ZVC JAPAN(Zoom)は、2024年4月12日、ユーザー向けカンファレンスイベント「Zoom Experience Day Spring」を東京で開催した。“AIの活用と働き方の未来”をテーマに掲げ、約700名の来場者に対し、キーノートや多数の事例セッションが展開された。
本記事では「なぜ、 日本航空はクラウドPBXの導入を決めたのか?」と題した日本航空(JAL)による事例セッションの様子をお届けする。
老朽化し、個別最適化されたビジネスフォン環境からの脱却
JALのコミュニケーションツール全般を統括するコミュニケーション企画グループ グループ長の田上智基氏は、「IT分野と切り離されているため、古い事務電話(ビジネスフォン)の移行はなかなか進んでいないのが実情」と語る。
JALグループが日本国内に持つ事務用電話設備は、いわゆる“オンプレミスPBX”の交換機が約160台、固定電話機が約7200台、そして電話回線が約3500回線という大規模なものだ。しかし、交換機の7割が老朽化しており、一部修理が困難な交換機も存在したため、2000年からクラウドPBXへの移行を検討していた。
それでも、前述のとおりなかなかクラウドPBXの導入に踏み切れなったのは、移行によるコストメリットが出なかったからだ。「各社・各部門の総務部門や業務部門が個別に管理していた。そのため、1つの電話番号、1台の電話機を減らすという単位の発想にとどまり、大きなコスト削減が見込めなかった」と田上氏。
こうしてオンプレミスPBXから移行できなかった結果、コロナ禍において、固定電話での受電業務を行うために出社を余儀なくされるという“在宅勤務の壁”も生んでしまうことになった。
こうした課題を解消すべく、JALでは2022年からクラウドPBXの再検討を開始。あわせてグループ内の電話のあり方も見直した。個々の部門が電話設備を管理する「個別最適」から、グループのIT部門でひとつのITツールとして管理する「全社最適」へと切り替える、という方針転換だ。
この見直しにおいては、「コストの一本化と見える化」「シンプルなシステム構成」「簡単な操作」をテーマとした。従来は複数のPBX製品を導入しており、運用保守作業も分散していたが、これが一本化できる。また、社内の利用者に“味方”になってもらえるように、クラウドPBXの選定ではシンプルに操作できることもポイントとして挙げた。
「どんな社員でも知っているZoom」のクラウドPBXを選択
JALが選択したのが、Zoomが提供するクラウドPBXサービス「Zoom Phone」だ。田上氏は、Zoom Phoneを選択した決め手として3点を挙げた。
ひとつは、同社が2018年から「Zoom Meeting」を利用していたことだ。オンライン旅行サービスを提供するなど、すでにさまざまな場面でZoomを活用していたため、UIに対する抵抗感もなくストレスフリーで移行できる。「ITに明るくない社員の“使い始め”のストレスを軽減できる」と田上氏。
2つ目の理由は、電話回線からライセンス、保守サポートまで、Zoomから一気通貫のサービスを受けられることだ。現場担当者の業務負担が減り、短期間での展開が可能になる。
3つ目は、事務電話の基本サービスの多くが提供されることだ。「オンプレミスPBXにもさまざまな機能が備わっているが、すべてを使いこなせていない。日本企業が求める機能が多くある方が利用者の受けが良く、Zoom Phoneではそういった機能がわかりやすく備わっている」と田上氏。
まずは本社のオンプレミス電話環境をZoom Phoneへ、年間数百万円の削減効果
JALでは、新しい事務電話基盤にZoom Phoneを採用し、2023年12月からオンプレミスPBXや固定電話、電話回線などを含めた移行を進めている。このプロジェクトは、NECネッツエスアイが支援している。
まずは、天王洲本社オフィスの間接部門を中心に、オンプレミス環境からZoom Phoneへの移行が完了。固定電話は600台から200台に削減され、電話回線の見直しなども含め、2024年2月末時点で年間数百万円のコストを削減できているという。あわせて、既存の業務も見直し、電話受付業務を廃止してメールやチャットなどに切り替えた。
田上氏が移行に際して注力したのが「社内に対してどう伝えるか」だという。「航空業界では安全安心が第一ということもあり、2割ぐらいの人は変化にリスクを感じて踏み込んでくれない。今回のような大きな変更をきっかけに、考え方や業務を見つめ直すきっかけにしたい」と田上氏。
そこで、従来の考え方を捨てた「ゼロスタート」を新事務電話の方針として掲げ、社内には「何もない状態からZoom Phoneの使い方を考えて欲しい」と投げかけた。この投げかけによって「真新しいものがやってきた」という印象を緩和し、現場へのヒヤリングも重ねながら移行を進めている。
さらに、専用内線網の廃止、全社内線通話の実現、固定電話機とPC/スマートフォン端末の併用、必要に応じて必要なだけ使える利用料方式の採用など、まさに「ゼロスタート」で電話業務の変革に取り組んでいる。
今後は天王洲のオフィスだけではなく、羽田や成田を中心とした空港の電話設備にも展開していく。空港の現場は接続条件や運用フローなど制約や制限が多いため、当面はオンプレミス/クラウドのハイブリッドで構築するが、今後はオンプレミスPBXをどう減らしていくかが課題だという。
最後に田上氏は、「Zoom Phoneの導入企業はどんどん増えているものの、事務電話全体におけるクラウドPBXそのもののシェアはまだ2、3割。Zoom Phoneのユーザー企業が増えていくことで、ユーザー企業間でコラボレーションして、より良いものを一緒に考えられるようになって欲しい」と締めくくった。