このページの本文へ

「インフラは非競争領域」、市場課題の解決を目指し業界とも共同で邁進

キンドリル、データセンター整備を含む1億ドルの国内投資を計画

2023年10月13日 07時00分更新

文● 福澤陽介/TECH.ASCII.jp

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 キンドリルジャパンは、2023年10月12日、投資領域を中心とした事業戦略に関する記者説明会を開催した。

 2021年、IBMからマネージドインフラストラクチャサービス事業を引き継ぎ、分社化してから2年。キンドリルジャパンは、日本のITインフラ市場の課題を解決すべく、国内データセンターの整備を含めた、今後数年間に渡る日本市場への1億ドルの投資を発表した。

 キンドリルジャパン 代表取締役社長の上坂貴志氏は、「ITのアウトソーシングが始まり、企業がデータセンターに大きな投資をして約30年が経ち、まさに転換期を迎えた。このタイミングで、インフラを次世代に向けたものに刷新、設備をより高度化し、拡張できるプラットフォームにする。さらに、その担い手となる人と社会へのコミットに注力していく」と説明する。

キンドリルジャパン 代表取締役社長 上坂貴志氏

日本のITインフラの課題である「運用の複雑化」と「施設の老朽化」

 「日本のIT市場、特にインフラ領域はまだまだ改善する余地があり、キンドリルとして貢献できる」と上坂氏は言う。

 日本のITインフラ市場の課題として、上坂氏は「モダナイゼーションの遅れと、DXによる複雑化の両輪」「設備の老朽化と、最新化の必要性の両輪」「IT人材の不足」「セキュリティ、経済安全保障」を挙げた。

日本のITインフラ市場の課題

 「モダナイゼーションの遅れと、DXによる複雑化の両輪」については、DXが進んできてはいるものの、それに伴って業務基幹システムが老朽化。クラウド、そしてマルチクラウドが浸透する中で、さまざまDXのアプリケーションが構築され、運用コストが増えてきているという。

 「設備の老朽化と、最新化の必要性の両輪」では、1990年代に建設されたデータセンター設備が耐用年数を迎えて刷新の必要に迫られており、さらにはDXに備えたクラウド前提の能力、環境への配慮など、長期的に対応しなければいけない課題も増えてきていると指摘する。

 

 これらの日本のITインフラの課題解決に向けて、キンドリルジャパンが重点的に取り組むのが、「次世代のインフラ設備」ならびに「運用高度化を実現するプラットフォーム」の展開、そして「人材育成と社会貢献」だ。

日本のITインフラの課題解決に向けた、キンドリルの重点項目

生成AIなど新たなニーズに対応する次世代インフラの整備

 キンドリルジャパンでは、「次世代のインフラ設備」の構築に向け、東日本・西日本にそれぞれ「災害リスクの低い大規模データセンター」と「クラウドに近いデータセンター」を計4拠点設け、そこにデータセンターを集約させる計画だ。4拠点のうち東日本の大規模データセンターは、1年後を目途に開設を準備している。既存の北関東のデータセンターは老朽化に伴い閉鎖し、データの移転についてはユーザー企業と協議をしながら進めているという。

次世代のインフラ設備として、東西の4つのデータセンターに集約

 新設するデータセンターは、パブリッククラウドとの接続性を重視し、低遅延のネットワークサービスを標準装備。すべてのデータセンター間の相互接続を提供すると共に、2040年までのネットゼロ・エミッション達成に向け環境にも配慮している。また昨今では、生成AIなど消費電力の大きなワークロードが増えてきているため、スペースあたりの電力供給量を向上させて新たなニーズにも対応していくという。

 一方で「運用高度化を実現するプラットフォーム」を担うのが、「kyndryl bridge」だ。標準の運用プラットフォームとして、すべてのユーザーが利用できるよう展開していく。

IT運用を高度化・自律化するkyndryl bridge

 kyndryl bridgeは、データセンターやサーバー、ネットワーク、ストレージ、パブリッククラウドと連携して、アラートやチケットデータ、構成情報、パフォーマンス、セキュリティなど、インフラから発生するあらゆるデータをデータレイクに収集。AIと自動化技術により、運用に必要な情報をダッシュボードにて可視化する。

 ダッシュボードからは稼働率、ハードウェア/ソフトウェアのEOS/EOL情報、パッチといった情報を一元管理でき、オートメーションエンジンがアクションを促すことで“塩漬けにしない”持続可能なIT環境の実現を目指す。すでにグローバルでは500社以上が利用しており、今年度末までに1000社の利用を目指すという。

 「データセンターとkyndryl bridgeを組み合わせて、エンドツーエンドでユーザーのIT環境の高度化を支援していく」とキンドリルジャパン 執行役員 CTO 兼 CISOの澤橋松王氏は説明する。

キンドリルジャパン 執行役員 最高技術責任者(CTO) 兼 最高情報セキュリティ責任者(CISO) 澤橋松王氏

「インフラは非競争領域、競い合うのではなく協業を」

 「人材育成と社会貢献」に関しては今年10月3日、賛同企業とともに次世代システム運用コンソーシアムを発足させている。「IT企業、ユーザー企業が一体となって、実践的な取り組みを考えていくために発足した。運用領域でのエコシステムをコンソーシアムという形で整える」と上坂氏。さらに、ITリスキリングやスキルの習得も、コンソーシアムと連携して積極的に支援していくと述べた。

 また社会貢献活動の一環として、9月にはグローバルでキンドリル財団を発足。「インフラで得た利益は、インフラに還元したい」という想いに基づく取り組みで、日本でもセキュリティ関連の非営利団体に対する助成を検討している。あわせて、キンドリルとして初となる「コープレート・シチズンシップ・レポート」を発行、2040年のネットゼロ達成、サステナブルな未来の実現に向けたコミットメントを表明している。

次世代運用コンソーシアムとスキル育成

キンドリル財団とコープレート・シチズンシップ・レポート

 最後に上坂氏は、「インフラは非競争領域。競い合うのではなく、協業する。それはユーザー企業も含めて。日本のインフラが世界で最高だと言われるように、より使いやすいインフラを共同で考えていく」と強調した。

■関連サイト

カテゴリートップへ

  • 角川アスキー総合研究所
  • アスキーカード