本連載でも紹介してきたLE Audioの新機能「Auracast」だが、2~3月開催のMWC 2023において、実際に動作するデモが披露された。Bluetooth SIGによる「Auracast Experience」では、今までは文書上の説明のみだったAuracastチャンネル、Advertismentリストを実装したスマホ画面などが紹介されている。
Bluetooth SIGのページで参考になる動画が紹介されていたので、これをもとにAuracastとはどのようなものかをみていこうと思う。
聞きたい音を選択する画面の実装例が登場
Auracastとは、単一のデバイス(スマートフォンやPCなど)から近傍にある多数のスピーカーやイヤホンに対してブロードキャスト(一斉配信)できる機能である。
具体的な使用例としてBluetooth SIGは、ジムやレストランなどに置かれたテレビ、そして空港など公共の場でのアナウンスなどの例が挙げていたが、今回のデモもそれに沿ったシナリオが想定されている。
Auracast Experienceでは、参加者にAuracast対応のイヤホンとアプリを搭載したスマートフォンが渡されている。その詳細はわからないが、クアルコムのリファレンス・イヤホンとスマートフォンだろう。クアルコムではサウンドプラットフォーム「S5 Gen 2」「S3 Gen 2」などのチップセットおよび「Snapdragon 8 Gen 2」搭載のスマートフォンでAuracastが動作するとしているので、こうしたチップセットを搭載したリファレンス・プラットフォームではないかと思われる。
Auracastで注目すべき点は、ユーザーに対して、いままでのBluetoothオーディオにはなかった“選択画面”が出てくることだ。Auracastを使ったブロードキャスト放送では、近い場所に複数の送信者がいる場合があり、リスナーはこれをチャンネルを合わせるように選択できる。Auracastで配信されるAdvertisementというメタデータには、その名前と説明といった情報が格納されている。ユーザーはその情報を参考に、聞きたいものを選択する仕組みだ。いままでは画面上の説明だけだったが、今回のデモでは実際にその表示が確認できる。
デモで披露したのは、用意したデモ用アプリが出すメニュー画面ということだが、OSでサポートされるようになれば、アプリケーションに依存しない画面が表示できるようになるだろう。
複数番組から好きな音を聞ける、パソコンで再生中の動画を共有する
さきの動画を見ると、はじめにスクリーンでなにか解説者が講演している場面が出てくる。そのうえでスマホの画面上の「Aerospace Auditrium」というリストを選択すると、スクリーンの人物が話しているスピーチがイヤホンから流れる仕組みになっている。動画では、選択してから"in a matter of seconds"と言っている。選択するとあっという間につながるということのようだ。
もう一つのデモではスポーツバーと思われる場所にスクリーンが2つあり、片方にバスケットボールの試合、もう一方にサッカーの試合が流されている。こうした場所では普通テレビの音声がミュートされている。しかし、ユーザーがAuracastの選択リストから「Strike TV1」を選ぶとサッカーの試合の音声が聞こえ、「Strike TV2」にするとバスケットボールの試合の音声が聞こえてくる。ここでもまたあっという間につながると言っているので、レスポンスがとても早いことが伺える。
最後のデモは空港のラウンジが想定されている。ここに据えられたマネキン(Daveという友人と仮定)が見ているノートパソコンの映画を「Dave's PC」を選択することで一緒に楽しめる。さらに「Gate B23」というリストを選択すると、搭乗のアナウンスを聞ける。このデモから、Auracastの送信には特別な装置が必要なわけではなく、普通のパソコンを送信機にできることもわかる。
この動画では、プライバシーにも触れている。普通こうした共有をするためには、Wi-Fiキーを教えなければならないが、Auracastでは単に送信名を教えるだけなので、セキュリティも良くなると指摘している。
なかなか実践的で面白いデモだと思う。Bluetooth SIGでは今年中に多くの民生機器がAuracast対応となり、今年後半には公共の場でのAuracastの初期展開が始まると予測しているとのことだ、

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