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業務を変えるkintoneユーザー事例 第178回

基本機能だけで実現したのはコスト削減だけだったのか?

kintoneのライトコースを極限まで活用 昇栄に業務改善の風土が育つまで

2023年05月29日 09時00分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII

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 「kintone hive sendai 2023」の5番手として登壇した昇栄の山崎 梨英氏は、「ライトコースでどこまでできるか、基本機能の極限活用が生み出したものとは?」というタイトルで、kintoneによる業務改善を披露した。当初はコストを抑えるためのライトコースだったが、業務改善の機運を高めるのにライトコースという選択は正しかったようだ。

昇栄の山崎 梨英氏

最初は安価だけど、やりたいことが増えたらコストが上がるのでは?

 「物流プロフェッショナル」を謳う昇栄は福島県白河市の物流会社で、山崎氏のお父さんが立ち上げて今年で創業39年となる。従業員は350人で、白河市の本社を中心に、仙台、埼玉、群馬、宮崎など全国で15箇所の事業拠点を持つ。ビジネスとしては商品の保管、荷役、運送など物流業務全般をカバーする。「私の父はアイデアマンなので、現場には安全・品質を保つための創意工夫と日々の改善活動が行なわれています」と山崎氏は語る。

 2児の母でもある山崎氏の前職は、都内の子ども福祉事業所のNPO法人。安価なチーム応援ライセンスでkintoneを活用していたため、山崎氏も「昇栄に入社する前からkintoneの大ファン、サイボウズ大好きという状態でした」とのこと。3年前まで東京にいたが、大手EC事業者に勤務していた旦那さんが昇栄に入社。山崎氏も白河市にUターン移住し、リモートワークでNPO法人に勤務していたという。

事業継承のためにUターン

 専務として奥さんの父親が設立した会社に入社した山崎氏の旦那さまだが、なんでも印刷&ハンコ、バラバラのExcel管理などに不満たらたらだったという。kintoneファンである山崎氏がkintoneを勧めたところ、「最初は安価だが、やりたいことが増えたら、コストが上がるのでは?と」言われたという。結局、山崎氏も昇栄に入社し、スモールスタートでkintone導入を始めることになったという。

 昇栄の課題は品質を追うがあまり、落ちていた生産性。ミスを削減するために、厳重な確認フローとなっており、大量のExcelが必要だった。もちろん現場としては改善したいという気持ちはあるのだが、変えるためには周囲への説得が必要で、言い出しっぺの自分だけ仕事が増えてしまう。こうした改善活動のジレンマがあった。「みんな変えたいと思っているんだけど、チームのプロジェクトとして変えるタイミングがなく、ずるずる続けている感じでした」と山崎氏は語る。

品質を追うがあまり、生産性が落ちていた

 そんな昇栄での山崎氏のミッションは、月5万円かかっているライトコースを極限まで活用し、品質とスピードを両立させること。そして本社業務に改善風土を作り、kintone旋風を巻き起こすことだ。事例として紹介されたのは、毎月2~300件の振り込み入力の社内決済を実施し、全銀フォーマットを自動生成できる「IB(インターネットバンク)支払い登録アプリ」だ。

振り込み処理を効率化するkintoneからの全銀フォーマット出力

 全銀フォーマットとは、どの金融機関のインターネットバンキングでも利用できる振り込み登録用のCSVファイルのこと。数千、数万件の振り込みをするような大企業であれば、基幹システムから出力できることも多いが、数百件程度の中小企業の場合はそういうわけにもいかない。そのため、経理担当者がExcelとコピペを駆使して、手作りしていることが多い。

 昇栄の場合、200~300件の支払い情報を月別、支払い元銀行別、取引先別、インターネットバンク用に4回入力していた。これを紙とハンコの決裁に回していたが、前述した通りミスを防止するために厳重な確認フローをひいていたため、作業時間は長かった。「最終決裁者である専務の夫は月末になると大量の書類にハンコを押さなければいけない。そんな状態に陥っていました」(山崎氏)。

 山崎氏は、この処理をkintone化していった。1振り込みごとに1レコードで都度入力し、プロセス管理で決裁していく。すべての決裁が終わると、月末にそれらをとりまとめて全銀フォーマットに一括出力し、インターネットバンクに登録すれば振り込み処理は完了する。最初に1回の入力するだけで済むため、入力回数は今までの1/4。50時間の削減につながり、「月末最終週の残業がなくなった」という経理主任から喜びの声が上がったという。

振り込み業務のアプリ化

 注目すべきは、この処理をカスタマイズのできないライトコースで実現していること。そのため山崎氏はさまざまな工夫をアプリに施している。

 たとえば、擬似的な入力制限できる「エラー表示文字列一行」だ。基本機能では入力制限ができないため、たとえば日付だと1000年から9999年まで入力可能になってしまう。そのため、自動計算式のIFを用いて、振り込み指定が日曜日だった場合、過去の日付だった場合などを指定し、一定条件でエラーメッセージを表示できるようにした。

 さらにプロセス管理を用いて、エラー確認の欄がブランクでないと、次のプロセスに(承認)へ進めないように制御した。「期待しない値を入力したり、保存したりはできるのですが、先に進めないため、間違って承認されることも起きません」という方法でイレギュラーな金額が振り込みに回らないようにしている。エラーメッセージは入力ガイドも表示できるので、ユーザーも間違いに気がつきやすいという。

エラー表示文字列一行

エラー確認がブランクにならないと次に進めない

 全銀フォーマットへの出力方法は説明するには長いため、講演では省略されたが、山崎氏に直接話を聞いて、kintone連載記事としてライターの柳谷氏に起こしてもらったので、そちらを参照してもらいたい(関連記事:kintoneのライトコースで全銀データを作成する方法を聞いてみた)。

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