業務を変えるkintoneユーザー事例 第173回
青森県のニイヤマハウスでkintoneが業務に定着するまでの3年間
作る人と使う人で拡がる可能性 元ゲームプログラマーが気づいたkintoneの価値
2023年05月08日 09時00分更新
2023年4月13日に開催されたkintone hive sendaiの3番手は、六戸町の工務店であるニイヤマハウスのkintone導入記。3年間で業務のkintone化、情報の集約、共有までステップアップさせたのは、元ゲームプログラマーの長南 卓弥氏。自身のプログラムより、kintoneが活用されてしまったという定着までの顛末を語ってくれた。
元ゲームプログラマー、業務課題を解消できるアプリを作ってみたが……
「元ゲームプログラマーが住宅会社に転生したら最強だった件」という講演タイトルが示すとおり、今回登壇したニイヤマハウスの長南 卓弥氏は元ゲームプログラマー。山形県鶴岡市出身で、ゲームプログラマーを経て、現在は青森県六戸町の工務店であるニイヤマハウスでSNSを活用したWebマーケティング、広告物の作成、そしてkintoneを活用した業務改善に取り組んでいる。
ニイヤマハウスは創業36年で住宅の新築、リフォーム、建て替え、その他建築工事全般を行なっている。新築工事を従業員数は20名程度で、決して大きくはないが、自社大工が建築に携わっている。昨年の建築実績は26棟で、「デザインはもちろん、性能面や導線までとことんこだわった住宅を建築しています」と長南氏は語る。
同社は問い合わせから見学、打ち合わせ、契約、建築工事、引き渡し、アフターフォローまでトータルでカバーしている。「住宅の購入というのは、ほとんどの方にとって一生に一度の大きな買い物です。ですから、お客さまにはより長く、快適に暮らして欲しい気持ちがあります。だから住宅会社は家を建てて終わりではありません。アフターフォローまでがとても重要になっています」と長南氏は語る。
具体的な業務件数を見ると、問い合わせは年間70件、契約・建築は23件なのに対して、現場監督や職人が担当するアフターフォローは150件と全体の6割を占める。建築件数が増えれば当然増加するため、業務としては年々重くなっていく。そして、アフターフォローの負担が大きい理由の要因の1つとして、住所、連絡先、引き渡し日、図面、設備、メーカー、型番、保証期間など必要な情報が非常に多いことが挙げられる。「本来であれば1ヶ所にまとまっており、いつでも、だれでも、どこにいても確認できるのが理想」と長南氏は語る。
しかし、kintoneを導入する3年前、これらの情報は紙やExcel、住宅管理システムなどに分散しており、担当者によって使うツールも異なっていた。問い合わせに関してはそもそも管理されておらず、展示場への来場管理はGoogleカレンダー、アンケートや追客、成約や打ち合わせなどは営業や設計の担当者がExcelで管理していたため、状況を確認するためだけの非効率な会議も多かったという。
そんな業務の現状を見た元ゲームプログラマーの長南氏は「ないなら作ろう」とアプリを作ってみた。しかし、「なぜか当社には合わず、活用してもらえませんでした」という憂き目を見る。「正直、プログラマーとして傷つきました。なんとか活躍できる方法はないかと思いました」(長南氏)。
130ものアプリから必要な情報を集約したポータルの作り方
そんなときに展示会で出会ったのがサイボウズのkintoneだ。「パーツを配置するだけでアプリを作ることができ、JavaScriptでカスタマイズもできる。kintoneを入れればこの状況を改善できるのではないかと考え、さっそく導入しました」という長南氏。ゲームになぞらえ、長南氏は「kintoneとの3年間の冒険が始まりました」と振り返る。
最初にやったのは「業務のkintone化」。前述した問い合わせ、展示会への来場、来場アンケート、追客、成約・打ち合わせ、引き渡し、アフターフォローまで管理をすべてkintoneでやることにした。
たとえば、問い合わせ管理を使えば、担当者が受けた問い合わせ内容を営業担当者に引き継ぐことができる。展示場の来場アンケートも紙からkintoneに変更し、営業担当者が展示場を回りながら、アンケートを埋めているため、案内もスムースになったという。担当者ごとにExcelで管理していた追客に関しても、担当者以外でも感度を共有できるようになった。さらに引き渡し後の物件管理もkintoneで行なっており、保険の加入状況や引き渡し後の点検などを確認し、顧客に案内できるようになっている。
次にやったのがこれらの「情報の集約」。アプリごとに分散した情報を、顧客データアプリにひも付けている。当然、情報量も膨大になるので、タブを導入。また、顧客データアプリにもレコードの追加機能を持たせたので、担当者が業務の情報を追加すると、自然とデータベースも更新されることになるという。
最後にやったのが「情報の共有」だ。「ここまでで作成したアプリの数は約130ほどあります。ここから必要な情報だけを取り出すのはとても難しいので、ポータル画面に必要な情報だけを載せました」とのこと。しかし、これでも情報量が多すぎ、画面の一番下まで行かないと確認できない情報も多く、使いにくいという声も上がったという。
ここで参考にしたのは、カスタマイズに関する情報が満載の「Cybozu Developer Network」だった。テンプレートがあるので、使いやすいポータル画面にカスタマイズすることが可能になるという。前述したタブの機能もこちらの書き込みを参考にしており、ポータル画面にも「個別スレット」「営業」「アフター」などのタブ機能を実装して、見やすくまとめた。
改善は1度で終わらない プログラマーだからといって機能で改善できない
導入効果としては、「非効率」と感じていた情報共有のための会議が半減したことだ。「お客さまの打ち合わせ前に行なっていた事前会議に関しては、kintoneで共有している情報を使えるようになったので、ほとんどやらなくなった」(長南氏)という。
ここまで聞くと順調そのものの導入のような気がするが、担当した長南氏からすると、「多くの敵に遭遇した」という。たとえば、「覚えられない」という声に関しては、「覚えてくれなければ、改善意見も出ないので」(長南氏)、ひたすら教えることを繰り返した。また、「使いにくい」という声については愚直に改善とカスタマイズを繰り替えした。
さらに「入力漏れ」という問題もあった。これに関してはkintone側で必須項目にする方法もあったが、営業からは反対意見も出た。展示場の案内当日にアンケート項目の入力を減らすために、お問い合わせ内容から事前にアンケート項目を入力しておこうとしたが、必須項目に入力できない箇所があったという。これに関しては、必須項目を解除し、入力漏れのたびに声がけするというアナログな方法で対応した。
長南氏は、「改善は一度では終わらないし、プログラマーだからといって、すべて機能で改善できるわけではない。だから指導については時間を使いました」と振り返る。しかし、この結果、kintoneの利用も進み、質問の質も上がり、kintoneでこういうアプリを作って欲しいというリクエストも出るようになったという。「3年間かけて仲間とともに作り上げてきたkintoneは、会社の武器になり、資産になりました」と長南氏。
今後はExcelで作成している提案書や契約書などの書類作成、現場で紙入力している検査、点検などもkintone化していく予定。最後、長南氏は「開発者の意見だけではいいものはできない。使う人の意見を作るからこそ最高のものができる。kintoneは作る人と使う人によって無限の可能性を持ったツールだと思っています。この事例が改善の手助けになれば幸いです」とコメントした。
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