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データドリブンで介護レンタル事業を大幅改善 フランスベッドとARIの挑戦を追う

2023年09月26日 09時00分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII 写真●曽根田元

提供: ARアドバンストテクノロジ

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 フランスベッドは、DXソリューション事業を展開するARアドバンストテクノロジ(以下ARI)とともに、福祉用具のレンタル事業のDX化を推進している。在庫最適化の必要性、メンテナンス部門の生産性の向上は、もはや待ったなし。ビジネスの根幹を揺るがすこうしたヘビーな課題を、両社はどのように解決していったのだろうか? フランスベッドとARIに聞いた。

東京都小平市にある「フランスベッド メディカレント東京」

福祉用具のレンタル事業で原価高騰 仕入れと在庫はなぜ増えるのか?

 1946年設立のフランスベッドは、ふとん文化が中心だった戦後の日本で、いち早く日本初の分割ベッドを作ったベッドメーカーとして知られている。1983年には、療養ベッドの家庭向けレンタルを開始。国と連携して今の介護保険の対象となる環境を構築した。初代社長が日本の家庭向けベッドの普及に尽力し、欧米のインテリア文化やライフスタイルを広めたインテリア事業と、2代目の現社長が国と連携し、介護保険を利用した福祉用具貸与(レンタル)を普及させたメディカル事業が同社の主な事業となっている。

 現在では自社のベッドのみならず、車いすや手すり、歩行器などの福祉用具を事業者・個人相手にレンタルや販売にて提供。メーカーでありながらB2B、B2C、B2B2C向けのサービスを一貫して提供できるのは全国でも同社のみで一番の強みとなっており、ベッドも福祉用具も今の生活にはなくてはならないものとなっている。

 今回、取材で伺ったのは、東京都小平市にある「フランスベッド メディカレント東京」だ。ここでは、メディカル事業本部部門と都内全域の福祉用具レンタル商品のメンテナンスを行なうサービスセンターが併設されており、高い殺菌力を誇るオゾン洗浄システムを採用し、福祉用具の洗浄・消毒・メンテナンスを実施している。また、配送拠点や東京地区の業務集約センター機能も包括されており、全国21箇所ある福祉用具をメンテナンスできるサービスセンターの中で旗艦センターであり、メディカル事業の中心拠点にもなっている。

 製造して販売する売り切り型のビジネスとは異なり、レンタルの場合は、返却品を迅速にメンテナンスし、新たに貸し出すことで収益を生む仕組み。そのため、何度も使うレンタル在庫品の稼働率を上げることが重要だ。理想は、レンタル在庫品だけで極限まで稼働率を高め、新品をレンタル在庫として投下しないこと。そして、ニーズにあわせた商品ラインナップから新品の投下、メンテナンスを最適化した業者こそ、福祉用具レンタルビジネスの利益を最大化できるわけだ。

 同社がDXに取り組むきっかけになったのは、この5年間でレンタル原価率が上がってしまったことだ。もちろん、仕入れ値自体の高騰もあったのだが、長らく勘に頼っていたレンタルビジネスのサイクルにいくつものボトルネックが生じ、いわば動脈硬化を起こしていたのが原因だった。返却品が倉庫に積み上がり、メンテナンスはなかなか終わらないため、新品がレンタル投下される状態。しかし、今までデータに基づく分析がなかったため、原因を突き止め、施策を打つことができなかったという。

返却品がメンテナンスを待っている

手間のかかるメンテナンス 増える新品投下でレンタル原価率が上昇

 事態を重く見た経営陣からのリクエストを受けて、2017年から稼働している同社独自の基幹システム「HPNS(ハピネス)」内にある顧客データや売上データ、仕入れデータを用いたビッグデータの分析により、レンタル原価率と過剰在庫を改善する目的で2021年10月にメディカルDX推進室(現・メディカルDX購買課)が立ち上がった。そして、ここに召喚されたのが黒須和伸氏だ。

 黒須氏は20代では情報システム部門に所属し、システム構築やデータ管理に関する知識を習得。30代でインテリア事業の商品企画部門に所属し、国際市場における商品の仕入れについての洞察力を得たという。40代に入ると、同社ホールディングスの広報・宣伝部門の責任者として、組織全体のコミュニケーション戦略をリード。これらの幅広い経験と知識を活用し、新たなビジネスチャレンジに取り組むための強力な基盤として、現在はメディカル事業部門のDXをリードする立場に就いており、テクノロジーとビジネス戦略の融合においてリーダーシップを発揮する立場となったという。

フランスベッド メディカル事業本部 メディカルDX購買課 課長 黒須和伸氏

 そして、黒須氏をサポートしているのがメディカル部門の業務全般や基幹システム、仕入れに精通した頼もしい2人だ。豊嶋三代子氏は、入社当時の2003年に基幹システムHPNSの前身となる旧基幹システムの立ち上げから携わり、メディカル部門で受注業務を経験し、HPNSシステムの立ち上げで再度本部に戻り、現在はメディカルDX購買課に所属して、データ分析を手がけている。

 もう1人の鈴木千晴氏は、入社以来、仕入れの支払いと商品のマスタ管理を手がけていた。もともと購買・仕入れ部門として、このレンタル原価率の上昇を抑える施策を推進していた。「近年、仕入れ価格自体は上がっていたので、まとめて購入して、仕入れ値を下げようとしていました。加えて、HPNSのデータを活用し、仕入れやレンタルを分析し、適正な発注量を決めていく必要がありました」と鈴木氏は語る。

 レンタル原価率の上昇は、福祉用具のメンテナンスに時間がかかることに端を発していた。レンタルビジネスにおいて、メンテナンスはサービスの品質に直結する。返却されたベッドや車いすなどはいったんパーツごとに分解し、手作業で付着した汚れを丁寧に取り除く必要がある。当然ながら一日で実施できるメンテナンスの数が限られており、返却品が増えると未メンテナンス品が作業場に積み上がり、需要が増えるとメンテナンスが完了したレンタル在庫品が足りなくなる。

 「ご利用者様ひとりひとり用途が違うので、福祉用具のバリエーションは膨大になります。中にはメンテナンスに工数がかかったり、壊れやすかったりとレンタル品として不向きな商品もあるため、メンテナンス効率の良い商品を採用することも課題」と黒須氏は語る。

返却されたベッドは分解し、汚れを丁寧に取り除く

他社製品である車いすも同じく解体して、メンテナンスしていく

 今まではメンテナンスが進まず、レンタル在庫が足りなくなると、各センターで安易に新品をレンタル投下してしまう風潮があった。「安易なレンタル投下は、在庫も増え、レンタルの原価率も上がります。レンタルビジネスでの毎月の利用料は決して大きくないので、レンタル原価率が上がると、利益をあっという間に食い潰してしまいます」と黒須氏は指摘する。

 さらに福祉用具レンタルの特殊性は、いつ返ってくるかわからないという点だ。返却されるタイミングは、入院や死亡などさまざま。一方でケアマネジャーなどのリクエストで用具をレンタルする場合は、とにかく納期が重視となる。「『明日、ご利用者様が退院なので、すぐに用具を揃えてね』というケアマネジャーのリクエストに迅速に応える責任があります」(黒須氏)。

 しかし、各センターでの在庫品の発注は、大半は各センター発注担当の経験と勘によるもの。HPNSシステムである程度目安はあるものの、在庫を意識するセンター、在庫不足に不安を感じるセンターなど、仕入れ方法にも個性が出てしまう。そのため、全国的には返却が多い商品なのに、特定のエリアで同じ商品を新規発注してしまうことも起こっていた。「たとえば、冬は雪が降るので、北陸や東北では屋外用の歩行器や車いすが戻ってきてしまう。でも、あくまで経験と勘なんです。経験や勘は素晴らしい成果をもたらすこともありますが、メディカルDX購買課としてはまずは商品動態を把握し、データの力を用いた発注支援をやりたかった」と豊嶋氏は語る。

フランスベッド メディカル事業本部 メディカルDX購買課 係長 豊嶋三代子氏

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