このページの本文へ

前へ 1 2 次へ

佐々木喜洋のポータブルオーディオトレンド 第229回

LE Audioの始まりは補聴器に向けた低消費電力通信、Bluetooth SIGのキーマンに聞く

2023年10月22日 17時00分更新

文● 佐々木喜洋 編集●ASCII

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷
Auracastのデモ

Bluetooth SIGはLE Audioの応用例であるAuracastのデモもCEATECで開催した。

LE Audioとコーデック技術について聞く

 次にLC3よりも高音質のLC3plusは標準になるのかと聞いた。

コルドラップ 「LC3plusはオプション的なものだ。フレームレートの向上やより高いサンプリングレートの伝送などの効果はあるが、Bluetoothでは今のところLC3plusのオプションがすべて使えるわけではない。現在のロードマップを考えるとBluetoothとの相性はまだ良くないと考えている」

 続けて「例えばLDACのようなほかのコーデックもLE Audioで使用できるのか」と聞くと、「LC3はBluetoothクラシックオーディオ規格のSBCと同じで、必ずサポートが必要なコーデックだが、他のコーデックでも構わない。もちろんLDACもLE Audioで使用して構わない」とのことだ。

 次にLE Audio「のみ」のイヤホンについて質問した。最近発売されたソニーの「INZONE Buds」のように、LE Audioのみしか対応しないイヤホンも現れたからだ。Bluetoothが以前から示している“LE Audio普及のロードマップ”にもLE Audioのみというカテゴリーが存在している。

 そこで、INZONE Budsは、ANCをオンにした状態でも18時間の再生が可能だが、これはLE Audioのみに対応した効果なのかと聞いてみた。

コルドラップ 「LE Audioの消費電力低減効果についてはその通りだ。ただし、仮にBluetooth Classicのオーディオ規格とLE Audio規格の両方をサポートしている機種でLE Audioを使っても、Bluetooth Classsicのオーディオ規格に引っ張られて消費電力が増すことはないと考えている。とはいえ、これからのイヤホンはLE Audioオンリーという方向に進んでいって欲しいとは思っている」

 製品の実装に依存する部分もあると思うが、興味深い内容だと思った。

アップルがLE Audioをどう使うかは分からない

 LE Audioの普及には課題もある。Andorid 14はすでにLE Audioに対応したが、アップルの動向もキーだろう。アップルの動向についても聞いてみた。

コルドラップ 「たぶんアップルも動いているとは思うが、アップルはそうしたことは話してくれない。例えば補聴器やAuracastデバイスなどの流れなど、一般に言われていることから考えると、アップルもいずれサポートする方向に動くとは思う。また、たしかに音楽を楽しむとかスマートフォンを使うような条件ではアップルが重要かもしれないが、例えばAuracastはLE Audioだがスマートフォンは必須ではない」

 補足すると、別掲載の「Auracast Experience」の記事に書いたように、USBドングルを使用すればアップル製品でもLE Audioは使用できる。また、Auracastのチャンネル選択にスマホアプリを使うことがあるが、Auracastの音声を受信するのはあくまでイヤホンであって、スマートフォン経由でLE Audioを受信するわけではない。LE Audioの技術を使ったAuracastのシステムに置いて、LE Audio対応のスマートフォンが絶対に必要というわけではないのだ。

どこか一社の独自仕様がBluetoothの標準にはならない

 最後に「アップルがロスレス伝送のために5GHz帯を使用するという情報が出ているが、もしBluetooth SIGの規格が5GHz帯に対応する前にアップルが5GHz帯に対応した場合に独自規格となるのか」と聞いてみた。

コルドラップ 「アップルの取り組みについては話すことはできないが、ある技術分野についてBluetooth SIGの標準規格が出る前にメンバー企業が独自に拡張した規格を採用することは珍しくはない。例えば、Bluetooth Meshについて、我々がMesh規格を出す前に、クアルコムが独自規格として考えたことがある。また、高精度距離測定でも、ダイアログやノルディックなど独自に仕様を出しているメーカーがある。8Mbpsを見据えたデータの高速化についても、ファーウエイがすでに採用をしている」

 そこで、もしそうした先行技術がデファクトスタンダードになった場合は、スタンダードとしての規格に取り入れられることがあるのかと聞くと、「そうした独自仕様はあくまで企業のエコシステムのものであり、Bluetooth SIGが考えている標準化とはそういうものとは全く性質が異なる」とし、「我々が標準を決めるときは複数の会社が集まってみんなで研究しながら仕様を決めていく。だからどこか一社の独自仕様となるということはない」というきっぱりとした回答が返ってきた。

 つまりデファクトスタンダードとスタンダードはおのずと違うものだということだ。

 ある会社が規格を決めてもそれが高価なチップの採用が必要であれば、力のない会社はついて来ることができないので業界の足並みは揃わなくなる。一社が決めたものがデファクトスタンダードになっても、Bluetooth SIGではそれに左右されずに標準化への強い信念を持って真摯に考えているということがわかった。あらためて標準化ということの意味を考えさせられたインタビューであった。

前へ 1 2 次へ

カテゴリートップへ

この連載の記事

注目ニュース

ASCII倶楽部

プレミアムPC試用レポート

ピックアップ

ASCII.jp RSS2.0 配信中

ASCII.jpメール デジタルMac/iPodマガジン