キンドリルが説明、メインフレームと他のプラットフォームの最適な組み合わせ活用のポイント
メインフレームのモダナイゼーションは「3つの手法のハイブリッド」が主流に
2024年03月18日 07時00分更新
キンドリルジャパン(Kyndryl)は2024年3月15日、メインフレームのモダナイゼーションについての現状などを解説するメディア向け勉強会を開催した。同社が全世界の企業を対象に実施した「メインフレームモダナイゼーション状況調査レポート」の結果についても触れた。
多くの企業では過去数年にわたって「メインフレームからの脱出」が志向されてきたが、そこに潮目の変化が生じており、今後はメインフレームにもワークロードを残しつつ最適化を図るための「ハイブリッドアプローチ」が主流になると指摘した。
「脱メインフレーム」から「ワークロードの適正配置」への潮流変化
キンドリルジャパンでは、100以上のメインフレームユーザーにサービスを提供しており、モダナイゼーションについても多くの共創事例を有している。
同社 プラクティス事業本部 メインフレームサービス事業部 事業部長の斎藤竜之氏によると、多くの日本企業では過去数年間、インフラ予算の見直しやメインフレーム人材の不足、国産メインフレームベンダーの撤退などを背景として「メインフレームからの脱出」が検討されてきた。
しかし、プロジェクトをスタートしたものの、「長年にわたって複雑に作り込まれてきたシステムであること」「メインフレーム以外ではミッションクリティカルシステムとしての要件が充足しにくいこと」といった理由から、予定していた期間とコストを大幅に超過するケースが続出。「脱メインフレームプロジェクトの成功率は(一般的には)20~30%に留まっている」(斎藤氏)という。
こうした状況を経て、現在では「潮目の変化」が生じており、全面的な再構築というかたちでのメインフレーム脱出を進めている企業はほとんどないと語る。
「(全面再構築ではなく)メインフレームになにを残して、なにを移行させるべきかといった『ワークロードの適正配置(Right workload on the right workplace)』へと、モダナイゼーションの方向が変わっている」(斎藤氏)
たとえば、ミッションクリティカルな処理やコアアプリケーションは引き続きメインフレームを生かす一方で、アジリティやイノベーションを求めるワークロードはクラウドを活用するといったかたちだ。
前出のグローバル企業調査(メインフレームモダナイゼーション状況調査レポート)でも、95%の企業がアプリケーションの一部をメインフレームから他のプラットフォームに移行しているものの、移行対象となったワークロードの割合は平均で37%にとどまるという。また、回答した企業の90%は「自社の事業運営においてメインフレームが不可欠」あるいは「非常に重要」だとしている。
「規模の大小はあるが、今後、メインフレームをどう活用するか、メインフレームからなにを移行するかという点については多くの企業が検討している段階にある。時間軸や範囲はさまざまだが、息の長い課題であり、それがキンドリルのビジネス機会になる」(斎藤氏)
メインフレームのモダナイゼーションを成功させるためには、上述した「ワークロードの適正配置」以外にもポイントがあるという。
たとえば「メインフレームの最適化」だ。メインフレームを引き続き活用しては行くが、パフォーマンスチューニング、COBOLやアセンブラなどのプログラム最適化、現行環境の整理とドキュメント化などを行って最適化を図る。加えて、クラウドなど他のプラットフォームとの連携を進めるために、APIやデータレプリケーションといった手法を用いることも肝要だ。
技術継承や人材育成の面では、メインフレームからクラウドまでシステムポートフォリオ全体を横断的に把握するCoEを設置すること、そうした複数のプラットフォームや最新技術に対する知見を持つエンジニアを育成することが重要だと説明した。
「メインフレームユーザーは、ワークロード処理の配置、データ活用、AIをはじめとする最新ソリューションや人材育成といったトレンドに注目しながら、システムポートフォリオのあるべき姿を追求していく必要がある」(斎藤氏)
3つのモダナイゼーション手法をハイブリッドで使うことが主流に
キンドリルジャパンでは、モダナイゼーションの手法として3つを定義している。システムの最新化やプログラム資源の最適化、運用自動化など、メインフレームそのものの能力を効率良く活用する「Modernize on」、APIやデータレプリケーションを通じたデータ活用など、クラウドなど他のプラットフォームとの連携を促進する「Integrate with」、ビジネス要件と品質要件をふまえて、アプリケーションを最適なプラットフォームに移植する「Move off」の3つだ。
斎藤氏は、今後は3つの手法の「どれかひとつ」ではなく、「3つの手法を組み合わせたハイブリッドアプローチによるモダナイゼーションが主流になる」と予測する。前出のグローバル企業調査においても、大多数がハイブリッドアプローチを採用していたと説明した。
鍵を握るのは「DevSecOps」「AI活用」「人材育成」の取り組み
モダナイゼーションの鍵となる具体的なアクションとしては、「DevSecOps」「AI活用」「人材育成」の3点を挙げている。
まずDevSecOpsについては、メインフレームユーザーの最大の関心事は「セキュリティ」であり、他のプラットフォームへの移行における懸念点もそこだと指摘する。同社 プリンシパル・テクニカル・スペシャリストの山下文彦氏は、「プラットフォームだけでなく、アプリケーションのレイヤーにおいてもセキュリティを強化することが重要」だと説明した。
「アプリケーションを他のプラットフォームに適合させる過程において、セキュリティも強化するリファクタリングのプロセスを提供することが今後の主流になる」(山下氏)
ちなみに、プログラムコードの変換品質はこの数年で劇的に向上しており、特殊なシステムプログラムを除く大半のアプリケーションは、COBOLからJavaへの変換が十分に可能だという。山下氏は「さらにリファクタリングでコードを最適化することで、保守性とセキュリティを高めることができる」と述べる。
2つめのAI活用では、AIを使ってメインフレームが長年蓄積してきたデータを積極活用すること、モダナイゼーションの実施にあたって最も時間がかかるテストデータの生成にもAIが適していることを紹介した。
「さらに、レガシーシステムがブラックボックス化していたり、在籍しているエンジニアでは中身の仕様がわからなくなっていたりしていても、これをAIで解決できる」(山下氏)
なお、AI活用を進めるうえでは、メインフレーム上の膨大なデータ資産をリアルタイムにアクセス可能にする仕組みや、データをクラウド上に展開し、洞察を得てフィードバックしていくようなデータ利用のプラットフォームが重要になる点も指摘した。
人材育成はIT業界全体として解決を目指すべき
3つめの「人材育成」においては、実際に「メインフレーム技術の継承に関する問い合わせや相談が、多くの企業から寄せられている」(山下氏)という。この点については、企業単独での取り組みだけでなく、知見を有する人材を広く集め、IT業界全体として解決を目指すことが大切だと指摘する。
「ネット上にはメインフレームに関する学習リソースが少なく、実機を使った学習機会が少ないため、技術習得に関するモチベーションが上がりにくい状況にある。OJTだけで技術を継承することが難しくなっているため、企業を超えたコミュニティなどを通じて効率的な人材育成が必要になっている」(山下氏)
また、メインフレームのスキルと同時に、クラウドやAIOpsといった最新技術にも長けたエンジニアが必要であり、そのためには「メインフレーム技術者が、高い理解力を基にクラウドなどのスキルを身に着けていくのが最適解」だと提案する。
「メインフレームエンジニアのアップスキルによって、エンジニア自身のモチベーションも維持できる。モダナイゼーションが進展するなかで、メインフレームエンジニアが再評価されている。今後は、メインフレームに関するスキルを有し、業務システム環境を理解していることに加え、連携先のシステムに対する知識やスキルを有する人材の育成が必要である」(山下氏)
なお昨今では、メインフレームが継続的に利用されることを前提に、メインフレームやCOBOLのエンジニアの育成に力を入れる企業もあり、「20代~30代のメインフレームエンジニアが3~4割を占める企業もある」と紹介した。