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ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第714回

AMDのメディアアクセラレーター「Alveo MA35D」はナニがすごいのか?

2023年04月10日 12時00分更新

文● 大原雄介(http://www.yusuke-ohara.com/) 編集●北村/ASCII

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4コアのRISC-Vプロセッサーを2組搭載

 さておもしろいのはここからだ。下の画像がそれぞれのチップの内部構造である。

Alveo M35Dの内部構造。カードの価格だが、Alveo U30が799ドル、Alveo M35Dが1万5999ドルで要するに2倍である。ただ処理性能はAlveo M35Dが4倍だから、コストパフォーマンスは倍に改善されたわけだ

 エンコーダーは4つ搭載され、うち2つはH.264/H.265/AV1の兼用、2つはAV1のみの対応となっている。VQ QoEエンジンやVQ Lookaheadは後述する。AIプロセッサーもやはりVQに関係する部分なので、これも後述するとして、特徴的なのが“AI Processor”の下と“PCIe Gen5”の上にそれぞれ位置するクワッドコア・マイクロプロセッサーである。

 Alveo U30の場合はおそらくZynq Ultrascale+のZU5グレードのうち、ZU5EGかZU5EVのどちらかを搭載していると見られるが、ここには1.5GHz駆動の4コアCortex-A53MPと2コアのCortex-R5Fが搭載されている。

 したがってCortex-A53ないしCortex-A57グレードの製品が内部の制御用に搭載されているものだと考えたのだが、なんと質疑応答の答えは「4コアのRISC-Vプロセッサーを2組搭載している」であった。

 「なぜRISC-V」という問いの答えは「最適なプロセッサーを選んだ」というもので、そのIPが内製か外部のものか、性能はどの程度のものかといった具体的な質問も一切明確な回答はなく、唯一の答えが「Alveo M35D内部で必要なさまざまな処理をホストCPUからオフロードするに十分な処理性能を持っており、またエンコード・アルゴリズムの改良に対応する」だった。

 前半は簡単で、エンコーダーの制御や細かいデータのハンドリングなどをホスト側のCPUを使わずにこのRISC-Vコアで実施するというものだ。問題は後半で、現在はまだ具体的になにかあるわけではないが、今後新しいアルゴリズムが登場したような場合、現在の内蔵されるエンコーダー/デコーダーでは対応できなくなる。そうした場合に(性能はともかくとして)その処理を肩代わり可能、という話である。

 実はAMDはRISC-V InternationalにStrategic Member(上から2番目)として加わっており、そしてAMD自身のCPUの設計能力は疑う余地もない。かつてZenコアを開発中に、これと並行してArm v8AベースのK12コア(Zenコアのデコード部をArm v8A対応に置き換えた物)を開発していたことを考えると、自前で開発していても不思議ではない。

 ある程度使い物になるコアができたので、評価も兼ねて外部からは直接触れない所に実装してみる、というのはありそうな話である。もっとも、だからと言って今後AMDがRISC-Vベースのプロセッサー製品を出すか? というとこれはまた別の話であるが。

 ところで先ほどVQという言葉が出てきた。これはVideo Qualityの意味で、要は画質評価である。通常エンコーダーでの画質調整は、最終的にはビットレートで調整するかたちになるが、単にビットレートだけでなく画質を評価するための内部的な指標をいくつか策定し、これを利用して画質を改善するという仕組みがAlveo M35Dには搭載されている。

前半は動画のデコードで、中央のABRスケーラーは複数のフォーマット(例えばYouTubeでは画質が何種類か選べるが、アレだ)を展開するための仕組み、そして最後がエンコードとなる

 先ほどVQ QoEエンジンやVQルックアヘッドという用語が出てきたが、VQ Lookahead Engineというのは上の画像で言えば“VQ解析”という部分で、エンコードされた出力画像を解析し、指標に基づいて画質を数値化するための仕組みである。

 その出力を受け取って、細かく画質を改善するように調整するのが“VQを予測した最適化”の部分で、ここがVQ QoE(Quality of Experience)エンジンとされている部分に相当する。上の画像を見るとここにAIが入るとされているが、最近ではAIを利用して画質の改善や超解像の実現を行なう話はいくつか耳にされているかと思う。実際そうした製品がすでに世の中にはいくつか存在している。

 このVQ PoEエンジンは2つ前の画像の“AI Processor”と連携して動作する格好になると思われる。このAIプロセッサーも詳細は公開されていないが、おそらく連載674回で説明したAIエンジンをそのまま搭載していると考えられる。

 実際にSD解像度(1280×720ピクセル)を200kbpsという低いビットレートでエンコードした際の画質の違いが下の画像で、確かにディテールが大幅に改善されているのがわかる。

顎や頬の周り、左側は結構ブロックノイズが目立つが、右側はそれが綺麗になっているのがわかる

 これは逆に言えば、画質を左並みに落としても良ければビットレートをさらに下げられるという意味でもあり、AV1の圧縮率向上の一助になっているとして良いかと思う。

 連載710回で少し触れたが、インテルはFlex 140/170の後継となるLancaster Soundをキャンセル、Melville Soundを投入するとしているが、投入には相応の時間がかかるだろう。

 その間にAMDはあっさりASICベースでメデイア・トランスコーダーを投入するあたりが両社のアプローチの違いを示していて興味深い。どうかすると、そのうちAIエンジンだけを搭載したPCIeカードも、やはりASICのかたちでリリースされるかもしれない。

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