業務を変えるkintoneユーザー事例 第181回
福岡で開催されたクラウドガーデンでのエンタープライズ向けセッション
ガバナンスは縛りではない 無法地帯を回避するための「攻めのための守り」
2023年06月16日 09時30分更新
2023年6月8日、サイボウズは福岡国際会議場でkintoneを中心とするエンタープライズ向けクラウドサービスの展示イベント「クラウドガーデン」を開催した。展示ブースに加え、企業のDX事例やトレンドが聞けるセッションも開催され、今回はその中から「攻めながら守る~これからのガバナンス戦略とは~」という講演のレポートを紹介する。
利用企業の93%が、非IT部門が導入を担当としているkintone
まずは、サイボウズ システムコンサルティング本部 萩澤佑樹氏が登壇し、kintoneのエンタープライズ活用について紹介してくれた。
萩澤氏は普段、セールスエンジニアとして、サイボウズの営業メンバーを技術支援しているそう。業務としては、大企業向けユーザー会となるkintoneエンタープライズサークルの運営や、「kintoneガバナンスガイドライン」という文書を作成している。
「DXとは古いレガシーなシステムを刷新することではなく、事業環境の変化に迅速に適用する能力を身につけることです。従来は、一度システムを構築したら、5年、10年と長く使い続ける発想でしたが、ここ数年はビジネス環境の変化が速くなっています。こうした状況下では、現場が求めていることとシステムでできることにギャップが生じやすくなってしまいます。長く使い続けられるシステムよりも、変化し続けられるシステムが必要になってきているのです」(萩澤氏)
加えて、そのシステムを誰が作るのかというのも問題になっている。これまでは現場がIT部門に要望を伝えて、開発していたが、既存システムの運用や保守をしながら、限られたIT人材だけで多くの要望に答えるには限界がある。
これからは現場が自ら主体となってシステムを作成し、IT部門は支援者になることで、IT人材不足を回避できる。そんな要望に応えられるのが、ノーコード・ローコードツールであるkintoneだという。プログラミングの知識がない現場の人たちでも、マウスでドラッグアンドドロップすることで、顧客管理や申請書といったさまざまなアプリを作成できる。ローコードツールもでもあるので、プラグインを追加したり、個別にプログラミングしながらカスタマイズすることも可能。
kintoneは2011年にリリースされ、現在では2万8500社が利用している。ユニークなのが、導入担当の部門内訳を見ると、93%を非IT部門が占めているという点だ。多岐に渡る領域で利用しながら、実際に現場の人たちがアプリを作って運用することで、利用が浸透しているという。
「しかし、現場で活用が広がるにともない、新たな課題が出てきました。簡単にアプリが作れるので、大量のアプリができてしまい、どうやって管理すればいいのかわからない、という声や、利用領域が広がるにつれてリスクの高いデータを取り扱うようになったが、どのように管理すればよいのか不安だという声が上がってきました」(萩澤氏)
ノーコード・ローコードツールはさまざまな使い方ができる反面、IT部門にはどのような用途で利用して、逆にどのような用途で利用しないか、という判断が求められる。簡単にアプリが作成できてしまうので、アプリ作成権限を誰に付与するのか、なども考える必要がある。しかし、単純に管理を厳しくしすぎたり、利用範囲を狭めてしまうと、DXの推進を阻害してしまう。ここがジレンマだ。
kintoneのガバナンスガイドライン、3つのポイント
活路を切り開くためには、単なる規制ではなく、効果的なガバナンスが必要になる。そこで、kintoneの大企業向けユーザー会に参加する企業からは、他社の取り組みを参考にしながら自分たちのガバナンスを構築したいという声が上がっているという。
「kintoneエンタープライズサークルに所属する企業を中心に、ガバナンスに関する情報をまとめようという機運が高まって、ガバナンスガイドラインを作成しました」(萩澤氏)
kintoneガバナンスガイドラインのポイントは3つある。1つ目が、現場自らシステム開発できることによるスピード感や柔軟性を維持しながら、アプリの品質確保やリスク管理など守るべきものを明示し、攻めのガバナンスをするということ。
2つ目が、ガバナンスルールは一度作成して終わりではなく、モニタリングを行い、利用状況の変化や組織の変化に合わせて継続的にアップデートしていく必要があるということ。
3つ目が、ガバナンスポリシーは企業によってさまざまなので、自社の状況に適した運用ルール作りが重要になるということ。
これらを踏まえ、ガバナンスを検討していく。その際は、kintone戦略に加え、組織や人材、プロセスといった領域の要素を組み合わせて考えなければならない。また、最終的なゴールを固定して推進するのではなく、1~2年で達成する目標を定めて、定期的に目標を見直すムービングターゲット方式でアップデートしていく方がよい。そのうえで、教育を行ない、kintoneガバナンスを実行する担い手を育てていくことも重要だという。
この連載の記事
-
第251回
デジタル
これからは“攻めの情シス”で行こう! 上司の一言でkintone伴走支援班は突っ走れた -
第250回
デジタル
誰にも求められてなかった「サイボウズ Officeからの引っ越し」 でも設定変更ひとつで評価は一変した -
第249回
デジタル
3000人規模の東電EPのkintone導入 現場主導を貫くためには「危機感」「勇気」「目的」 -
第248回
デジタル
入社1年目の壁を乗り越えろ!新卒社員が踏み出したkintoneマスターへの道 -
第247回
デジタル
Zoomを使わず「全国行脚」 振り返ればこれがkintone浸透の鍵だった -
第246回
デジタル
kintoneで営業報告を5.5倍に 秘訣は「共感を得る仕組み」と「人を動かす仕掛け」 -
第245回
デジタル
限界、自分たちで決めてない? 老舗海苔屋が挑んだkintoneの基幹システム -
第244回
デジタル
予算はないけど効率化はできる 山豊工建がkintoneアプリ作成で心掛けたこと -
第243回
デジタル
本社の100人全員がアプリを作れるケアパートナー kintoneをExcelのような身近な存在に -
第242回
デジタル
ヘビーなExcelをkintone化した阪急阪神不動産 迷っても「ありたい姿」があれば -
第241回
デジタル
頼られるってうれしい! やる気なかった若者がkintoneで変わった、成長した - この連載の一覧へ