アップルのARグラス「Vision Pro」でスマホの次がハッキリ見えた! 「WWDC23」特集 第36回
【自腹レポ】アップルVision Proの「歴史的価値」はなにかを考える(西田宗千佳)
2024年02月13日 07時30分更新
メタの「Quest 3」とは異なるビジネスモデルと狙い
「Vision ProもMeta Quest 3も似たことができるのでは」という話は、結局のところそういう話なのだ。だが、「どこにフォーカスしたのか」「どういう層に向けて作ったのか」が違うと、当然体験は変わってくる。
メタはMeta Questシリーズについて、「とにかく普及させること」を1つの軸に置いている。VRにおいて現状もっとも魅力的なものはゲームであり、そのビジネスモデルの根幹は「ゲーム専用機」に近い。ゲーム専用機のビジネスモデルとは、特化したハードウェアをできるだけ高いコストパフォーマンスで、でも安価に作り、できる限り長く売り、ソフトウェアの販売+ハードウェアの販売から収益を得ることだ。
Meta Questシリーズの場合、ゲーム専用機ほど長いサイクルになっていないが、VR自体の認知度を高めて「メタバース」としての商圏を拡大するため、本体価格を抑える戦略を採っている。ソフトウェアの進化で機能をどんどん進化させていて素晴らしいが、できることには限界がある。Quest 3でビデオシースルーに歪みがあるのは、それをすべて補正できるだけのカメラ画質もなければ、演算力もないからだ。「このコストで体験できる、最大限のところ」を引き出そうとしている。
そうなると、ゲームとしての体験は現状ベストな形になるが、空間にウィンドーなどを並べて仕事をする体験としては、現状ベストではない。今後のOS改善で変わってくる可能性もあるが。
一方で、Vision Proは違う。高価格であまりにぜいたくなハードウェア構成であり、この構成だから、この画質が生まれるのだ。仕上げも非常にコストがかかっている。3500ドルからという販売価格だが、おそらくこれでも利益はほとんどない。
おそらくだが、アップルは「低価格にならないなら、利用者が落胆しない品質を目指そう」と決めたのだろう。まだ難点も多々あるが、空間にウィンドーを並べて活用するデバイスとしては、これ以上のものはない。ここからまずはOSを洗練させ、使い勝手を上げていくのだろう。
空間コンピューティングという要素が全く見向きもされないなら、この路線はこのまま消えてくだろう。だが、そうなるとは考えづらい。というより、アップルは「これが一定の支持を得るまで続ける」つもりでいるのではないか。低コスト版の噂も出てきているが、どこをどうカットしていくかは、ユーザーの利用状況から決まっていく。それを見るためにも、「とにかく全部乗せ」でやってきた感がある。資金も人材も、そして高価なハードウェアを売るブランド力もある、アップルにしかできないある種の力技だ。
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