自作PCの基幹パーツであるマザーボード。そのメーカーをみなさんはいくつご存知でしょうか?
ASUS、ASRock、MSI、GIGABYTEはすぐに思い浮かぶでしょう。マニアであれば、それに加えてBIOSTAR、NZXT、Supermicro、インテルが思いつくと思います。
過去には、Abit、Albatron、AOpen、Colorful、Commell、DFI、ECS、Foxconn、Jetway、Leadtek、Tyan、ZOTACなど、非常に多くのメーカーが自作PC向けのマザーボードを製造していました(日本で流通していないだけで今でも製造しているメーカーもあります)。
Albatron、Leadtek、ZOTACはビデオカードメーカーじゃないの? なんて思う方もいると思いますが、実はマザーボードも作っています(NVIDIAも昔はnForceという、マザーボードに搭載するチップセットを製造していました) 。
20年ほど前の自作PC全盛期には、約20社近くがしのぎを削っていた自作PC向けマザーボード市場ですが、事業から撤退したり産業向けに転換したりで、次第に淘汰されていきました。
その激動の時代に、際立った製品を市場に投入していたのがAOpen(エーオープン)です。古参のマニアからはアオペンの愛称で親しまれていました。
AOpenが参入していた当時は、4大マザーボードメーカーといえばASUS、AOpen、MSI、GIGABYTEでした。ではなぜ大手メーカーのAOpenが市場から撤退してしまったのでしょうか? 最大の理由は市場競争の激化による売上の減少なのですが、もう1つ理由があります。それは「時代を先取りしすぎた」からです。
そこで、AOpenが世に送り出した前衛的な製品を振り返っていきましょう。今だったらどれも販売訴求力抜群のギミックを搭載しているのが理解できるでしょう。
■しゃべるマザーボード
マザーボードに異常があると、日本語音声で知らせてくれる機能が「Dr.Voice」です。一時期AOpenのほとんどのマザーボードにこの機能が搭載されており、この機能のおかげでどこでエラーが起きているのかがすぐに判別できました。
当時の他社製マザーボードは、起動時に異常があるとビープ音でエラーを知らせてくれました。ただ、その音がどのような長さで何回鳴ったかを知らないと、何のエラーだかまったくわかりません。メーカーによって音が異なるので、毎回マニュアルを引っ張り出してエラー音の一覧表を見る必要があったのです。声で具体的にエラー箇所を知らせてくれるのは、マニュアルを読む手間が省ける画期的な発明だったのです。
しかも「Dr.Voice」は、後にコギャル風の[関東編]と関西弁の[関西編]まで登場しました。関東編では「キーボードマウスまじむかつく」「CPUダメじゃん」(“メ”のアクセント具合がなかなか良い感じ)などになり、関西編では「メモリあかんわ」「ちゃうがなPCI」などに音声が差し替わっていました。
そんな神機能の「Dr.Voice」にも弱点がありました。それは肝心の音声が非常に聞き取りづらいことです。マザーボードに搭載された性能が著しく低いスピーカー(ビープ音の出力に使われるブザー用のモノラルスピーカー)から発せられる音声は、声がこもったり割れたりで何を言っているのかさっぱりわかりません(柳沢慎吾の鉄板ネタである警察無線がまさにそれと同じです)。
ちなみに、マザーボードのSPEAKER端子に外部スピーカーを接続すればクリアに聞こえるのですが、わざわざマザーボードにスピーカーを付ける人は稀でした。
地味な機能ではありますが、「Dr.Voice」のようにトラブル時にわかりやすく解決策を示してくれると、次の製品を買うときも、同じメーカーにしようと考えるユーザーは多いと思います。
今ならスマートスピーカーを搭載して、ユーザーの呼びかけに音声で応えてくれるマザーボードが作れそうな気がします。
■音声にタレントを起用
しゃべるマザーボードで気を良くしたAOpenは、次なる手として音声収録にタレントを起用します。それがさとう珠緒さんがしゃべる「AX4BS PRO まいえんじぇる」です。
台詞の違いにより「ラブリーえんじぇる」、「ポリスえんじぇる」の2バージョンのマザーが用意されており、それぞれ起動時(1種類)、休憩時(2種類)、エラー時(7種類)、終了時(1種類)が収録されています。
気になるのはその台詞ですが「ポリスえんじぇる」は「ピーポーピーポー、ほ~ら、悪者は逮捕しちゃうゾ!!」。「ラブリーえんじぇる」は「遅いよ、ずっと珠緒待ってたんだから」という具合。
これ、今だったら有名声優を起用するだけで爆売れする予感がプンプンします。レアなエラー音声を聞くために、高難度のエラーを意図的に発生させるなど、違った遊びが流行した可能性すらあります。
ほかにもAOpenには「Dr.LED」という、LEDでエラー箇所を知らせる機能もありました。LED発光が当たり前の現在では、標準装備されていてもおかしくない機能です。
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