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大谷イビサのIT業界物見遊山 第50回

アプリ開発が楽しくなければ、結局は続かない

「ノーコード/ローコードはワクワクしない」は本当か?

2023年08月25日 09時00分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII

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 プログラムコードを記述することなく、もしくはごく少量のコードでアプリを開発できる「ノーコード/ローコードツール」が増えてきた。DX、内製化、リスキリングなどのキーワードとともに、業務課題を改善するためのアプリを現場ユーザーが自ら開発するという潮流も隆盛を誇っている。では、果たしてノーコード/ローコードツールによる開発は、現場をワクワクさせているのだろうか?

クラウドとノーコード/ローコードで華開く現場でのアプリ開発

 この数年、ノーコード/ローコードツールの取材を通じて、「アプリは現場部門が作るべきか?」というテーマを探求し続けている。ここでの「現場部門」の対義語は「情シス」なので、要はITのプロが作るべきか? 業務のプロが作るべきか? という話になる。

 今まではプログラミングコードを書けるITのプロでなければ、アプリを作れなかったので、この問い自体がそもそもナンセンスだった。しかし、コードを書かずともポイント&クリックでアプリが作れるノーコード/ローコードのツールが進化し、クラウドで手軽に利用できるようになったことで、現場部門での開発がにわかに現実的になった。

 数あるノーコード/ローコードツールの中で、自分にとって身近なのは、数々の取材を重ねてきたサイボウズのkintoneである。12年前に産声を上げたkintoneは当初から「3分でアプリが作れる」を謳い、現場部門でのアプリ開発にこだわってきた。長らく掲げられてきた「8割が現場部門」というユーザーの比率は、導入企業が3万社を超えた現在も大きくは変わっていない。

 IT部門のユーザーを前提にメディアを構築してきた当時の自分にとって、現場部門がアプリを作るというのは想定外だった。IT記者である限り、いくら「アプリ」とカジュアルに表現されても、バックエンドでどんな複雑な仕組みが動いているのかは理解している。そんな簡単にアプリなんて作れるのか? これが素朴な疑問だった。でも、使ってみればわかるとおり、kintoneで言うところのアプリ開発は、基本的にはデータベースに対するフォームの設計である。そのためAccessユーザーであれば、苦もなく慣れるだろうし、Excelユーザーもとっつきやすい。敷居は圧倒的に低いのだ。

 そして、現場部門の開発者もノーコード/ローコードツールの台頭とともにいきなり湧いて出たわけではなく、潜在的には社内に存在していた。その多くは経理、経営管理、営業企画などの現場部門で前述したExcelやAccessを駆使してきたユーザー。旧アスキーでも経営管理の女性が会社のすべての数字をExcelで管理しており、そのマクロ1つで経営の数字を動かしていた。わざわざリスキリングせずとも、多くの中小企業にそんな人は1人や2人いたはず。現場の担当が自らの業務のためにアプリを作るという市場は確実に存在していたのだ。

現場部門でのアプリ開発が課題だらけなのは事実だが

 こうしたkintoneの事例を見てきた経緯があるため、「アプリは現場で作るべきなのか?」という質問に対しては、やはり「YES」と言う答えになる。確かにすごいアプリではないかもしれないが、現場のニーズにはがっちりマッチする。ITのプロが作るすごいアプリよりも、業務のプロが作るすごくないアプリの方が現場では尊ばれるというのは、多くの事例で見てきた風景だ。問題は、現場はそれを楽しんでいるのか?である。

 調査会社ITRの甲元宏明さんは、2022年7月にあげた「ローコード/ノーコードの致命的な弱点」というITmediaのコラムで、ローコードツールの弱点として「使っていてワクワクしない」という点を挙げていた。この意見に違和感を感じた私は「本当にワクワクしてないんでしょうか?」とFacebookで甲元さんにコメントしてみたところ、「楽しいのは業務改善の方で、個人的にはツールが楽しいとは思えない」といった趣旨のコメントがお礼といっしょに返ってきた。

 現場部門でのアプリ開発が課題だらけなのは明白だ。大きな課題は、現業が忙しく、アプリを開発する時間が捻出できない点だと思う。これに関しては、いろいろなところで話を聞いているが、明確な解決策は見いだせない。また、ちょっと複雑なものを作ろうとすると、プラグインやカスタマイズが必要になるのも悩ましいところ。そして情シスにしてみればクラウドだからとはいえ、アプリの管理は大変。作りっぱなしで、更新されない野良アプリの乱造は、どの会社も苦労している。

 一方で、過去のkintone記事を見直してみると、アプリ開発を楽しんでいるユーザーは多い。還暦を超え、8年かけて、自社に最適化されたSFAを作り続ける今治の会社がある(関連記事:kintone界最高齢(?)のベテランが手塩にかけた独自SFA)。今年のkintone hiveでも職人さんにkintoneを使ってもらうべく、奮闘した新入社員がいる(関連記事:kintoneを家具職人に使ってもらいたい! 新入社員の熱意とアプリが現場を変えた)。仙台のkintone hiveで代表として選ばれたのはkintone+Enjoyの造語である冒頭の「kinjoy」を成功の鍵として掲げた事例だ(関連記事:ワクワクドキドキを大切に kintone+Enjoy=kinjoyこそ導入成功の切り札)。

 こうしたユーザーたちの声を聞くと、ノーコード/ローコードツールがつまらないものだとはまったく思えない。もちろん業務改善の楽しさはあるが、そもそもアプリ作りが業務でない現場ユーザーにとってみれば、ノーコード/ローコードツールが楽しくなければ、開発は続かないはずだ。裏を返せば、楽しくアプリが作れるツールこそが、長く使われていくことになるだろう。

 個人的な取材事例の多いkintoneを中心にノーコード/ローコードの開発について紹介してきたが、市場にはマイクロソフトのPower Platform(関連記事:松本典子の「はじめよう!Azure Logic Apps/Power Automateでノーコード/ローコード」)、OutSystems、GoogleのAppSheetなどさまざまな選択肢がある。「以前からノーコード/ローコードツールでしたっけ?」という国産製品も多く、自動化やサービス連携にも拡がっているので、ノーコード/ローコードツールはもはや「GUIで設定できる」くらいの意味に拡大解釈されている状態。そのため外資・国産含めツールの選択肢は、ますます多種多様になっている。現状、取材がkintoneに偏っている自覚はあるので、今後は違うツールのアプリ開発現場も見てみたい。

大谷イビサ

ASCII.jpのクラウド・IT担当で、TECH.ASCII.jpの編集長。「インターネットASCII」や「アスキーNT」「NETWORK magazine」などの編集を担当し、2011年から現職。「ITだってエンタテインメント」をキーワードに、楽しく、ユーザー目線に立った情報発信を心がけている。2017年からは「ASCII TeamLeaders」を立ち上げ、SaaSの活用と働き方の理想像を追い続けている。

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