AWS re:Inventで披露されたデータベースの革新
AuroraはServerlessからLimitlessへ 量子チップのR&Dも披露
2023年11月29日 11時00分更新
ライオットゲームスがAWSと乗り越えた山
続いてデサントス氏は、ライオットゲームスのインフラを統括するブレント・リッチ氏を招き入れる。同氏は5年ほど前、タイトルがLeague of Legendsのみだった同社に入社し、コロケーションで運用していたインフラをクラウドにシフトし、複数のタイトルを展開できるようにしたインフラ面の立役者だ。「AWSにはライオットゲームスの運営に必要なサービスのすべてが揃っていた」とリッチ氏は語る。
柔軟性や迅速性を実現したクラウドインフラにより、「VALORANT」など複数のタイトルを展開できるようになった同社は、2020年に満を持して複数形を付けたライオットゲームス(RIOT GAMES)に社名を変更している。
では、どのようにAWSのサービスを活用しているのか? たとえばVALORANTのようなシューティングゲームでは、壁に張り付いているプレイヤーが射撃で有利になるピーカーズアドバンテージ(飛び出し有利)という現象が発生する。これはネットワーク遅延で発生する描画速度の差によって起こる問題で、ゲーム事業者はゲームの公正性を阻害しないような対策が必要になる。その点、ライオットゲームスは低遅延を実現するAWS OutpostやAWS LocalZoneを活用することで、1秒間に128回という高い頻度でプレイヤーのステータスをサーバー側と送受信することを可能にし、全プレイヤーに対する遅延も35ミリ秒以内に抑えることができたという。
では、新タイトルをローンチして2020年はいい年になったかというと、そうではなかった。VALORANTは大ヒットを収めたが、コロナ禍でeSportsの大会がなくなってしまったからだ。そこで同社はAmazon WorkspaceやElemental Server/Liveなどを活用し、在宅の社員がオンラインでもイベントを運営できるようにした。「プロデューサー、エディター、キャスターが別の場所にいながら、イベントを開催できるようにあった。大量の人員や機材を世界中に派遣する必要はない」(リッチ氏)。
コロナ禍が明け、リアルイベントが戻っても、30以上に膨らんだマイクロサービスをどのように構築・運営するかという課題が残った。これに関してはAmazon EKSのようなサービスで迅速なコンテナ基盤を構築し、改善要求をロードマップに入れてくれたことで乗り切れたという。
ライオットゲームスはAWSの採用により、ダウンタイムがなくなったという。また、14ものデータセンターをクラウドに移行することで、10年前のゲームを数千万のユーザーで楽しめるように進化させることが可能になった。リッチ氏は、「飛んでいる飛行機を作り直すようなもの」と表現する。そして、グローバルでの新タイトルのローンチも36ヶ月で実現できるようになった。最後、リッチ氏は「ニーズを考える際に、6ヶ月前のことが正しいとは思わないこと。市場の変化はとても速い」とアドバイスした。
Redshift ServerlessにAIを用いた最適化機能が追加
サーバーレスジャーニーの最後はデータウェアハウス(DWH)だ。DWHは巨大なデータセットが走るように作られた特別なデータベースで、複雑なETL処理やアドホックなクエリをこなすように設計されている。しかし、DWHを構築するには単に適切なサーバーやストレージを選ぶだけではなく、手動で設定変更やチューニングを行ない、性能やコストを最適化する必要があった。
こうした課題の解決すべく2021年にローンチされたのが、「Amazon Redshift Serverless」になる。稼働状態によって、サーバーのキャパシティを自動的に調整する機能を持つサーバーレスのRedshiftだ。こうしてDWHの課題は解決したように見えたが、要件の厳しいRedshiftの顧客からは、うまく利用できないワークロードがあると言う。デサントス氏は、「ほとんどの場合、小さいチューニングされたクエリで一般業務をこなせる。しかし、1日に1回、1時間に1回程度ETLジョブが走るほか、アドホックなクエリで他のユーザーの処理が止まってしまうことがある」と指摘する。
これに対して、Redshift Serverlessはクエリのボリュームによって、スケールを変えている。あらかじめ用意されているRedshiftのスケーリングユニットでクエリをさばき、同時クエリ処理の要件が上がるとキャパシティが追加されるという。しかし、クエリが小さければ問題ないが、複雑なETL処理や巨大なクエリリクエストが来た場合は、キャパシティを超えてしまうこともある。もちろん、ETL処理やクエリを別のDWHに逃がすという方法もあるが、構成が複雑になり、コストもかかってしまう。
この課題を解決するのが、今回発表された「Amazon Redshift Serverless Next-Generation AI-driven scaling and Optimizations」になる。文字通りAIを用いた予測により、自動的にスケールする機能を持ち、キャパシティをスケールさせる反応性も高められている。具体的には機械学習を用いて、キャッシュリソースやローカルおよびグローバルクエリを解析し、単にSQLを見る以上のレベルでクエリの複雑性を理解できるという。「実際、8割のクエリは以前見たことがあるもの。どのように高速化すればいいかを理解できる」とデサントス氏は語る。
クエリに対するスケーリングもダイナミックに調整できる。リニアにスケールしてもパフォーマンスを確保できないこともあれば、単にリソースを追加してもコストがかかるだけになるケースもあり、両者を満たすような最適化が重要になる。そのため、Amazon Redshift Serverlessではパフォーマンスを最大化するか、コストを最小化するか、両者のバランスをとるかをユーザー自身が選択することができる。