AIトレーニングで必要な計算能力の向上で既存のデータセンターに限界迫る
クラウド型データセンターの最終形 IIJが白井DCCの2期棟を公開
2023年07月21日 10時00分更新
激変するデータセンター ハイパースケールだけじゃない
見学の前に行なわれた発表会では、IIJの久保力氏がデータセンター事業について説明した。
IIJは1992年の創業間もない時期からデータセンタービジネスを展開しており、ネットワークシステムの構築や運用、アウトソーシングなどとともに、他社データセンターを活用したコロケーションサービスを再販してきた。転機が訪れたのはやはりクラウドの台頭。これを機に自社クラウドの基盤として、島根県の松江市にコンテナ型データセンターを自社構築。これが松江DCP(データセンターパーク)になる(関連記事:クラウドを冷やせ!IIJコンテナ型データセンターへ潜入)。
その後、パブリッククラウドの成長とともに、市場は5000ラックを超えるハイパースケールデータセンターが主流となり、需要の高い関東・関西圏に数多く作られるようになった。IIJも2019年5月に700ラック規模の白井DCCの第1期棟をオープン。自社クラウド基盤のみならず、コロケーションでの用途も想定した白井DCCでは、松江DCPでの実績を元にした外気冷却や省電力技術を取り込みつつ、運用の自動化やカーボンニュートラルの取り組みを推進している。
2010年代のハイパースケールデータセンターの乱立で、クラウドに向けたデータセンターは一段落したように見えるが、コロナ禍を経た2020年代にはさらなる激変期が訪れているという。「データセンターの抜本的な再設計が必要になっている」と語る久保氏は3つのポイントを挙げた。
1つ目はエッジコンピューティングの台頭や5GやIoTの普及やデジタル田園都市構想の影響によるデータセンターの階層化。5000ラック超のハイパースケール、数百ラック規模のエッジローカル、数十ラック程度のエッジオンサイトなど、規模によってデータセンターが役割分担するようになっている。これに対して、IIJも松江DCPにエッジローカルとして機能するシステムモジュール棟を運用したり、エッジオンサイト向けの「DX Edge」をリリースしている。
また、カーボンニュートラルへの取り組みも進化している。2022年に導入された省エネ法のベンチマーク制度では、データセンターで目指すべきエネルギー効率として「PUE 1.4以下」という水準が示されている。また、2023年度に非化石エネルギーへの転換措置が新設され、RE100で追加性の高い再エネの普及を促すために技術要件が改定された。そのため、データセンターは省エネおよび再エネ利用の取り組みがこれまで以上に求められるようになったという。
これに対してIIJはデータセンター単体での取り組みのみならず、電力網との統合やオフライン用の再エネ電力の施策も進めている。具体的には「バーチャルパワープラント(VPP)」として電力網の安定化に貢献したり、非化石証書と電力需給のマッチングを行なうプラットフォームの構築を行なっている(関連記事:IIJがカーボンニュートラルデータセンターへの取り組みを説明)。また、松江CDPも松江市の脱炭素化に寄与。「単なるカーボンニュートラルではない。データセンターの設備を使って、新しい価値を提供したい」と久保氏は語る。
TDP300W時代の冷却とは? AIを前提とした次世代のデータセンターへ
そして最大のポイントはAIの台頭による計算能力の増大だ。AIのトレーニングに必要とされる計算能力は、ムーアの法則の2年をはるかに超え、2012年から3~4ヶ月ごとに倍増するスピードで拡大している。そして生成AIに必要なLLMの学習においては、より強力なCPU/GPUの増大が必要になる。
とはいえ、こうしたニーズを満たすためのデータセンター向けCPUは、処理能力の向上にともない、TDP(Thermal Design Power)もいよいよ300Wを超過する。空冷では十分冷却できないレベルになり、空冷/水冷のようなハイブリッド冷却が必要になるという。
そのため、計画中の3期棟では既存の技術やノウハウを継承しつつ、80kVA/ラックを前提に、空調面を抜本的な変更していく。「もはや外気冷却では不十分。データセンターの形自体を変えていかないといけない」と久保氏は語る。今回の2期棟をクラウド型データエンターの最終形と位置づけ、3期棟ではAIを前提とした次世代データセンターに進むという方向性を示した。