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まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第95回

【前編】ParadeAll 鈴木貴歩さんインタビュー

なぜ日本の音楽業界は(海外のように)ストリーミングでV字回復しないのか?

2023年11月18日 15時00分更新

文● まつもとあつし 編集●村山剛史/ASCII

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音楽業界のデジタル戦略からエンタメ全般のアドバイザーへ

まつもと 10年の変化をコンパクトにまとめていただき、ありがとうございます。ではここで、前回の記事と比較して読む読者さんもいると思うので、鈴木さんの当時のお立場と、現時点で取り組んでいらっしゃることを明確にしておきたいと思います。

鈴木 2014年のインタビュー時はユニバーサル ミュージックで、デジタル戦略を担う仕事をしていました。当時、ようやく世界で普及してきた音楽ストリーミングを日本にどう上陸させて、なおかつアーティストがしっかりとマネタイズできるようなプロモーションとマーケティング戦略を検討していました。

 そこから約10年、音楽ストリーミングの状況が大きく変化していくなか、私は現在エンタメとテクノロジーが重なる領域に特化したコンサルティング会社を経営しています。

 新しいテクノロジーに対して、マネジメント会社やテック企業が新しい事業や戦略をアップデートしていく際のビジネスコンサルティングや、事業化の伴走をさせてもらっています。そのなかで、私にとっては割と既視感の大きかったストリーミングについてアドバイスすることが多かったですね。

 ここ2年ぐらいではWeb3、メタバースといったブロックチェーンベースを使ったテクノロジーと、そこから生まれた新しいエンターテインメントをどのように日本のエンタメ業界に活用できるか、というところのアドバイザリーを務めたり、コンサルティングしたりすることが増えました。

 ストリーミングの普及は完了したということで、今はさらに10年先を見据えた音楽マーケットを作ることに注力しています。

まつもと 今回のインタビューのきっかけにもなった、JASRACの理事への就任も大きな出来事かと思います。最初に知ったときはびっくりしました。JASRACも変わったなと。

鈴木 大きなきっかけになったのは、2019年5月31日に開催したJASRACの国際シンポジウムです。そのときはJASRACの上部団体にあたる「CISAC」の会長――シンセサイザー奏者の元祖的な存在であるジャン・ミッシェル・ジャール――も来日したのですが、彼の講演やインタビュー、シンポジウムのモデレーター役を務めたこと、そして私のテクノロジー関連への理解を評価いただいたようです。

まつもと テクノロジーについて考えていかなければならないというセンスを持った方がJASRACの中にもいるということですね。

鈴木 そういった意識を持たれている方は、外から見えているより多いですよ。対外的な発信やシェアについては弱いので、そういったところも含めて私もアドバイスさせていただいています。

まつもと 鈴木さんの現在の立ち位置が非常によくわかりました。

前回取材は2014年。当時はストリーミングサービスの本格上陸前。spotifyが日本でサービスを始めるのは結局この取材から2年後の2016年(画像クリックで前回記事に飛びます)

デジタル化でV字回復していない理由は「価格差」にあり

まつもと 次に、日本市場の独自性についてうかがいます。『デジタルコンテンツ白書』の音楽分野において脇田敬さん(音楽プロデューサー、マネージャー。株式会社LAB代表取締役)は日本のレコード産業と世界の音楽売上金額の推移を比較されています。

 このなかで脇田さんが指摘しているのは、日本の市場規模があまり変わっていないこと。CDの売上は落ちており、それを配信が十分にカバーできていない。世界を見ると、ストリーミングの売上がぐんぐん伸びていて市場規模も右肩上がりと分析されています。これは日本の課題ではないかと思うのですが、鈴木さんはどうご覧になっていますか?

鈴木 日本のマーケットでは音楽ビデオ、つまりDVDやBlu-rayの売上が非常に大きいです。具体的にはアイドルやガールズ/ボーイズグループの作品が比較的高い単価で売られています。

 と同時に、CDの売上は順調に沈んでいきます。その合算ですと市場規模が「ちょっと下がっている」ぐらいの感じだったので、実際には右肩下がりであることに業界は気づいていないのか、と私は思いながら数字を見ていました。

 また、私が2年前に書いた「日本の音源市場がいくらデジタル化してもV字回復しないたった1つの理由」でも触れていますが、「日本はCDに依存しているので、ストリーミング化によって海外同様市場がV字回復するだろう」とザックリ言う人が多いようです。しかし私は『いやいや全然そんなことありませんよ』と思っていました。

日本市場の特徴については2021年3月の記事で論考されている

 というのも、欧米はCD1枚の価格とストリーミングの月額料金が近いからです。アメリカの場合、CDの価格はストリーミングの1.4倍程度。つまり、ストリーミングの価格はCDのほぼ3分の2ぐらいです。

 しかし日本では、ストリーミングの価格は欧米と同じ1000円程度。対してCDの価格は3000円。つまり、海外の2倍か3倍ぐらいストリーミングの売上が上がらないと、CDの凹んだ部分はキャッチアップできないことになります。

 この部分を根本的に変えないと、日本がグローバルの売上と同様にV字回復するにはほど遠いというのが根本的なイシューだと思います。これを私は「Japan Pricing Gap(ジャパン・プライシング・ギャップ)」と呼んでいます。

まつもと その価格はプラットフォームが動かないと変えられないと思うのですが、たとえば業界がSpotifyなどに対して、「日本のサブスク、月額料金を上げてくださいよ。そうしないと分配が十分にされません」というような交渉をしていくってことなのでしょうか?

日本含む5ヵ国における、CDの価格とストリーミングサービスの月額料金を比較すると……(ParadeAll調べ)

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