本連載では、ASCII.jpに掲載されたAI関連記事を中心に紹介、最近のAI事情を俯瞰していく。今回は8月下旬(8月16日から31日)の主なニュースを振り返ってみよう。
アドビ、生成AI Firefly搭載したAdobe Expressの一般提供開始(8月17日)
FireflyはPhotoshopへの導入で注目された部分がある。だが、いわゆるプロ向けクリエイティブツール以上に大きな影響があると考えられているのが、より一般向けのツールであるAdobe Expressへの搭載だ。チラシに入れるちょっとした画像やフォントの加工、SNSでの告知に使う画像の生成など、用途は幅広い。
そしてこの先には、アドビのデジタルマーケティングツール群との連携が待っている。デジタルマーケティングにおいては、状況・対象に合わせてコンテンツを変えていくことが求められるが、その生成には、「何かをオリジナルとして、そこに生成AIで書き加えてバリエーションを増やす」といった手段が有用。生成されたコンテンツの生成と管理のフロントエンドになるのが、Adobe Expressのビジネス版だ。
なお、現状のAdobe Fireflyはまだベータ版であり、商業利用は許可されていない。その点にはご注意を。
Stability AI、画像を日本語で説明「Japanese InstructBLIP Alpha」公開(8月18日)
画像認識と言語処理を組み合わせ、説明文を生成する仕組みはいくつかある。画像の内容を検索するのに有用なだけでなく、視力にハンディを持つ人々へのアクセシビリティ向上にも有用だ。
ただこれまでのものはあくまで「サービス」に閉じる形で、認識エンジンだけを使うのは難しかった。Stability AIがこのような形で、しかも日本語に特化したものを提供したことはやはり大きな意味を持つ。
ただこれも商用利用はできず、研究目的のみに制限されている。
元グーグルのトップAI研究者、東京にAI企業「Sakana.ai」立ち上げ(8月18日)
「トップ研究者はなかなか日本に来てくれない」と言われる。それは報酬の問題だったり、言語の問題だったりもするが、ことAIについては、学習に関わる法制度の問題から日本が有利とも言われている。
そもそも日本は、通信インフラについても人材についても、そして治安など「住みやすさ」の面でも良い国だ。
こうした企業や研究者を誘致していくことは重要だが、今回の件は1つのテストケースになってほしい。
東京大学松尾研究室、日本語大規模言語モデルをオープンソースで公開(8月18日)
松尾研究室はLLMの活用について、民間・行政とも多数プロジェクトを進めており、少なくとも知名度の点において、国内有数の存在であるのは間違いない。
同研究室が日本語特化のLLMを作るという話は以前からあったのだが、それが公開された形だ。
ただ、今回の公開に際しては、「オープンソース」という言葉の使い方について多少の炎上もあった。商業利用は許可しない形での公開なので、「これはオープンソースとは言えないのではないか」という議論があったのだ。
海外でも、Metaの「Llama 2」のライセンスについて、Open Source Initiativeが「オープンソースとは言えない」との声明を出している。
LLMの場合、モデルの公開は一般的な「コードの公開」とは異なる性質もあり、「オープンソースではなく、LLMに向いた言葉を使うべきだ」との意見もある。確かにそれは検討に値する意見だ。
(編註:松尾研究室では8月22日、リリース文から「オープンソース」の記述を削除しています)
日本新聞協会などが「生成AI」について共同声明、文化発展を阻害しない著作権保護策を(8月18日)
ここでポイントとなるのは、生成AIの学習について「著作者が拒否できるのか」という点にある。
日本の著作権法では学習を拒否できる、と明言されていない。一方で、情報解析などに著作物を「利用できる」ことは明言されているので、生成AIの開発に対して有利な法律である……と言われることが多い。
日本新聞協会の声明は、学習されることで「著作物を元にした多数のコンテンツ」が生成され、それによって著作者の創作機会や経済的な被害が発生しうる、という指摘である。
一理ある話ではあるが、やはり問題は「学習」そのものではなく「生成」と「活用」の側にある。そこでの対応が可能か否か、という点が重要だ。権利を守る気がない人々にとって、現状が有利であるのは否めない。
ただ、現状すでに「品質の良い学習データ」は払底しつつある、と言われている。今後は著作物からの学習を想定せざるを得ない。
海外の報道機関、たとえばニューヨーク・タイムズやAP通信は、期限を区切った上でGoogleやOpenAIと提携し、大金を手にした上で、生成AIの使い方と「データの使われ方」を把握する流れに出ている。
個人的な意見だが、団体として否定的な流れに出るよりは、海外の報道機関のように、前向きに「権利を縛りつつ売る」方向に舵を切り、さらに「生成されたものの権利侵害では争う」流れにしていくべきではないか、と考えている。
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