高い人たちだけでなく、本当は一番健康になってもらいたい人たちに健保がリーチするうえで重要なのではないかと思っています。電子化は単に事務コストの削減ではなくて、健康になってもらいたいひとりひとりと接点を持つためにも一番重要ではないかと考えています」(吉澤氏)

オンラインプラットフォーム「mykenpo」のイメージ。表示されている会社名、個人名等はデモデータで実在のものではない

 利用率の低さが話題になるマイナ保険証だが、VCスタートアップ健保が提供するような利点が見えてくれば見方も変わってくるのではないだろうか。業界とフィットする新しい形の健保に期待したい。

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