「少女」と「ゾンビ」を混ぜると「少女ゾンビ」のモーションができるサービス
モーション・マッチングの登場は、この10年あまりで特にインディースゲーム分野で進んだ動きを加速化していくことになるでしょう。UEマーケットプレイスなどで販売しているモーションを積極的に使っていく動きです。現在販売されているアニメーションの数は1000種類を超えており、走る、歩く、攻撃するといった大抵のゲームの基礎的な動きは揃えることができます。もちろん、自分でほしいモーションを探して適切に動作するのかの検証作業が必要というハードルはあります。数千円から数万円と値段にばらつきがあるのですが、品質が高いモーションも数が増えています。自社でモーションキャプチャースタジオを借りて、データを作成することを考えるとかなり安価です。また、UE5以降に標準化されたボーン構造に合わせたデータが大半なので、データさえ買えばそのまま動かすことができます。
そのため、基本的なモーションは購入して、ボスなどの特殊なモーションだけを自社で作るという考え方が一般化してきてます。インディーズゲームで複雑な3Dゲームが作りやすくなってきているのも、こうした技術的な背景があります。
そうした動きをさらに進めて、「3Dアニメショーションの生成AI」の実現を目指し、新製品の「モーション・マッチング」対応を発表したのが、スウェーデンのMotoricaというスタートアップです。大量のモーションキャプチャーのデータを拡散モデルで学習させ、状況を指定すると、それに合わせたアニメーションを生成してくれるクラウドサービスを展開しています。モーションキャプチャースタジオなしで、高品質なアニメーションの作成を可能にすることを目的としています。
GDCに合わせて発表したトレイラーでは、10代の少女のアニメーションを選択し、そこにゾンビのアニメーションの度合いを50%混ぜると、ゾンビっぽい女性のアニメーションに変わる様子が示されました。走る動きの速度なども指定すると、それぞれのアニメーションを生成してくれます。現在、システムはウェブ上のクラウドでサービスが展開されていますが、一般的な3Dツール用データだけでなく、Unreal Engine用のプラグインもあり、それを使うとそのままゲーム中に使える水準のアニメーションを生成し、ゲーム中に利用できるようになるようです。
生成AIとなっていますが、学習用のデータセットはどうなっているのだろうかという興味が湧きます。昨年11月に、Unreal Engineの公式チャンネル「Unreal Inside」のライブデモで、CTOのサイモン・アレクサンダーソン(Simon Alexanderson)氏がその質問に対して回答していました。インターネット上ではモーションキャプチャーのデータが簡単に手に入らないこともあり、「自分たちでデータセットを作る」という判断になったようです。自前のスタジオで、大量にモーションデータを撮影したそうです。「学習させたデータ以上のデータは出ないため、品質の低い大量のデータを学習しても良い結果にならない」ということに気がついたとか。
このアプローチの有利な点は、同じ歩くアニメーションでも、生成するたびに微妙に違ったアニメーションが出てくるという揺らぎが起きるところです。また、音声に合わせてジェスチャーをさせるといった使い方もできます。ただ、昨年までサービスされていたものは、指定されていた1種類のアニメーションを生成のみというもので、リアルタイムに様々なパターンのアニメーションが必要なゲームに応用するには少し壁がありました。
しかし、同社が発表した開発中の新システムの目玉は、UE5のモーション・マッチングへの対応です。プラグインを搭載した環境で、1つのアニメーションをセットすると、対応するアニメーションをまとめて生成するという仕組みになっています。1つのアニメーションに対して100~150のアニメーションを30分ほどで生成するという仕組みで、滑らかな移動アニメーションをまとめて作ることができます。「ALSよりもはるかにリアルなアニメーションを生成するため、ハイエンドスタジオが本当にゲームに導入したいと考えているものです」(サイモン氏)
現時点では、価格等は公開されていないので、利用するには大手ゲーム会社でないと難しい金額であることは予想がつきます。とはいえ、こういう技術は数年遅れて、一般化が始まってくること多いので、他社が追従するか、価格がこなれてくるのではないかと考えられます。
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