4月に入ってすぐ、オーディオ関連ではちょっとショッキングなニュースが流れた。「What Hi-Fi?」誌など、海外のオーディオ系メディアの報道によると、MQAが経営破綻したという。
海外メディアが入手した情報によると、MQAの主要な資金提供者が撤退を模索し、リストラクチャリングを実施したという。この記事には米国連邦破産法第11条(チャプター11)に相当する手続きを経て、管財人の管理下に入ったという内容があり、事実であれば経営破綻したことになる。
この時点では日本ではその真偽を確かめるすべがなかったのだが、現在MQA社のホームページを開けて一番下のフッターを見ると、画像のような注意書きが書かれている(4月13日に確認)。
The affairs, business and property of the Company are being managed by Philip David Reynolds and David Hudson who were appointed Joint Administrators on 3 April 2023. The Administrators act as agents of the Company and act without personal liability.
(翻訳: 会社の業務、事業、財産は、2023年4月3日に共同管財人に任命されたPhilip David ReynoldsとDavid Hudsonによって管理されています。管財人は当会社の代理人として行動し、個人的な責任を負うことはありません)
これは英国の企業法・破産法に基づいて行われる表示で、この両名が英国法廷の指示により会社を管理するために共同管理人として任じられたことを示している。共同管理人とは企業資産の保全、債務者と債権者の調停、企業再建の措置などを講じることができる役割を持つ法律の専門家である。
このことは必ずしも破産状態を意味しないが、少なくともMQAが財政再建途上であると考えられる。
一方、Billboard誌の記事によると、この件はMQAの長年の資金提供者だったReinet Investmentという投資会社が3月17日に代表取締役会から去ったことによるものらしい。MQAはこれまでこの会社の資金で支えられてきたようだ。記事ではこの投資会社の代表がMQAの取締役を辞任ではなく解任されたという表現なので、もしかするとなにか複雑な事情があるのかもしれない。
そして4月12日に海外のフォーラムであるRedditのAMA(Ask Me Anything)において、TIDAL CEOのJesse氏が、TIDALの「HiFi Plus」プランで、ハイレゾFLACの導入を始めるという発言をした。
有名人が直接質問に答えるコーナーであるAMAは日本ではあまり知られていない。日本ではRedditは2chのようなものとも捉えられているので信憑性に疑問を抱く人もいるかもしれないが、この件についてはTIDALのプレス窓口に問い合わせをしてCEO本人の発言だという確認を取った。
この件はMQA技術で支えられてきたTIDALのハイレゾストリーミングの転換を示していると考えて良いだろう。
MQAの行く末についてはまだなにもわからない。おそらくは開発元であるMeridian(メリディアン)がMQA技術を引き取るようには思うが、市場の熱が冷めていかないかは心配だ。なお、現在手持ちのMQA音源については当面は問題ないし、仮にMQAデコーダーが使えなくなったとしても、MQAファイルはCD品質(44.1kHzまたは48kHz)のPCMファイルとして再生可能である。
気になるのは現在話題となっているワイヤレス向け規格であるSCL6(MQAir)の動向だが、これももちろんまだ先は藪の中だ。事態が良い方向に向いて行くことを祈りたい。
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