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AWS Mainframe Modernizationの“ファーストペンギン”として攻めの近代化

明治、AWSのリファクタリング支援で脱メインフレーム コスト約80%削減を目指す

2024年03月18日 08時00分更新

文● 福澤陽介/TECH.ASCII.jp

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 アマゾン ウェブ サービス ジャパンは、2024年3月14日、菓子や乳製品などで知られる食品会社の明治が進める、基幹システムのモダナイゼーションに関する記者説明会を開催した。

 明治は、メインフレームのアプリケーションをAWS上のクラウドネイティブな環境に移行する「AWS Mainframe Modernization」を“国内初のユーザー”として採用。本サービスの利用などで、2024年6月には、メインフレームの基幹システムをAWSに全面移行する予定だ。移行プロジェクトの成果として、数億円という年間維持コストを、約80%削減することを目指す。

取り残された“メインフレーム”のモダナイズを、リファクタリング・リプラットフォームで支援

 まずは、AWSが推進するオンプレミスからのモダナイゼーション支援について説明された。

 アマゾン ウェブ サービス ジャパンのサービス&テクノロジー事業統括本部の 技術本部長/ソリューションアーキテクトである小林正人氏は、「多くのユーザー企業の関心事として、オンプレミスの資産をどうやってAWSのクラウドに持っていくかがある。AWSは長年にわたるユーザー企業との議論やそこから得られたナレッジを集積して、ベストプラクティスとしてまとめている」と説明する。

アマゾン ウェブ サービス ジャパン サービス&テクノロジー事業統括本部 技術本部長/ソリューションアーキテクト 小林正人氏

 小林氏は、オンプレミスからクラウド環境への移行ステップは、評価・準備・移行の3つのフェーズに分かれるとする。

 評価のフェーズでは、現状を把握して移行方法を検討、移行に見合うメリットが出るかを判断する。準備のフェーズでは、システムの現状確認や周辺環境の設計、クラウドを運用するのに必要な人材の育成やスキル獲得などを進める。これらの評価・準備を完了させた上で、個別プロジェクトとして移行を進め、システムを最適化しつつ運用を継続する。

オンプレミスからクラウド環境への移行における評価・準備・移行の3つのステップ

 特に評価のステップで重要となるのが、“移行方法”の策定だという。AWSでは、典型的な移行戦略を、頭文字をとって“7R”と呼ぶ。

 システムが稼働する場所を変える「リロケート(Relocate)」、アプリケーションになるべく手を入れず新しい基盤に乗せ換える「リホスト(Rehost)」、移行先のOSやソフトウェアを変更する「リプラットフォーム(Replatform)」、現状の機能と同等の役割を果たすパッケージソフトやSaaSを調達する「リパーチェス(Repurchase)」、アプリケーションの構造やプログラム自体を変更する「リファクタリング(Refactoring)」。そして、そのまま限界まで使い続ける「リテイン(Retain)」や廃止する「リタイア(Retire)」という選択肢もある。

 これらの戦略に沿った、クラウド移行や移行先となる各サービスをAWSは用意をする。

クラウド移行の7つの移行作戦、対応する支援サービスを用意

 もちろん、メインフレームのワークロードも移行の対象だ。「WindowsサーバーやLinuxサーバーなどの資産は移行の目処がたってきたが、最後にメインフレームが残ったという相談が増えている」と小林氏。

 この要望に応えるために展開するのが「AWS Mainframe Modernization」だ。2021年11月に発表され、2022年の12月にアジアパシフィックの東京リージョンで、2023年12月に大阪リージョンで一般提供を開始している。評価・準備・移行の3フェーズに沿って、メインフレームのAWSへの移行を総体的に支援する。支援の中心となる移行戦略は、7Rの中での“リファクタリング”と“リプラットフォーム”となる。

評価・準備・移行の3ステップで移行支援を展開するAWS Mainframe Modernization

AWS Mainframe Modernizationがカバーする移行戦略

 AWS Mainframe Modernizationで提供する、リファクタリングを支えるテクノロジーが「Blu Age」だ。メインフレームのアプリケーションで実装されたレガシーなプログラムを、Javaベースに自動変換する。「メインフレームのプログラムを人間が解読して、書き直すには手間がかかる。移行の負荷をできるだけ減らすために、プログラムの部品だけではなく自動変換の機能も提供する」と小林氏。

 リプラットフォームにおいても、メインフレームのプログラムを、そのままAWSのインフラストラクチャーやOS、データベースで動かす「Micro Focus」のテクノロジーも用意。リファクタリングと比べて更に移行作業を抑えてAWSへ移行ができる。

 その他にも、メインフレームに蓄積されたデータを利用するための、データ複製やファイル転送のサービスも提供する。

AWS Mainframe Modernizationが提供する機能

 AWS Mainframe Modernizationを用いて、リファクタリングでは“アメリカンエキスプレス グローバルビジネストラベル”や“ジョナス フィットネス ソフトウェア”、リプラットフォームでは“カンタス航空”といった事例が生まれていた。今回日本初のユーザーとしてモダナイゼーションを進めるのが、明治となる。

脱レガシーで最後まで残った“約14%”のメインフレーム 年間維持費は“数億円”

 明治は、2009年の明治製菓・明治乳業の経営統合で設立された明治ホールディングスにおいて食品セグメントを担う企業だ。

 同社は、2000年代にメインフレームを中心としたアプリケーションで業務効率化を推進。この頃からウェブアプリケーションの開発・展開を進めていたものの、データ基盤の多くがメインフレームとなることから、周辺システムをオープン系で構築するにとどまっていたという。

 そして、2009年の経営統合では、両社の業務アプリケーションを統合。この頃からアプリケーションの刷新を目的にオープン化が進んだ。2020年代に入ると、軽減税率やインボイス制度といった法改正の対応、ビジネスの環境の変化により、メインフレームでの開発や保守の負担が大きくなってくる。
 
 明治の執行役員 デジタル推進本部 本部長である古賀猛文氏は、「2020年代では、同時にクラウドサービスの活用やローコード・ノーコード開発といった新たな基盤を選択するケースが増加し、その結果、メインフレームで稼働する業務アプリケーションは全体の約14%となった」と説明する。

明治 執行役員 デジタル推進本部 本部長 古賀猛文氏

 この約14%のメインフレームのアプリケーションは、ビジネスロジックの変更頻度が少なく、手をつけなくても良い領域であった。だからこそ取り残されていたが、一方で年間維持費は“数億円”かかっていたという。

 古賀氏は、「社内にはまだCOBOLなどを扱える人材がいるが、扱えない外部や新規採用の人材は即戦力で活躍できない。30年以上システム改修を繰り返し、処理も複雑化、利用し始めたクラウド基盤とのシーレスなデータ連携も難しい。保守や更新コストも右肩上がりで、ベンダーロックインで切り替えも容易ではなかった」とメインフレームの課題を挙げる。同社は、メインフレーム運用の契約が2025年4月に迫るのをうけ、最後まで残ったメインフレームのモダナイゼーションを決意した。

メインフレームが抱えていた課題、14%の業務アプリに年間数億円のコストが発生

  明治はまず、メインフレームで実行されている1万5000の処理を棚卸し、モダナイゼーションすべき範囲を特定。ビジネスのトレンドや変化に対応すべきアプリケーションにおいては、ローコード・ノーコード開発で対応を進め、さらに非競争領域のアプリケーションは、パッケージソフトを適用した。

 そして、ビジネスロジックを変更しない、現行維持したい領域を、モダナイゼーションの対象として確定。さらにこの領域の中で、処理数1500となる販売系基幹システムの領域は、「業務データが今後のデータ利活用に貢献できる」(古賀氏)として再構築、データのサイロ化を解消して、部品化によるインテグレーションを進めた。

 最後まで残った、原料や包材の調達や原価計算、物流費計算などの処理数800のシステムを、大きな時間とコストをかけずモダナイズすべく、AWS Mainframe Modernizationを利用した。

まずはモダナイゼーションすべき範囲を特定

モダナイゼーションすべき範囲から販売系基幹システムは再構築

AWS Mainframe Modernizationの“ファーストペンギン”として移行を推進 年間維持コストの約80%減を見込む

 2021年11月にAWS Mainframe Modernizationが発表された3か月後に、明治は同サービスについてAWSジャパンに問い合わせた。「この時点で国内事例は一切なかったが、明治の進める方針にあっていたため、まずはPoCを実施した」と古賀氏。

 PoCの結果は良好で、他サービスとの比較検討の上、2022年11月にはAWS Mainframe Modernizationの採用を決定。古賀氏は、「国内初事例というリスクは当然あったが、最終的には、『デジタルで「やりたい」を「できる」に変える。』というデジタル推進本部のミッションに沿って判断した。すぐに動いて、完璧じゃなくてもいい、前例は自分たちでつくれという想いで決めた」と説明。国内初事例はむしろ“モチベーションに繋がった”という。

AWS Mainframe Modernization採用までの流れ

デジタル推進本部のミッションにしたがいファーストペンギンに挑戦

 他サービスとの比較においても、実装期間が半分以下で、コスト削減につながることも決め手となった。また、Blu Ageの自動変換は、処理単位ではなく全処理単位で実行され、個別修正が不要な点も、実装期間の短縮に寄与するという。

 なお、ビジネスロジックは自動変換されるが、明治側で実行した作業もいくつかある。独自のアセンブラ言語でのユーティリティ処理は、明治でJavaにリライトし、自動変換時にAWS側に組み込んでもらったという。その他にも、周辺システムの修正、帳票およびスケジューラ、過去データの移行の作業などがあったが、「これらはどのサービスを選定しても同じなため、いかに自動変換を短期間で、低コストで実行できるかが鍵だった」と古賀氏。

 今回の移行プロジェクトの成果として、数億円だった年間維持コストを約80%削減することを見込んでいる。加えて、AWSのクラウドネイティブ基盤に移行することで、データの利活用が進み、データドリブン経営のための基盤が整うという。古賀氏は、「これらのデータを他のシステムと連携したり、AIに活かすことで、新たなステージに最短距離で進みたい」と今後の更なるDX推進に向けての意気込みを語った。

移行プロジェクト導入効果

 アマゾン ウェブ サービス ジャパンの小林氏は、「明治様がファーストペンギンとしてチャレンジされ、AWS側でもカバーできるところ、できないところの知見が溜まり、サービス改善のポイントが把握できた。今回得られたナレッジを活かして、よりマイグレーション支援をレベルアップさせたい」とコメント。明治の他にも、AWS Mainframe Modernizationで移行を進めている国内企業は複数あるという。

フォトセッションの様子(左から 明治 デジタル推進本部 情報システム部 業務1グループ グループ長 河合利英氏、明治 執行役員 デジタル推進本部 本部長 古賀猛文氏、アマゾン ウェブ サービス ジャパン サービス&テクノロジー事業統括本部 技術本部長/ソリューションアーキテクト 小林正人氏)

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