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ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第774回

日本の半導体メーカーが開発協力に名乗りを上げた次世代Esperanto ET-SoC AIプロセッサーの昨今

2024年06月03日 12時00分更新

文● 大原雄介(http://www.yusuke-ohara.com/) 編集●北村/ASCII

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ET-MinionがET-Minion 2に進化
性能が4倍向上する

 ここまではET-SoC-1の話だったので、ここからはET-SoC-2以降の話を。まずET-Minionだが、こちらは若干変更したET-Minion 2に進化した。

FMA利用時は2命令/サイクルだが、基本は1命令/サイクルのIn-Order構成

 大きな変化は外付けのアクセラレータ-で、ET-Minionと異なりVector UnitとTensor Unitが独立。Vector UnitはRVV(RISC-V Vector Extension)準拠の512bit幅となった。一方Tensor Unitは2048bit幅に拡張された。

  まず2つに分けた理由であるが、一応技術的には両方を同時に動かすことも可能らしい。ただ目的はそうではなく、Vector UnitはRISC-VのVector Registerに対してのアクセスとなり、一方Tensor Unitは独自の2048bit幅のRegisterのへのアクセスとなる関係で、構造的に分離した方が都合が良かったから、だそうである。

 この結果として、例えばFP16やFP32であれば、ET-Minion比で4倍の性能向上が実現することになった。実際の動作周波数は後述する。ちなみにET-Minionでは最大512サイクル連続してTensor Unitが稼働するが、ET-Minion2はDitzel氏によると「512ではないが連続して稼働する。ただいくつだったか忘れた」だそうだ。

 また、今回FP8までのサポートは追加されたが、FP4やInt 1/2/4に関するサポートはない。これについては「研究レベルではよく取り上げられるが、実際に使うユーザーからの声では、やはり精度が足りない」という判断だそうで、現実問題としてInt 8とFP8/FP16/32/64のサポートがあれば十分、ということだそうだ。

 ET-Minion2が8つでNeighborhoodを構成するのは同じだそうである。このNeighborhoodがL1命令キャッシュを共有するのも同じという話であった。

この図版はわかりやすさを優先してL1などを省いているそうだ

 そのNeighborhoodが4つで、1つのクラスターを構成するのもET-SoC-1に似ているが、異なるのはこのクラスターに1つ、ET-Maxionが搭載されることと、またSRAMの容量が倍増していることだ。

Neighborhoodが4つで、1つのクラスターを構成。PCIeなどは全部別のチップレットに追い出される格好になる

 ただSRAMに関しては、確かに容量は倍だが処理性能が4倍ほどに上がってることを考えると、実際には足りなくなるのでは? と思ったのだが、確認したところ「そもそもそのデータは処理中に何度も再利用するから不足はしない」という返事であった。実際には8MBといっても細かくパーティションを切って、L2やL3、さらにはスクラッチパッドとして使う形になるので、純粋に容量が増えて柔軟性が増すことになるそうだ。

 そしてET-SoC-2であるが、このクラスターを9個並べて1つのチップレットを構成する。9個にもかかわらず、性能は1GHzのInt 8で131.1TOPSと、1つのクラスター(16.384TOPS)の8倍でしかないのは、9つのクラスターのうち1つは冗長クラスター扱いとなるためだ。

ET-SoC-2でET-Maxionをクラスターごとに配したのは、チップレット構成にするとなると、分散させるのが無難と判断したのかもしれない

 ちなみに後述するET-SoC-3では1つのチップレットにクラスターが16個であり、実際に16個となる。つまり性能はET-SoC-2の2倍だ。「なぜ?」と聞いたところ、「クラスターの数を2のべき乗にしたかったから」だそうだ。したがってET-SoC-2では9個のうち1つを冗長扱いにして8つとし、一方ET-SoC-3では16個は変えずに冗長性は他のスキームで確保するという返事であった。おそらく個々のクラスター内部に冗長Neighborhoodあるいは冗長ET-Minion2を設ける格好だろう。

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