業務を変えるkintoneユーザー事例 第186回
弁理士法人サトーが機能モリモリの電子包袋の前にやったこと
釈迦アプリでkintoneを社内浸透 弁理士の悲願「包袋の電子化」に成功
2023年07月10日 11時00分更新
2023年6月7日、kintone hive nagoya vol.7が開催された。会場はZepp名古屋で、参加者は約500人と2階席まで埋まる活況ぶりだった。kintone hiveはkintoneのユーザー事例を共有しあうイベントで、優勝した企業はCybozu Day 2023の「kintone AWARD」に進出する。今回は2番手、弁理士法人サトー 榊原毅氏によるプレゼン「kintoneと弁理士と包袋と釈迦」のレポートを紹介する。
知的財産の保護で必要な「包袋」とは?
弁理士法人サトーは名古屋の栄に事務所を構えており、弁理士7名を含む総勢21名が所属する弁理士事務所。顧客の代理として、特許や商標などの知的財産に関する手続きを行なうことが主な業務となる。
弁理士法人サトーのパートナー弁理士である榊原氏は特にITの実務経験はなく、通常は弁理士の業務を行なっている。手の空いた時間にkintoneを含めた、社内の業務改善を担当しているという。
弁理士の業務は、まずクライアントと打ち合わせをして、書類を書いて特許庁に申請し、特許庁から回答があったら、初めに戻って処理を繰り返し、最終的に権利の取得を目指す流れになっている。ここで課題になっていたのが「包袋(ほうたい)」だ。
「包袋は案件ごとに作成され、関連する書類を入れるための袋です。ただの書類を入れる袋ではなく、事務所の運営に大切な3つの機能を持っています。それが、ストレージ機能、情報表示機能、プロセス管理機能です」と榊原氏は語る。
包袋は書類を保管するストレージ機能があり、表示の記入欄は情報教示機能を果たし、どんな手続きを誰が担当しているのかがわかるプロセス機能も備えているというわけだ。このように重要な包袋だが、いくつかのいくつか課題があった。
1つ目が、スペースの圧迫。包袋にはその案件に関わるすべての書類を入れて保管する必要がある。1つ1つがかさばるうえ、特許なら20年、25年、商標なら半永久的に保管しておかなければならない。そのため、事務所の中ではたくさんの包袋に囲まれて仕事をするような状況だったという。
2つ目での課題は検索性の悪さ。通常、包袋は事務所のキャビネットに収納されているが、そこから出されると、どこにあるのかわからなくなってしまうのだ。そして3つ目が、処理の停滞。包袋を次の作業者に渡すことによって処理を進めるのだが、その相手が会議や出張などで不在の場合、処理が滞ってしまう。
「そのため、包袋を電子化するのは、弊社の長年の悲願だったのです」と榊原氏。
壁となった知財管理システム
2018年冬、包袋の電子化に本格的に取り掛かることになった。その際、壁となったのが知財管理システムだ。知的財産の権利を管理するに際、各種の期限が設定されおり、法律の改正や外国の法律などに、対応させる必要がある。多くの弁理士事務所はこの複雑な期限に対応して管理するため、専用のシステムを導入しているという。
弁理士法人サトーでも専用の管理システムを導入しており、事務員が手作業で包袋に期限を転記していたという。
「電子包袋の機能を持ったクラウドシステムに刷新しようかと検討し、社内ヒアリングを行なったところ、使い慣れたシステムを今さら変更したくないとか、操作が変わるとミスのリスクが高まると、と反対の声が数多く上がりました」(榊原氏)
さらには、データ移行にも数百万円という費用がかかることがわかり、知財管理システムの刷新はあきらめた。さらに検討を重ね、2つのポイントを重視して、方向性を固めた。1つ目が、既存の知財管理システムは変更しないこと。2つ目が、所内の情報を集約する新しいツールを入れることだ。
そんな中、2020年の秋、kintoneに出会った。kintoneなら、APIを使って既存の管理システムとデータ連携できることがわかった。ライセンス費用も比較的安く、試用期間を経て、正式に導入することとなった。
システムの中心にはkintoneを置き、データ連携ツール「ASTERIA Warp」を利用し、既存の知財管理システムと連携させている。これで、kintoneは包袋の3大機能のうち、情報表示機能とプロセス管理機能を担うこととなった。もう一つのストレージ機能は、クラウドストレージサービスの「Box」を利用することにした。
業務の流れとしては、まず事務員が新たな案件が発生したら、その情報を既存の知財管理システムに登録するASTERIA Warpにより、自動でそのデータがkintoneのレコードにも登録され、担当者に通知が飛ぶようになっている。Boxでは案件ごとに紐付けられたフォルダーが作成され、そのリンクがレコードに貼り付けられるという仕組みになっている。
プロセス管理アプリでは、特許庁へ書類を提出する業務を管理している。今、どの処理が行われているのかを追跡するため、kintone連携サービス「gusuku Customine」を導入し、「ステップ承認図」を活用している。ステップ承認図で承認フローを可視化することで、業務を停滞させないようにするためだ。
「kintoneによって、紙の包帯を電子化することができました。今では、事務所の多くの業務をkintoneでできるようになっています。スペースの圧迫、検索性の悪さ、処理の停滞といった、3つの課題をすべて解決できたのです」(榊原氏)
まずは利用者のハードルを下げる「釈迦アプリ」から始めよ
kintoneの社内浸透もスムーズに進んだ。その秘訣は、社外に影響が出ず、簡単に使えるアプリで、利用者のハードルを下げたこと。機能モリモリの電子包袋を展開する前に、準備運動をしてもらったのだ。
kintoneは実際に使ってみることで、便利さ実感するもの。しかし、新システムの導入を失敗したらどうしようとか、顧客に迷惑をかけたらどうしよう、という不安もある。
そこで、「社」外に影響が出ず、簡単(「か」んたん)に使えるアプリということで、「しゃか(釈迦)」アプリと命名した「休暇管理」アプリを作成した。表示項目を順番にタップするだけで、届け出できるというものだ。
紙の包袋を電子化したことで、事務所の外から業務データにアクセスできるようになり、在宅勤務も円滑に実現できた。小さな子供を持つ所員からは、「kintoneのおかげで子供と過ごす時間が増えました」という感謝の声も届いているという。
「弊所では、長年課題だった包袋の電子化に成功しました。形が違えど、紙の文化に苦しめられているところは少なくないのではないでしょうか。kintoneを浸透させる際は、『釈迦アプリ』から始めてみることをお勧めします」と榊原氏は締めた。
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