なぜ器だったのか。自問自答を繰り返して見つけたスタイリストの歩き方
もともと新聞社で広告営業の仕事をしていた竹内万貴さんは、好きな器に携わる仕事がしたいという一心で退職。地元に戻り家業を引き継ぐ一方で、アートギャラリーや料理家に学び、その思いを実現した。意地の二拠点生活が夢のスタイリストへの道を拓いてくれた。その転機と決意はこれから何かを新しく始める人の背中を押してくれる。
もがき続けた二拠点生活があったからこそ運命が好転
「スタイリストといっても、ファッションとかインテリアとかいろいろありますよね。私の場合は、料理本や広告において、料理を何に盛り付けるかだけでなく、土台になるような空間作りとして、器選びからクロスやカトラリーまで考えるのが仕事です」
スタイリストを目指して新聞社を辞めたのが30歳目前。その後はアートギャラリー『而今禾(じこんか)』で働きながら器の知識を学んだものの、スタイリストへの道はなかなか拓けず悶々とする中、一つの転機が訪れた。岐阜で両親が営む仏具店を手伝って欲しいと頼まれ、ギャラリーを辞める決心をしたのだ。
「そこで器から離れることになり、自分で1度振り出しに戻してしまいました。だけど、東京の住まいは意地で残したままに。仕事もないのに二拠点生活(笑)。その時期は、やりたいことが決まっているのにどうしたら近づけるのかが分からなくて辛い時期でしたね。でも、二拠点生活を選んだからこそ、これまで関わらなかったような人に出会えた時期でもありました。その一人が料理家の高山なおみさん。皿洗いなどをするアシスタントとして時々チームに加えていただき、スタイリストさんが働く姿を間近で見ることができました。でも、最初はなかなか自分の思いを口にすることはできなかったです。しばらくお仕事をさせていただくうちに高山さんが『万貴ちゃんは何がやりたいの?』って聞いてくださったことがあって。その時に初めて自分の考えを打ち明けたら、『アシスタントをしながら、スタイリングのことも練習、経験してみたら』と、本当に少しずつですけどやらせていただけることになりました」
その後は、高山さんと一緒に仕事をした作品を手に、単身で出版社へと営業をかけ、少しずつ少しずつ信頼を勝ち得ていった。
なぜ器なのかを考え抜いたから自分らしく向き合える
現在も、実家の仏具店の手伝いもしており、スタイリストとの二足のわらじ生活は続いている。東京の住まいは非常にコンパクトな仕様ながら、さすがのセンスで整えられた空間に。
「生まれ育った岐阜は美濃焼が有名で、父の仕事についていった寺院などで造形美に触れたことからも、自分の美意識が育てられたと思います。家賃のかかる東京の住まいを維持できたのも、実家での働きがあったからこそ。今も、どちらをメインにという感覚はなくて、どちらの仕事も100%の気持ちで向き合っています」
二拠点生活をしながら、夢を叶えた竹内さんがライフシフトをするうえで大事にしていたのは、深く自分を見つめ直す作業。
「大した不満もなく働いていた新聞社を辞めることにしたのは、仕事用の顔、言動、服など、本来の自分ではない一面を時には持たねばならないことに違和感を覚えていたから。その切り替えが上手にできる人もいるけど、私はそうじゃなかった。でも、その違和感を言葉にできるようになったのは、苦しかった時代に『なぜ器というものにこだわるのか』『自身と器の関係』などについて、深く深く考えたからだと思っています。今は仕事も遊びも生活もゆるやかにつながって、いつも自分らしく居られるこの暮らしをとても気に入っているんです。大きな決断をするときに大切なのは、なぜそれをやりたいのか、理由をとことん掘り下げて〝自分をよく知る〟ことかなと思います。ライフシフトをするにしても、どういう形でそれに関わっていくのかによって、趣味なのか、仕事なのか、起業なのか……方法も変わってくると思います。私自身は今、『うつわの教科書』という書籍の監修に取り組んでいます。ギャラリーの仕事ともスタイリストの仕事とも違う、新しい器との関わり方です。日々足りない知識を勉強していますが、こういう勉強は楽しさしかないんですよね(笑)」
Profile:竹内万貴さん(器スタイリスト)
たけうち・まき/1979年、岐阜県生まれ。大学卒業後、新聞社勤務を経て、東京・世田谷のギャラリー「而今禾(じこんか)」で修業。家業を手伝うため退職。東京と岐阜の二拠点生活をしながら、料理家・高山なおみさんのアシスタントをする機会を得て、スタイリングにも携わる。現在はスタイリストとして独立し、器のセレクトや料理の盛り付けなどテーブルスタイリングを専門とし、書籍や雑誌で活躍中。
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