NECネッツエスアイは、全社員でのデータ活用を目指して、新世代のデータ分析ツール「ThoughtSpot(ソートスポット)」を昨年から導入している。ThoughtSpotのCEOのスディーシュ・ナイア氏に製品の特徴、NECネッツエスアイにThoughtSpot選定の背景や導入効果について聞いた。
データ分析の先にあるアクションに導くThoughtSpotのAI
ThoughtSpotは検索とAIを用いたリアルタイムな分析を可能にする新世代のデータ分析ツール。自然言語で検索できるユーザーインターフェイスと何十億行のデータを高速に処理できるアーキテクチャを持ち合わせており、ビジネスユーザーによるリアルタイムなデータ分析を支援する。開発元であるThoughtSpotは2012年に北米で設立され、2019年には日本法人ソートスポットが設立されている(関連記事:ビジネス現場の「仮説検証型データ探索」実現、ThoughtSpotが日本法人設立)。
ThoughtSpot CEOのスディーシュ・ナイア氏は、「AIを搭載することで、他社製品で解決できない問題を解くことができる」と語る。具体的にはデータの準備、インサイトの発見、インサイトに関する説明、そしてチャットによるインタラクティブなやりとりの4つがAIで実現されているという。
「データ分析の分野では『ガラクタなデータはいつまでもガラクタ』と言われる。だから、データをクリーンにし、準備し、モデリングする必要がある。ThoughtSpotを使えば、こうした複雑でコストがかかる作業はAIに任せることができる」とナイア氏は語る。
また、分析対象のデータも日々増大しているので、クラウドにアップロードするに際しては、データ準備の処理も高速化を要求される。「データが増え、処理能力も必要になってきた今では、人の処理ではもはや追いつかない。そこでAIが効果を上げることになる」(ナイア氏)
ThoughtSpotでは、AIを活用することで、データ分析の先にあるアクションに結びつけることが可能になるという。「クラウドやモバイル、IoTなどのテクノロジーにより、多くの企業がビッグデータを所有できるようになっているが、これらを分析して、行動に移すことができなければ、そのデータは無駄になってしまう。こうした状況を解決するためには、1人のエンジニアにデータを渡すだけでは解決できない。だから、ThoughtSpotはAIを活用している」(ナイア氏)。
異なるツールを部門単位で利用 全社目線の判断ができなかった
このThoughtSpotを用いて、全社員のデータ活用を目指しているのが、システムインテグレーターのNECネッツエスアイである。
NECネッツエスアイは2007年から働き方改革を推進しており、東京オリンピック前の2019年までにオフィスを東京近郊の7箇所に分散配置し、自宅からの出勤を容易にした。また、テレワークを効率的に行なうべく、SFA・CRMのSalesforce、Web会議のZoom、チャットツールのSlack、自動化を実現するWorkato、認証基盤のOktaなどさまざまなクラウドサービスを導入した。こうした施策の結果、コロナ禍でのテレワーク前提のワークスタイルになっても、生産性を落とさずに業務を実施できたという。
現在は出社比率も4~5割程度に戻り、ハイブリッドな勤務体系となっている。そんな同社が現在進めているのは、全社員を対象としたデータ分析環境の構築だ。NECネッツエスアイ 執行役員常務 ビジネスデザイン統括 本部長の菊池惣氏は、「コロナ禍において、『われわれの働き方は果たして生産性が高いのか?』という疑問が出てきました。これを実現すべく、さまざまなクラウドのデータを分析することにしました」と語る。
同社はもともと限られたメンバーがデータ分析を行なっていたが、やりたい分析に人手が追いつけないという課題があった。また、BIツールも部門ごとのそれぞれ異なるツールを使っていた。見方もデータも違うため、全社目線での判断ができなかったという。
なぜ全社員でデータ分析できる環境を整えるのか? これに関して鈴木氏は、「データ分析はなるべく現場でやるべきだと考えています。アクションをとるのはやはり現場。現場の人たちが気づくことが成果につながると思っています」と語る。経営側としても、部門やレイヤーごとに分散していたデータを1つに統合したいという希望があったという。
ググる感覚でリアルタイムにデータ分析できるThoughtSpotの強み
こうしたデータ分析のツールとして50近い項目で比較した結果、選定されたのが「ThoughtSpot」になる。菊池氏は、「データアナリストじゃないと使えないというツールでは、利用者のニーズも増えません。できればググる感覚でデータ分析ができ、ノーコード・ローコードでデータ活用できるツールがほしかったのです」と語る。ThoughtSpotはまさにこのニーズに合致したのだ。
現在、ThoughtSpotはNECネッツエスアイの社員全員に解放されており、現在は約1500人が利用している。幅広いユーザーで利用可能なのも、ThoughtSpotはユーザー数無制限というライセンス体系をとっているためだ。システムとしてはSalesforceを中心としたクラウドデータをクラウド型DWHのSnowflakeに保存し、ThoughtSpotでデータを取得して分析。働き方やプロセスの改善、イノベーションの創出につなげているという。
実際、ThoughtSpotでの調べ方は簡単だ。「2022年の売上を事業部別に、月別に出してください」と入力するとしたら、「月」と入力するときに、「月別」というサジェストが出てくるようなイメージ。まさにググる感じで調べたいことを打ち込むと、数秒後にグラフが表示されるという。
こうした使い勝手なので、教育は特に行なっていない。鈴木氏は、「今、1500名くらい使っていますが、そのうち一割くらいはすでにダッシュボードを作ろうとしています。なにも教えなくても、データ分析できるという点がThoughtSpotの強いところですね」と語る。
また、リアルタイム性が高いのも特徴の1つ。ThoughtSpotは検索を行なうたびに、Snowflakeから新鮮なデータを取得し、高速に分析処理を行なう。そのため、リアルタイムに現状を把握できる。「今までは原価分析を出す際も、レポートになるまで1週間くらいかかっていたと思います。でも、ThoughtSpotであれば、3クリックして、30秒程度待つくらいで出てくるんです」と鈴木氏は語る。
なぜ?ではなく、どうすべきかの判断に 会議の質が変わる
導入効果としては、まず予算会議が変わったことだ。今までは予算会議のために、それぞれの事業部の担当者がExcelでデータを集め、関係者同士の意識あわせを行ない、PowerPointで資料を作っていた。しかし、予算会議でThoughtSpotのデータを使うようになったことで、PowerPointの資料を作成している960時間がまるまる浮くようになった。
会議の準備にかかる時間も削減されたが、それより大きいのは会議の質も変わってきたこと。リアルタイムにデータをクエリするThoughtSpotでは、数字が変化している原因を知るために、詳細のデータにドリルダウンすることができる。「今までの予算会議は、予算に対してなぜ数字が変化しているのか問い続ける時間でした。でも、ThoughtSpotを使い始めることで、どうすればよいかの判断に時間をとれるようになってきました」と鈴木氏は語る。
もちろん、データの民主化が進むと、現場でもさまざまな意見が出てくるはずだ。これについては、「データに基づく議論はむしろウェルカムです。むしろ今までそれができてなかったのが課題だった。だから、組織をフラットにし、コミュニケーションをフラットにできるようになったことで、むしろそれができるようになったと思います」と鈴木氏は語る。
意思決定もスピードアップした。菊池氏は、「今までは各部門単位で意思決定を進めていたので、時間がかかっていました。喧々諤々(けんけんがくがく)の議論はすべきなのですが、それをレイヤーごとに何度もやっていたので、スピードが落ちていたんです。でも、ThoughtSpotを使うことで、常務と部長クラスがデータに基づいて意思決定できるようになりました」と振り返る。
また、AIが自動的にインサイトを抽出してくれるThoughtSpotの「SpotIQ」という機能を用いることで、変動要素も把握でき、原因分析も迅速になった。「多くの企業ではデータアナリストを育成する動きも高まっていますが、SpotIQは今までデータアナリストがやっていたようなことをサービス側で実現してくれます」と菊池氏は語る。
全社員でのデータ分析を促進し、真にデータドリブンな組織に
こうしたNECネッツエスアイの事例についてナイア氏は、「意思決定をする方々が直接データに触れている点が非常に素晴らしい。DXはOX(Organaization Transformation)なしでは実現できません。NECネッツエスアイは、まさにそれを実践しています」と語る。
その上でThoughtSpotで貢献できた点について、「通常、意思決定をするときには、その決定に基づくデータは古くなっています。しかし、ThoughtSpotを用いることで、ビジネスの決定スピードが上がり、コストも下がったという効果を得ていただいたことに感激しています」(ナイア氏)と語る。
ThoughtSpotも最新AIの導入を今後も進めていく。ただし、しっかりとしたポリシーを掲げて、AIを導入していくことが重要だとナイア氏は指摘する。「AIを活用するにあたっては3つの点を注視しています。まずは顔認証、ジェネレーティブAI、ビデオでの検知など特定用途で倫理面での課題を議論しなければなりません。また、現在、欧米に偏っている学習データをアジアや中南米にまで拡げてバイアスを排除する必要があります。さらにAIに仕事を奪われる可能性に関しても考慮すべきだと思っています」
NECネッツエスアイも全社員でのデータ分析に向けて、ThoughtSpotの展開は今後も加速していく。菊池氏は「現在はまだユーザーも1500人ですが、これを全社に展開し、真にデータドリブンな組織につなげていきたい」と語る。
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