一期一会をイノベーション創出につなげる 現代のビジネス版「茶室」が堺市中百舌鳥にオープン
堺市中百舌鳥エリア イノベーション交流・共創拠点「Community room cha-shitsu(略称:茶室)」オープニングセレモニー
提供: NAKAMOZUイノベーションコア創出コンソーシアム、堺市
堺市では中百舌鳥エリアをイノベーション創出拠点と位置づけ、社会課題の解決や地域に新しい価値をもたらす活動に取り組んでいる。これまでコロナ禍で閉ざされていたリアルな交流機会の創出にも力を入れており、その取り組みのひとつとして「さかい新事業創造センター(S-Cube)」の1階にイノベーション交流・共創拠点「Community room cha-shitsu(略称:茶室)」を開設した。ここでは2023年10月20日に開催されたオープニングセレモニーの内容と施設の詳細を紹介する。
リアルな人と人の交流がもたらす新・スペースがオープン
S-Cubeは南大阪最大級のインキュベーション施設として約20年間運営され、これまでに180社以上の企業家を輩出しており、現在も40社を超える企業が事業成長に向けた取り組みをしている。その1階に新たに設けられた「Community room cha-shitsu(以下、茶室)」は、堺生まれの偉人・千利休が広めた「茶の湯」文化のように、起業家、事業家、次代を担う若者、市民、そして支援者の人々が立場を超えて広く集い、情報や知見を交換し互いに得ることで、新しい価値を創り出す空間を作り上げることを目指している。
千利休が生誕500年を迎えた翌年に誕生したS-Cubeの「茶室」は、吹き抜けで広々とし木のぬくもり感じる洗練された空間になっており、大型スクリーン、Wi-Fi、電源なども完備され、仕事や勉強はもちろんイベントからミーティングまで幅広く利用できる。
訪れる人々の交流によって様々なアイデアや新規ビジネスが生まれる場にしていくという思いは、格子をイメージしたロゴマークでも表現されている。堺ブルーとS-Cubeのイエロー、人々を表すグリーンのラインが交差するデザインは、S-Cubeに入居するIchigo CREATIVE BASEMENTS(イチゴクリエイティブベースメンツ)が手掛けている。
イノベーションのヒントは身近なところにある
コロナ禍で長らくオンライン主体で活動してきた堺市にとって、茶室のオープンはリアルな交流を後押しする上でも重要な拠点となる。施設のお披露目も兼ねたオープニングセレモニーには、学生、起業家・スタートアップ、市内外の中小企業や、支援機関、金融機関、メディアなど、今後の活動を盛り上げていくキーマンとなる人たちが参加した。
堺市長の永藤英機氏も出席し、オープニングのあいさつで「歴史のある堺から未来をつくる挑戦を積極的にしていくためにも、千利休の教えである一期一会を大切にし、現代のビジネス版茶室ともいえる場からイノベーションを生み出していただくことを心から期待している」と述べ、今後の活動を力強く支援していくという思いを感じさせた。
続く「市長と語る、堺のイノベーションの未来~堺に新たな流れを。つくる場を"つくる"~」では、茶室の運営を担当する株式会社ATOMica 代表取締役Co-CEOの南原一輝氏がモデレーターを務め、関西学院大学経済学部に在籍する学生起業家/学生団体「ein'【エイン】」代表で茶室のコミュニティマネージャーのひとりでもある藤本樹林氏と永藤市長の3名による対談が行なわれた。
その中で永藤市長はあらためて「堺市の魅力はその歴史にある」と話す。「堺市は、中世から国際貿易都市として栄え、海外から入ってきた様々な文化や技術を工夫して日本中に広げるという役割を果たしてきた。それを昔話に終わらせず、これからの時代にもそうした関わりが出来る次の主役にしていきたい」と述べた。
藤本氏は堺市で生まれ育ち、海外へ一人旅したことで広がった価値観を多くの人たちに共有してほしいという思いから学生団体「ein'【エイン】」を立ち上げた。今ある良いものを長続きさせ、新しく生まれ続ける仕組みを作りたいという思いから、「いいモノを、愛されるモノへ」というビジョンに掲げ、Z世代が主体で創り上げるマルシェ(市場)を、堺市を中心に開催している。
堺市を活動の拠点にしたことについて藤本氏は、「好きな言葉にニーチェの”足下を掘れ、そこに泉あり”というのがあり、世界を変えるならまず自分の住む場所を変えていかなければと考えた」と話す。その堺市には新しい挑戦を受け入れてくれる気風があり、「1周年を迎えたマルシェの活動も堺市のいろんな人たちの協力によって続けられました」と語った。
同じく学生時代に起業経験がある南原氏は、その時の事業を売却して大手総合商社に就職し、再び独立して起業に取り組んでいる。ATOMicaは自治体や大学、地元企業と一緒に様々な人たちが交流できる施設の運営とそれを実現するための仕組みを展開している会社で、本社は宮崎県にあるが設立から5年目を迎えた次の挑戦の場が、南原氏が生まれ育った堺市になったのは、失敗を次の力に変えていくことを後押しする気風がここでも影響しているのかもしれない。
イベントでは参加した学生などからの質問に答える時間も設けられた。そこで永藤市長は「イノベーションというとものすごいことで、自分に全く関係ないみたいな印象があるけれど、今はまだ出来ていないもの、これまで多くの方が気づかなかったかもしくは気づいたとしても何らかの制約ができなかったものから見つかることもある。ヒントは身近なところにあり、進化した技術やICTという大きな武器もある今こそアンテナを張って課題を見つけ出し、活動につながる第一歩を踏み出していただきたい」と学生たちを鼓舞した。
最後に永藤市長は茶の湯の心得である「和敬清寂」という言葉を紹介し、「主客が互いを敬い合う交流の場としてより多くの人たちが茶室を利用し、自身のイノベーションを次々と生み出してほしいと」というメッセージで対談を締め括った。
堺に集う人と人、人と情報をつなぎ、新たな文化を発信する場をつくる
続いて、「茶室」の取り組みと施設についてあらためて紹介。特に「茶室」のポイントとなるのがソフト面をサポートするコミュニティマネージャーが常駐すること。「茶室」の運営を担当するATOMicaから南原氏とコミュニティマネージャーを務める2名が登壇した。
ATOMicaでは多種多様な人々から様々な想い、願い、相談が(Wish)を集め、それをきっかけに人と人を結び続ける(knot)という出会いの結び目にすることを大事にしている。南原氏は「様々なプログラムを通じて交流と共創を生み出し、そこで得られた声をテクノロジーの力も使いながらカタチにしていきたい」と話す。
具体的にはコミュニティマネージャーを通して全国の人たちと連携できる「コミュニティKNOT」を通じて、堺市だけでなく全国の同じような拠点とのつながりを創出していく。
コミュニティマネージャーのひとりである株式会社 ATOMica Community Leadの和田浩志氏は今後の活動について、定期的にイベントを企画し、学生から子育て世代の女性まで幅広く参加し、働くことの可能性を変えていきたいと説明した。自身では「茶室で新しいドラマを生み出し、堺のパワースポットとしてみんなが集まる場所にしたい」という思いを語った。
もうひとりのコミュニティマネージャーである山本実憂氏は大学生の時からスタートアップ企業にインターンとして事業に携わってきた経験や保育士の経験があり、「女性や学生起業家のサポート、イベントの相談や要望などを受け入れる窓口として、居心地のいいスペースづくりに力を入れたい」と話す。
最後にこれからの目標として「地域を越えて人と人をつなぎ、心地良い場所を一緒つくっていきたい」という意気込みも語られた。今後の「茶室」での企画についてもすでにいろいろ計画されており、新たな文化を発信する現代版の茶室としてどのような展開になるのか、今後も引き続き注目していきたい。