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拒否感を引き起さない導入のために最初にすべきだったこととは?

手順を間違えたベストバイのLINE WORKS導入が這い上がれた理由

2023年04月21日 10時00分更新

文● 指田昌夫 編集●MOVIEW 清水

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 LINE WORKS DAY 23の事例セッションでは、ベストバイ 経営企画室室長の鈴木克典氏が登壇。「失敗から学ぶ!アナログな職場でITツールを浸透させるコツ」というタイトルでLINE WORK導入の失敗談と経験からの学びを披露した。進行と聞き手は、ワークスモバイルジャパン カスタマーサクセスマネージャーの布施祐一郎氏が担当した。

アナログ職場にチャットツールでデジタルを根付かせたい

 ベストバイは、全国にリサイクルショップを約100店舗運営する企業で、社員数約300名、今年で21期目を迎える。消費者や企業から不要な商品を買い取り、メンテナンスして再販売するリユースを主な事業としている。

 鈴木氏は入社12年目で、前職は広告代理店に勤務していたが、まったくの異業種である同社に転職した。マーケティング業務を中心に社内のデジタル推進を担当し、現職に至っている。

ベストバイ経営企画室室長 鈴木克典氏

 さて、同社は4年前の2019年からLINE WORKSを社内のコミュニケーションツールとして利用している。それ以前、同社には古い小売業特有のビジネスで、現場の権限が非常に強いことが問題だった。販売の現場は自分たちが売り上げを作っているという自負があり、一部の店舗は本部に従わないような文化もあったという。

 さらに、アナログなコミュニケーションが大好きな企業文化で、大部分のスタッフはITツールに不慣れだった。リアルな会議、打ち合わせを頻繁に行ない、メールすら面倒という状況だった。また、現場間の情報共有にも偏りがあり、属人化していた。本部が連絡事項のメールを送っても、末端まで伝わらず、落とし込みが弱い状態で、鈴木氏は本部のデジタル推進担当として頭を悩ませていた。

 LINE WORKSを導入する前から、鈴木氏は外部企業とのコミュニケーションにチャットツールを使用していた。「非常に便利だと感じており、当社としてもコミュニケーションツールの核にチャットを入れれば、メールによるレスポンスの遅さも解消されて、コミュニケーションが活発化するのではないかと思っていた」(鈴木氏)

 だが、メール、チャット、スケジュールなど、バラバラのSaaSを組み合わせて導入する形は、現場から絶対に受け入れられないだろうと鈴木氏は予想した。オールインワンで使えるツールがないか探していたところ、LINE WORKSの存在を知り、「これしかない」と思って導入したという。「中核となるチャット(トーク)のユーザーインターフェイスが、ほぼLINEと変わらないため、現場スタッフが抵抗感なく使ってもらえると感じた」(鈴木氏)

社内コミュニケーションの課題を解決するためLINE WORKSを導入

 とはいえ、LINE WORKSは多機能であるため、自社の業務に合わせて使いこなすには専門の部署が必要と考え、新たに導入推進チームを発足し、そこで検証を開始した。導入リーダーには、現場の若手から改革意欲の高い人材を抜擢し、鈴木氏をはじめ本部のメンバーがバックアップする体制をとった。

「本人の経験は浅かったが、LINE WORKSへの思い入れも強く、自分も導入をバックアップする立場になることで少し楽ができると考えたところもあった。しかし、これが後の失敗につながるとは、思ってみなかった」(鈴木氏)

 若手のリーダーは社内向けのマニュアルも中心となって作成し、現場マネージャー向けの説明会も先頭に立って実施した。「LINE WORKSはとてもいいツールだし、ここまで準備して説明すれば、あとは現場がどんどん使ってくれると思っていた」(鈴木氏)。この時点で「ある種の達成感が導入推進チームには漂っていた」と、鈴木氏は振り返る。

激しい拒否反応が導入リーダーに集中 

 しかし、それが甘かった。稼働初日から、現場からのクレームが嵐のように導入推進チームに押し寄せたのだ。導入の説明は現場のマネージャーまでしかしておらず、現場には浸透していなかったため、一部のベテラン社員が「LINE WORKSなんて聞いていないから使わん」と反旗を翻した。声が大きい社員が騒いだことで、現場は大炎上となった。「結局のところ、導入前の当社の弱点だった『現場への落とし込みの弱さ』を、LINE WORKS導入のときも繰り返してしまった。慌ててリーダーと私で現場への説明会を実施して回ったが、想像以上の拒否反応に、目の前が真っ暗になったのを今でも覚えている」(鈴木氏)

 クレームの収束に向けて取り込んだものの、一部の社員からの拒否反応は続き、導入リーダーへの批判が集中した。リーダー側も強い思いが逆に災いして、「どうして理解してもらえないんだ」と対立は深まる一方になり、歩み寄ることができなくなった。「導入推進チームで3カ月間テストも行ない、良好な結果が出ていた。正直、ここまでのハレーションが起きるとは思っていなかった。過信が招いたミスと言うほかない」と、鈴木氏は反省する。

 当時を振り返って鈴木氏は、まずは一部のデジタルに意欲的な店長がいる店からテスト導入する、あるいは最初はトーク機能だけ導入するといったスモールスタートをするべきだったと語る。「事前にすべきだったのは、管理職への説明ではなく、デジタルに苦手意識の少ない部門で小さくスタートすることだったのかもしれない。この失敗は、これからも背負っていかなければいけない」と鈴木氏は振り返る。

流れを変えた、仕入れ担当者の1本の書き込み

 導入がされたものの反発が止まぬまま、LINE WORKSは厳しい船出をした。そんなある日、社内では「お調子者」で知られる仕入れ担当者が投稿した1本のトークが、社内の雰囲気を変えることになる。それは、次の内容だった。

[早い者勝ち] ○△社の40インチテレビ、極上品を100台仕入れました。 欲しい店長は、挙手!

 リサイクルショップにとって、個人からの仕入れだけでは在庫が安定しないため、法人からの仕入れで品揃えを補完することになる。この社員は法人仕入れの担当で、深い考えを持たずに投稿しただけだったが、店舗側としては非常に魅力的な商品だった。「これまでは、法人の仕入れ担当がそれぞれ販売する店舗を指定して商品を流していた。そのため数量も安定せず、店舗側で把握することも難しかった。その状況が、LINE WORKSによって可視化されたことは、画期的だった」(鈴木氏)

 そして、驚くことが起きる。この投稿に対して、LINE WORKSに拒否反応を示していた店長たちから、続々と「15台ください!」などのレスが入ってきたのだ。「LINE WORKS上で即席の競りが行なわれ、仕入れが最適に配分されたことになる。従来は仕入れ担当者と店長が何度も駆け引きをして進めていたことが、ほんの15分で終わってしまった」(鈴木氏)

 この「100台テレビ事件」によって、一気に流れが変わる。お得な情報が流れてくるLINE WORKSは、つねに見ておかなければいけないという意識が、店長や店舗スタッフに植え付けられたのだ。

 LINE WORKSの導入推進チーム以外で、はじめてスタンプを使ったのも、この仕入れ担当者の書き込みだったという。この書き込み以降、仕入れ情報以外のトーク上のやりとりも活発化し、スタンプ利用も広がっていく。「社内に『こんなノリでいいんだ』という認識が広がったことは、正直うれしかった」と鈴木氏は思い起こす。退職した前導入リーダーが遺した操作マニュアルも、使われるようになった。

利用を加速させるため、矢継ぎ早に手を打つ

 このタイミングで鈴木氏は、LINE WORKSの利用を加速させるために、3つの取り組みを開始した。

 1つ目は、社内のコミュニケーションはLINE WORKSに限るというルールの通達だ。「社内間のコミュケーションにメールを使うのが“クセ”になっている社員が多かったため、メールは禁止とした。この通達は社長から発信してもらい、本気度を伝えた」(鈴木氏)

 2つ目は、20代社員の気軽な情報発信を促進した。トーク内のいい書き込みを見つけて、意図的に褒め称えるレスを返すよう、各部署の管理職クラスに根回しを進めた。

 そして3つ目は、「現場の声」をもとに、導入推進チームが「形」にするプロセスを繰り返した。LINE WORKSの利用が進むにつれ、現場からさまざまな要望が寄せられるようになった。難しい開発ではなく、LINE WORKSの機能を使って解決できる範囲で対応した。「こうした取り組みを通じて、LINE WORKSの成功体験を繰り返していった」(鈴木氏)

 その結果、同社のLINE WORKSは、現在ではトークに限らず業務のさまざまな現場で役立っている。例えば、金価格の変動を通知するBot、店舗で使う「のぼり」やPOPなどを依頼する掲示板、盗品を持ち込む要注意人物の情報共有など、幅広く活用されている。また、普及のきっかけとなった仕入れ担当からの商品案内は、専用グループを作ってさらに効率化している。

 こうした活用例を含め、LINE WORKSの導入効果を、鈴木氏は「メールの時代に比べて、社員同士のコミュニケーションの量は確実に増えた一方で、長い文章を書く代わりにスタンプ1個で済むなど、流れは軽やかになった」と分析する。

 このベースができたことで、グループ機能を使って部門横断プロジェクトが円滑に進むようになったという。ノート機能を使って、プロジェクトの情報が、LINE WORKSの中に全て格納できるので、非常に使い勝手がいいと社内で評価されている。「60代の社員から、『導入のとき反対してごめん』と言われて、ようやく報われた」と鈴木氏は語る。

導入失敗と復活のストーリーから得られた3つのアドバイス

 LINE WORKSの導入で、それまで進まなかった業務マニュアルの整備も動き始めた。「従来は属人化されていた業務の細かなノウハウを、各店舗で専用のグループトークを作って共有することにした。そこで議論することで、ノウハウが可視化されていき、チームのレベルアップにつなぐことができるようになった」(鈴木氏)

 同社のLINE WORKS導入失敗と、そこからの復活のストーリーを振り返り、鈴木氏は、次の3点をアドバイスする。

 1つ目は、LINE WORKSは機能が多いため、最初から欲張らずに限定的な導入で始めるべきだということ。2つ目に、マニュアルよりも、現場のセンターピンに刺さる「これはいいかも」という体験をいっしょに作ること。そして3つ目が、導入はデジタルネイティブ世代を主役とし、役職者には支援するよう根回しをすることである。

LINE WORKS活用のための3つのポイント

「導入に関してしくじりばかりだった私が、アドバイスするのは僭越だが、少しでも役立つヒントがあればうれしい」と話した鈴木氏。実体験に基づく、説得力に溢れたプレゼンだった。

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