◆縁石ギリギリに停まったバスに乗り込む
野洲に作られた専用テストコースは、全長約1.1kmで、直線の長い楕円形。2ヵ所あるコーナーは非常にきつく、全長の長い連節バスには厳しい環境です。2つある直線部には、それぞれ停留所を模した場所があり、片側には分岐路と縁石も用意されています。また、踏切を模した遮断機と、交差点を模した信号も用意されていました。
最初は、隊列走行するバスを外から見学します。バス同士の間隔は、走行中は15m(±5m)ほどで、停止中は4mほど。3台のバスには、それぞれドライバーが乗っていますが、運転操作は一切しません。ただし、外から見ている限りは、ドライバーが操作する普通のバスと違いはわかりません。ところが、縁石に寄せて停まったバスは、本当に縁石ギリギリ。これには驚きました。毎回必ずこの精度で停まれるのであれば、人間の運転手よりも運転がうまいかもしれません。
車内に乗り込んでみると、発進・停止だけでなく、コーナーでもドライバーは何も操作していません。きついコーナーでは、先行するバスが後続バスの正面からズレてしまいます。これは、光信号が直進する光無線通信にとっては大問題。そこで採用されたのが、送受信部を左右に振る、光無線通信機のトラッキング制御です。コーナーで確認すると、前走車のバスの後ろにある光通信用の送信機は、しっかりと後続のバスの方向を向いています。
また、急なコーナーに入るとバスは速度を落としますが、3台の隊列走行は1つの長い列車と同じ扱いとなるため、最後尾のバスがコーナーを出るまで先頭のバスは直線路に入っても加速を控えています。最後尾のバスが直進路に入ったところで、3台がほぼ同時に加速をしていました。
停留所に停車すると、バスの室内にドライバーの案内が響きます。3台ある先頭車両のドライバーが、3台分のドアの開閉をするのです。乗客の乗り降りを確認してのドアの開閉は、自動化が難しい部分。一刻も早い実用化を考えれば、開閉をドライバーに任せるのは、妥当な判断と言えるでしょう。
◆「普通のバスと同じ」という感想こそ目指していたもの
先頭車両と追従する後続の車両にも乗車しました。操作こそしませんが、どの車両にもドライバーがいましたし、ギクシャクした動きもありません。信号や踏切の協調制御も、乗って入れば、乗員的にも何も違和感はありません。そのため、乗った感想は「ごく普通のバスの運行と変わらないなあ」というものでした。ある意味「普通のバスと同じ」を目指して技術を磨いてきたのですから、当然のこととも言えるでしょう。
次なるステップとなる、11月からの東広島市での公道での実証実験でも、違和感を見つけ出して、それを解消してゆき、最終的に「普通のバスと同じ」を目指すことになります。JR西日本とソフトバンクでは、2020年代半ばの社会実装と言っていますから、具体的には2024~26年がターゲットです。つまり、残された時間は2年ほど。それほど先の未来というわけではありません。
自動運転技術の実用化は、強く社会から求められているもの。ただし、その歩みはそれほど早いものではありません。今回のプロジェクトも、スタートからすでに3年が過ぎており、しかも道半ばという状態。しかし、記者会見の場で、JR西日本とソフトバンクは「階段を上るように、少しずつやっていきたい」との旨を語っていました。ゆっくりではあるけれど、一歩ずつ確実に技術検証をして、前進している。そんなことを実感できる取材会となりました。
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