動画エンコードに特化したメディアアクセラレーターカード
「Alveo MA35D」
今回はやや毛色の違う話題をご紹介したい。4月5日にAMDはデータセンター向けのメディアアクセラレーターとしてAlveo MA35Dを発表した。
製品の位置付けとしては、ちょうどインテルのサーバーGPUと同じようなものになる。ただインテルのサーバーGPUは、メディアトランスコードとクラウドゲーミングの両方の用途を狙ったものに対し、Alveo MA35Dはメディアトランスコードに特化した製品となる(ので、GPUの分類には入らない)。
そもそもAlveoという製品ラインナップであるが、これは旧Xilinxのものである。もともとXilinxはFPGAのチップを販売する会社であり、ただチップだけでは当然動かないので、これを基板の上に実装して周辺回路を組み合わせて初めて動くようになる。
もちろん、開発用にそうした周辺回路を載せたボードはXilinxやパートナーから多数出荷されていたが、これは開発用の回路などまで載せたもので、最終製品に使うには大きすぎ、かつ開発用ということでさまざまな用途に使えるように拡張性を最大限に利用できるように工夫されている分高価である。
ただ組み込み向けにはこれでも構わなかったのだが、旧Xilinxも2018年にVictor Peng氏(現在はAMDのPresident)がCEOに就任してから方向性が少し変わってきた。組み込み向け市場のトップシェアを握ったXilinx(これは競合だったAlteraがインテルに買収されたことで、次第にシェアを落としていったことも一因である)が新たな市場としてサーバー市場に注目したからだ。
“Datacenter First”がこの時期のXilinxの基本戦略であり、サーバー向けにXilinxのFPGAをもっと利用してもらう方策を考える必要がある。こうなると、先に書いたチップ単体売りのままではあまり上手くいかない。そこで2018年、FPGAを搭載したPCIeカードを発売する。これがAlveoシリーズの始まりである。
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2018年のXDF(Xilinx Developer Forum)でAlveoを披露するPeng CEO(の右手)。ちなみにこの時点ではXCVU9Pを搭載するAlveo U200とXCVU13Pを搭載するAlveo U250の2製品がラインナップされていた
一般的に言えば、FPGAには「自由にロジックを組み替える」機能と「多彩な入出力をサポートする」機能の2つがあるが、Alveoの場合は後者を殺し、前者だけをサーバーで簡単に使えるようにしたもの、と考えればいい。サーバー用途にいまさら入出力を追加しても仕方がないのでこれは殺し(イーサネットだけはそのまま利用している)、その代わりFPGAのロジックをPCIe経由で簡単に利用できるようにしたかたちだ。
この後Xilinxは同じ2018年11月に、HBM2メモリーを搭載したAlveo U280を、2019年8月にはメインストリーム向けにシングルスロット/フルハイトのAlveo U50をそれぞれ発表。現在は6製品ほどがラインナップされている。
またXilinxは2019年にSolarflare Communicationsという会社を買収しているが、同社は金融の高頻度取引向けにXilinxのFPGAを搭載したイーサネットカードを出荷しており、この仕組みを取り入れたものがAlveo SN1000として2021年2月に発表された。これはSmartNICというジャンルに分類される製品だが、こちらも現在は3製品ほどがラインナップされている。
さて、SmartNICはともかくAlveoは基本的には汎用製品であり、その使い方は顧客に任されている(もちろんいくつかの用途に向けてさまざまなソフトウェアライブラリーなどは提供している)のだが、2020年6月にはそのAlveoを利用してビデオストリーミングを提供するためのアプライアンス(専用装置)を発表する。
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発表時にはこのアプライアンスのシャーシが紹介されたが、これはいわばリファレンスデザインであって、実際Alveo以外は汎用のx86サーバーで済むため、これを利用したケースはけっこう少ない
利用されるのは、すでに発表済みのAlveo U50に加えてこの2020年6月に追加されたAlveo U30である。ここでH.264やH.265のエンコード/デコード機能はIPのかたちでXilinxから提供され、これをAlveoに搭載されたFPGAにロードしてやれば直ちに高性能なトランスコーダーが利用可能になるという話である。
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Alveo U50とAlveo U30。どちらを使うのかは顧客次第という話であった。ちなみにAlveo U50はTDPが75W、Alveo U30は50W(エンコード利用時はおおむね35W)という発表だった
この時点ではFFmpegを利用してこのAlveo上のトランスコーダーを利用できるようなミドルウェア(というよりドライバー)が提供されていたので、あとは顧客(アプライアンス製造ベンダー)が上位のソフトウェアを用意することでビデオアプライアンスサーバーが簡単に構築できる、というわけだ。
2020年6月の発表の際には、wistronがこのリファレンスをそのまま発売した(どうもこのリファレンスデザインそのものを製造したのがwistronらしい)ほか、HPEがProLiant Gen10+ DL480/DL385にAlveo U50を8枚装着したサーバーを、HypertecがAlveo U30を7枚装着したEdge 2UアプライアンスとAlveo U30を10枚装着した2Uアプライアンスを、Boston Servers, Storage & SolutionsがSupermicro 1RUという1UのサーバーにAlveo U30を8枚装着した製品を、それぞれ出荷予定(一部はすでに出荷開始)と報じていた。
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