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オープンなパートナー提携、IBM製品にとらわれないベスト・オブ・ブリードな提案を

「社会成長の生命線」を担う、キンドリルジャパン上坂社長が事業戦略を説明

2021年12月21日 07時00分更新

文● 五味明子 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

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 キンドリルジャパンは2021年12月9日、IBMからの分社化を完了してから初となる事業戦略説明会を開催した。キンドリルジャパン 社長の上坂貴志氏は、「昨年(2020年)10月に分社化を発表してからわずか1年で事業を開始し、米国本社は独立企業としてニューヨーク証券取引所に上場も果たした。このスピード感こそがいまの市場に求められていることをひしひしと実感している。日本はキンドリルにとって世界で2番目に大きな市場。ベンダ依存ではない、オープンかつ柔軟な座組みで、IBMとは異なる新たなビジネスモデルを展開していきたい」と語り、IBM製品にとらわれないベスト・オブ・ブリードな価値提供を行っていく姿勢を見せている。

Kyndrylおよびキンドリルジャパンの会社概要。全世界のIBMから約3分の1にあたる9万人弱の従業員が移籍した

キンドリルジャパン 社長 上坂貴志氏

 米KyndrylはIBMからマネージドインフラストラクチャサービス事業を引き継いで分社化した企業で、上坂社長の言葉にもあるように、分社化の発表(2020年10月)からわずか1年弱あとの2021年9月1日に事業を開始、分社化が完了した11月4日にはニューヨーク証券取引所に上場を果たしている。グローバルの従業員数(連結)は約9万人、事業を展開する国/地域は60を超えており、分社前のIBMのインフラサービス事業の2020年度売上は196億6900万ドル(約2兆2333億円)だったことから、Kyndrylは初年度ですでにそれ以上の売上が見込まれている。

 「キンドリル(Kyndryl)」という社名は、親族のような関係を表す「kinship」から派生した“kyn”と、植物の蔓(つる)を意味する「tendril」から派生した“dryl”を組み合わせた造語。社員や顧客、パートナーといったちかしい存在と強い絆を作り、良好な関係を育みながら、社会成長に向けてともに取り組むという同社の姿勢を表している。

p class="caption">Kyndrylという社名は「kinship」と「tendryl」から派生した造語。ちかしい関係者との絆を、蔓のように成長させていくという意味が込められている

 IBMから分社化した企業であることから、キンドリルに対しては“IBMの関連会社”というイメージが先行しがちだが、上坂社長は「IBMの中だけで閉じていたエンドツーエンドの世界から抜け出し、広範なエコシステムパートナーとともに世の中でいちばん良いものを提供するベスト・オブ・ブリードをめざしていく」と語り、IBMにとらわれないエコシステムの構築を掲げている。とくに分社化が完了した11月からは積極的なパートナーシップを次々と発表しており、Microsoft、VMware、SAPといったグローバルITベンダとの提携のほか、キンドリルジャパンとして12月4日にエクイニクスジャパンとの協業を発表するなど、ローカルでのパートナーシップ拡大にも力を入れている。

11月4日の分社化完了以来、続々とエコーパートナーとの提携が発表されている。12月13日にはGoogle Cloudとも戦略的パートナーシップを締結した

 既存のIBMの枠にとらわれないビジネスをめざす姿勢は、キンドリルが掲げるパーパス「社会成長の生命線 - The Heart of Progress」にもあらわれている。上坂社長は「我々が何かを手がけるとき、必ず原点であるこのパーパスに戻ってくると決めている。境界を超え、チームの力で未来を築く要となる社会基盤を創造することが、キンドリルの使命」として、エコシステムのパワーを結集して社会基盤となるインフラの構築/展開に尽力すると語る。

キンドリルが掲げるパーパスは、同社が提供するインフラを「社会成長の生命線」とすること。「キンドリルが何かを始めるときは必ずここに帰ってくる」と上坂社長

 日本での事業展開は、顧客企業のITインフラ構築やモダナイゼーションを担当するキンドリルジャパンを中核に、デリバリサービスを行うキンドリルジャパン・テクノロジーサービス(KJTS)、販売から管理までを一括してサポートするキンドリルジャパン・スタッフオペレーションズ(KSOK)の3社がキンドリルジャパングループとして担っていく。関連企業を含めた従業員数は約4000人、国内拠点は東京、大阪、幕張など29カ所を構える。

キンドリルの国内事業は、中核となるキンドリルジャパンを中心にデリバリを担当するキンドリルジャパン・テクノロジーサービス(KJTS)と、オペレーションを担当するキンドリルジャパン・スタッフオペレーションズ(KSOK)がそれぞれ行う

 なお、米KyndrylのCEOを務めるマーティン・シュローター(Martin Schroeter)氏は日本IBMでの勤務経験があり、グループプレジデントのエリー・キーナン(Elly Keinan)氏は2017年から2019年にかけて日本IBMの代表取締役社長を務めていたことで知られる。またKyndrylのオーストラリア/ニュージランド社長であるケリー・パーセル(Kelly Purcell)氏も日本IBMでビジネス開発担当バイスプレジデントなど要職を歴任しており、今回はキンドリルジャパンの会長も兼任する。上坂社長は「グローバルの会議では、(自身を含めて)日本市場をよく知る4人が顔を合わせることになる。キンドリルにとって日本のビジネスへの期待は非常に大きい」と、日本市場への注目度の高さをあらためて強調している。

産業を超えたデジタルプラットフォームの提供に注力

 キンドリルが手がける市場は、従来のインフラサービスに加え、データサービス、セキュリティ、クラウド、オートメーションなど多岐に渡る。対象市場の規模は、分社化前(2021年10月)の2400億ドル(約27兆2500億円)から現在は4150億ドル(約47兆1360億円)にもなり、さらに2024年には5100億ドル(約58兆円)まで成長する見込みだ。CAGR(年平均成長率)が7%という実に高い成長率だが、上坂社長は「個人的には日本市場でのニーズはさらに大きくなると思っている」と語る。日本を取り巻くさまざまな課題――少子高齢化や高まらない生産性、デジタル競争力の低さ、カーボンニュートラル、そしてコロナ禍で生まれたフィジカルとデジタルの融合というニューノーマル(新しい日常)など――に向き合うには、新しい時代に適したインフラの整備が欠かせないというのがその理由だ。

 「いままでできていると思っていたインフラの整備が実はできていなかった、たとえばリモートワークの環境をすぐには用意できなかったなど、新しい時代と市場に対応できていなかったことに気づいた企業は多い。コロナ禍によって日本はインフラの重要性をあらためて見つめ直したのでは」(上坂社長)

キンドリルが参入する分野の市場規模はIBM時代よりもはるかに大きく、さらに高い成長率が見込まれている

キンドリルジャパンが描くITインフラ提供のステップ。IBM時代に行ってきたハードやソフトの提供、アウトソーシング、産業ごとのプラットフォームなどを経て、現在は産業を超えたデジタルプラットフォームの提供に注力、将来的には社会成長を支えるデジタル基盤をめざす。組織、企業、社会と段階的にサイロを解消していくモデルである点に注目したい

 では具体的に、キンドリルは日本企業に対してどうアプローチしていくのか。上坂社長はITインフラサービスベンダとしてのキンドリルジャパンが現在注力するステージは「産業を超えたサービスプラットフォーム」の提供だが、近い将来にはキンドリルのパーパス「社会成長の生命線」にもとづき、「社会基盤を支えるデジタル基盤」をめざしていきたいとしている。その実現に向け、キンドリルが提供するサービスの領域を「コンサルティング&デザイン」「インフラ構築」「マネージドサービス」の3つに分け、さらにフォーカスする技術領域として以下の図の6つを挙げている。

キンドリルが提供する価値。IBMから分社化したためクラウドビジネスが注目されがちだが、メインフレームやAI、ネットワークなどを含む6つの技術領域を中心にサービスを提供していく

 そして重要なのが、これらを自社だけでなくエコシステムパートナーの技術も含めて提供していくという点だ。。前述したようにキンドリルではIBMでは競合とされていたベンダもエコシステムパートナーとして提携していく方針を明らかにしており、たとえばクラウドサービスのエコーパートナーにはAWSやGoogle Cloud、Oracleの名前も見える。「IBMから独立した、自由な会社としてのエコシステム」(上坂社長)はキンドリルのビジネスを象徴するフレーズとして、今後も登場することになると思われる。

 一方で、IBMから引き継いだ「これまでサポートしてきた150社以上の顧客との信頼関係と、継続的な品質向上」もまた、キンドリルの変わらない価値として提供していくと上坂社長は語る。「社名からIBMがなくなり、『サービスレベルが落ちるのでは?』と言われることもあるが、これまで以上に手厚いサポートを提供していくことで、顧客との信頼関係を継続していきたい」(上坂社長)

キンドリルのグローバルエコパートナー。IBM時代からのパートナーに加え、競合とされていた企業の名前も見える

新たなエコシステムの構築に注力するだけでなく、IBM時代から培ってきた顧客との信頼関係も今後のビジネスの重要な基盤となる

* * *

 「メインフレームかクラウドか、といった類の選択は顧客にとってあまり意味がないのではと思っている。使いやすくてモダナイズされたサービスであれば、リフト&シフトが必要ないケースもある。たとえば大量のバッチ処理を夜間に動かしているシステムを無理にクライドに移行するメリットは本当にあるのか。クラウドに移すとしても、そのデータがどこで構築されたのか、その“from”をきちんと理解しないといけない」――得意とする技術領域にメインフレームが含まれていることについての質問に対し、上坂社長はこう答えている。単なるクラウドシフトや自動化といった単純なフレーミングにとらわれず、IBMが従来から得意としてきたメインフレームやAIなどの技術と幅広いエコーパートナーの力を取り入れながら、日本社会の新しいインフラニーズに応えていくことをめざす。

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