高速なプリンターはRS-232-Cでは転送速度が足りず
セントロニクスI/Fが業界標準に
さて、このCentronics 101は平均132キャラクター/秒、最大で165キャラクター/秒での印刷が可能であった。幸いというか、Centronics 101は内部にコントローラーを搭載しており、"B"という文字を印刷するのに先ほど示したビットマップを送らなくても"B"の文字コードを送れば、プリンター内部でこれをビットマップに展開して印刷する機能を持っていたが、それでも平均132キャラクター/秒、最大165キャラクター/秒の転送が必要になる。
当時のことなのでまだ7bit/キャラクターであるが、必要な転送速度は最大でも924bps程度。したがってシリアルでも十分間に合うし、実際Centronics 101はオプションでRS-232-Cに対応(最大9600bpsまでサポート)していた。それにもかかわらずRS-232-Cが標準ではなかったのは、もっと高速なプリンターがすでに存在していたからだ。
ラインプリンター(1行分をまとめて印刷する方式:Centronics 101も、基本は一行分のデータを受け取ってから印刷を開始するのでラインプリンターとも分類される)の中でも、印刷桁分の印刷ユニットをドラムの形で搭載し、極めて迅速に印刷が可能なものがすでに存在していた。
例えばIBMが1959年に発表したIBM 1403プリンターは1行あたり132桁の印字が可能だが、初期モデル(Model 1/2)では毎分600行、後期モデル(Model N1)では毎分1100行に達している。初期モデルですら毎秒1320文字=9240bps、後期モデルでは16940bpsの転送速度が必要だった。
ちなみにこのIBM 1403は高速な部類ではあるが、最高速ではなく、世の中にはもっと高速なプリンターが存在した。こうなってくるとシリアルでつなぐのがそもそもナンセンス、パラレルでいいと当然なってくる。Centronics自身も、創業は1971年(つまりCentronics 101の発表後)であるが、元はWang Laboratoriesというワープロの元祖である会社の印刷装置部門が分社化・独立したものであり、業務用にもっと高速なプリンターを扱っていた。
この際に利用されていたのが8bitのパラレルI/Fで、Centronics 101でもこれをそのまま採用し、それが業界標準になった格好だ。
バス構造は簡単で、nStrobe(クロック信号:このnStrobeの立ち上がりに合わせてデータの送受信が行なわれる)とData 1~8(8bitのデータ信号)、それと制御信号(nAck/Busy/Perroe/Select/nAutoFd/nInit/nFault/nSelectIn)から構成される。
すべてツイストペアになっているのは、配線をけっこう引き回す際のノイズ対策を考えてのことだ。なにしろプリンターはうるさかったので、しばしば扉の閉まる別の部屋に置かれたりした。試しにAmazonで調べたらまだ15mの製品が売っていたが、昔はもっと長いプリンタケーブルもあったように記憶している。こうした長い距離を引っ張りまわすとなると、ツイストペアの上に外部シールドくらいしないと問題が起きやすかったということだ。
ケーブルのコネクターだが、Centronics 101に搭載されているコネクターが下の画像である。これはプリンター側の仕様であって、ホスト側がどうなっているかはミニコンメーカー次第という感じだったが、後追いのプリンターメーカーやコンピューターメーカーもこのコネクターとI/Fを利用するようになったことで、これが結果的に業界標準化したという格好である。
ちなみにCentronics自身は1987年にGenicom(General Electricのプリンター部門などが独立した会社)に買収され、そのGenicomは2003年に同じくプリンターメーカーのTallyと合併してTallyGenicomとなり、そのTallyGenicomは2009年にプリンターサプライメーカーのPrintronicxに買収されている。その意味ではまだCentronicsがなくなったわけではないのだろうが、そうしたCentronicsの運命とは別にセントロニクスI/Fは業界標準となりさらに拡張された。
セントロニクスのもともとのI/Fは単方向の送信である。nStrobeとData 1~8はホスト→プリンターに、Ack/Busy/Paper Emptyはプリンター→ホストに転送する仕組みで、逆方向の転送は考えられていなかった。転送速度も理論上で100KB/秒、実質10KB/秒程度でしかなかった。
ところが1991年になると、業界15社(Adaptec、キヤノン、Digital Products、Extended Systems、GENICOM、IBM、KODAK、京セラ、NEC、沖データ、Pennant Systems、QMS、Tektronix、Unisys)によりNetwork Printing Allianceという業界団体が策定され、ここがセントロニクスI/Fをベースにした標準規格を策定する。これは最終的にIEEE 1284-1994として標準化された。
このIEEE 1284-1994では、新たにNibble Mode/Byte Mode/ECP Mode/EPP Modeという4つの転送モードが追加された。Nibble Modeは1992年にHPが自社プリンター向けにセントロニクスI/Fを自社で拡張したBitronicsと呼ばれる仕様を取り込んだもので、制御信号線を使って4bitのデータを送信できる仕組みである。これは拡張プリンターステータスの取得などを目的としている。
Byte ModeはData 1~8を使ってホスト→プリンターに転送するのでこれだけでは従来のセントロニクスI/Fとなにが違うのかわからないが、PS/2で追加されたDMA転送に対応して連続的にデータを送り出せる仕組みが搭載された。
EPP(Enhanced Parallel Port)はデータ通信が双方向(ただし半二重)に拡張され、プリンター以外のデバイスの利用が可能になっている。その昔(確か1996年ごろ)には、カノープスがV-Portという静止画ビデオキャプチャー製品を発売したことがある。これはプリンターポートに接続して、最大1500×1125ピクセルの画面キャプチャーが可能(画像入力はRCAとS端子)というものだった。
このEPPにRLE(Run Length Encoding)という可逆圧縮技法を組み合わせて転送速度を向上させたのがECP(Extended Capability Port)で、EPPが最大2MB/秒の転送速度だったのにECPでは最大2.5MB/秒まで向上している。
ちなみにこの4つの転送モードはIEEE 1284 Modeと呼ばれており、これとは別に従来のセントロニクスI/Fとほぼ互換のCompatible Modeもあるため、5モードが利用可能になった。
コネクターは、IEEE 1284では25ピンのD-Sub、36ピンのアンフェノール、それと同じく36ピンのMDR(MDR36と称する)の3種類が定義され、それぞれIEEE 1284-A/B/Cと名付けられている。また電気的にはIEEE 1284 Level 1とLevel 2があり、Level 2の方がより長距離伝送が可能なほか、耐電圧の幅が広がるなどしている。
ちなみに先に15mのプリンターケーブルを紹介したが、仕様上は最長のケーブル長は規定されていない。したがって、長いケーブルをつなぐとちゃんと動かないことも起こり得る(起こり得た)。こうした場合に対応して、プリンターケーブル延長器という機器もあった(例:https://www.amazon.co.jp/dp/B000EZ8NDC)。このIEEE 1284の登場以降、セントロニクスI/FはこのIEEE 1284互換に切り替わっていくが、呼び名はセントロニクスI/Fがそのまま使われることが多かった。
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