<前回のあらすじ>
サントリーの山崎蒸溜所は今年100周年を迎えるにあたって、ただ今リニューアル工事中。アスキーグルメのナベコは改修直前の春にメディア向け見学会に参加してきました。
蒸溜所見学のツアーガイドをしてくれるウイスキー事業部シニアスペシャリストの佐々木さんがスタスタと設備内を歩いてきます。はたして、佐々木さんに最後までついていけるのか? ウイスキー蒸溜所の内部はどうなっているのか?
■前回の記事→100年の歴史があるサントリー「山崎蒸溜所」が生まれ変わる! お酒好きな記者が歴史と見どころを押さえに行ったよ
いよいよ内部に潜入
「発酵室」はちょっとキケンな香り
まずは仕込み室なるところへ案内していただきました。
まさにただいま仕込み中!
ゴゴゴゴゴッ~と機械が唸り声をあげていました。
部屋中にムワッと立ち込める熱気。ぬるくなったビールから立ち上るような麦芽特有の甘い香り。
麦芽を粉砕して、仕込み水と呼ばれる温水と混ぜてお粥状態にするのが仕込み工程。仕込み槽からは確かに、麦芽を粉砕する音などが聞こえてきました。
その音は非常に大きく、見学用に着用しているインカムがなければほとんど声が聞き取れないほどでした。
臨場感たっぷりとはこのこと。
■ナベコの驚き:仕込み室は轟音!
次に訪れたのが、発酵室。こちらは一般の見学者は中に入れないのですが、取材時には特別に入れていただけました。
こちらで、ウイスキーで一番大事な発酵工程が進められます。仕込みで作った麦汁をアルコール分約7%の発酵液に変えるという工程。
山崎蒸溜所では、様々なタイプの原酒をつくるために木桶発酵槽とステンレス発酵槽の両方を使い分けているんですって。
佐々木さんの長い足の下に視線を移していきましょう。
なんと!
発酵槽は深さ5mほどあるとのことで、足場はあるものも下がすけすけで高所恐怖症の人はおそらくここに立つことはできないです。
さて、発酵槽の中ではどういうことがおこっているのでしょう。本来は蓋が閉じられているところ、そっと開けていただくと……。
あら。モコモコと泡が立っていますね。
のぞき込もうとすると「これ、あんまりにおいをかがないでくださいね、気絶しますからね」
え……?
そうなんです、発酵工程では酵母が糖をアルコールと炭酸ガスに分解されるため、槽の中には炭酸ガスが充満しています。まともに嗅ぐと意識を失ってしまいます。
なんともスリリングです。
泡をつぶすために内部で羽が回っていまる様子も見られました。
発酵がずいぶん進むとこのように泡が収まり下がっていきます。ちなみにこの状態でもにおいは危険かどうかお尋ねしたところ……。
佐々木さんは「全然危ないです! 実際かぐとね、ちょっとキケンなにおいがするんですよ。やらないでくださいね!!」と、力強く返ってきました。
お、おう。気を付けます。
■ナベコの驚き:「ダメと言われるとやりたくなる」は本当にダメな時がある。
ズラリと立ち並ぶポットスチルがかっこよすぎる!
ようやく蒸溜室へ。稼働しているポットスチルを見るときがやってきました。ここが一番の見どころではないでしょうか。
……ですが、残念なことに蒸溜室は室内の中での撮影は禁止。ガラス越しに部屋の外から撮るのはオーケーということ。よしっ撮らせていただきます!
金管の楽器を思わせる光沢あるポットスチルがズラリ。全部で16基あるそうです。
ポットスチルは蒸溜のための設備。基本原理としてはアルコールが約80度で沸騰するという特性を活用しています。
アルコールを蒸気に変えた後、その蒸気を冷却して再度液体に戻すと、液体化の段階でアルコールや香りを発する成分など揮発性成分だけが取り出されます。これら揮発性成分の抽出にポットスチルが重要な役割を果たすわけです。
並んでいるポットスチルは少しずつ形が違って、まったく同じものはありません。形状や高さによって原酒のタイプが変わってくるため、組み合わせて原酒づくりをしていきます。
例えば、とんがったところが高いものほどすっきりした味わいに、低いものはどちらかと言えば厚みがある味わいになるとか。
ただし佐々木さんによると、「どういうポットスチルでこうすればああなる」といった知見は世界共通ではありません。なぜなら、蒸溜所の気候など様々な要因に影響されるからです。
結局はトライアンドエラーを繰り返して蒸溜所の中で知見を積み上げていくこと。非常に難しいですが、それがウイスキーづくりのおもしろさでもあるようです。
■ナベコの驚き:ポットスチルをよくよくみていると太っちょだったり瘦せ型だったりそれぞれで愛着がわいてくる。
ちなみにこの蒸溜室、中に入ると暑い、暑い。アルコールを沸騰させているわけですから。熱気がスゴイです。
なお写真には撮れませんでしたが、内部で技師がサンプリングをする箇所がありました。そしておもしろいことに、南京錠が取り付けられた跡が(現在はかかっていませんでした)。
南京錠は、誰かが勝手に飲まないように、という過去の風習。というのも、蒸溜段階のお酒は、法律上まだ酒税がかかっていません。ですので、製造上で必要な試飲以外でそのお酒を飲んでしまうと、酒税法違反になってしまいます。そのためにも南京錠がかかっていたんですって。
■ナベコの驚き:蒸溜所内での宴会は、ダメ絶対。
今はもちろん、さらなる徹底的な管理で目が行き届いているため、アナログな南京錠は必要ないということです。
樽の貯蔵庫にたどり着きました
そして一同が最後に訪れたのは樽貯蔵庫。見てください、ズラリと並んだ、樽、樽、樽。
庫内はポットスチルがあったところと打って変わって湿気があってひんやりと涼しいです。この涼しい環境で樽が熟成されていくんですね。
樽の内部はこんな感じ。ちなみに熟成の期間中に、樽のすき間から少しずつウイスキーが蒸散するため、わずかに量が減っていきます。減ったウイスキーのことはポジティブに「天使の分け前」と呼ぶそうです。
ウイスキーの樽にはバーレル、ホッグスヘッド、パンチョン、スパニッシュオーク樽、ミズナラ樽などのいろいろな種類があります。
樽を使い分けることで原酒のバリエーションが増えていきます。
とんでもなく古い樽も見ることができました。
こちらは1924年原酒の熟成樽。そうです、山崎蒸溜所が稼働し始めて、日本で初めてのモルトウイスキーづくりに取り組んだ際の原酒の熟成樽です。
国内のウイスキーづくりの最古の樽は、スペインのカディスから仕入れたシェリー樽だったようです。100年前のものが残っているとはスゴイ!
■ナベコの驚き:「樽ごとお酒を飲みたい」という夢があったけどウイスキーの樽は大きいのが多くて無理そう。
山崎蒸溜所の特徴は、貯蔵庫内も人が歩けるスペースが広いこと。見学できるようにと意識して並べられているようです。樽をめっちゃ見れて楽しい! 楽しい!!
そして最後に訪れたのは……
貯蔵庫を抜けて出て最後に訪れたのは泉が湧き上がる静かな庭園でした。
こんこんと湧く山崎の水。清らかに澄んでいて、立ち上る空気は山奥に分け入ったかのような大自然そのものでした。
豊かな自然の中に山崎蒸溜所があるんですね……。そして少し歩くと神社が。
蒸溜所の敷地内にある椎尾神社です。
「サントリー ローヤル」の微妙なカーブを描く栓は、この鳥居をみて着想を得たとか。
■ナベコの驚き:山崎蒸溜所、自然がスゴイ!!
蒸溜所って「ものづくり工場」のイメージもありましたが、実際に訪れると昔ながらの木桶があったり、ポットスチルがひとつひとつ形が違ったり、手でつくりあげているんだなという印象に変わりました。
なにより、山崎のこの豊かな自然と歴史に育まれているということに感激です。
書いてきたように山崎蒸溜所の体験はただいま休止中。秋に向けてリニューアルを実施しています。これからさらに体験施設が充実するであろう山崎蒸溜所はお酒好きにとってステキ観光スポットとなるでしょう。
また、山崎蒸溜所内には、山崎ウイスキー館という施設がありました。山崎の歴史をたどる資料や様々な原酒を展示している場所も。有料のテイスティングブースやショップもありましたよ。
↑こちらは山崎ウイスキー館の原酒が並んでいる空間。
ナベコ
酒好きライター、編集者。酒活動しています。「TVチャンピオン極~KIWAMI~ せんべろ女王決定戦」に参戦するなど。ホットカーペットが気持ちよすぎて床で寝おちして朝陽で気が付く日々。せっかく年始におろしたパジャマを着ないと……。
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