Perceiveという会社は2018年にアメリカで創業した。正確に書けば、親会社であるXperi(旧Tessera)から2018年に独立したというべきだろう。ただし当初からステルスモードの形で創業されており、同社が一般にその名前を示したのは2020年に最初の製品であるERGOチップを発表したタイミングである。
まずは親会社である旧Tesseraだが、こちらは1990年にIBMのワトソンリサーチセンターでAdvanced Packaging部門のシニアマネージャーを務めていたThomas DiStefano博士が立ち上げた企業である。もっともDiStefano博士自身はVP of Marketingという立場で、社長兼CEOにはJohn W. Smith氏が就いている。
このTesseraは半導体のパッケージ技術をライセンス提供するという会社で、1997年頃の顧客リストを見るとAnam/Amkor、Flexera、日立、インテル、三井ハイテック、Read-Rite、新光電気工業、TI、3Mといった企業が並んでいる。2010年にはμBGAの商用化を実現したとして、SEMI(もともとはSemiconductor Equipment and Materials Instituteの略だが、すでにSEMIが正式名称になっている) Award North Americaを受賞するなど、半導体パッケージ技術に特化した会社であった。
この方向性が変わってきたのは、1999年9月にCEOがBruce McWilliams氏に代わって以降に思える。もちろん半導体パッケージ技術をないがしろにしたわけではないが、ここからさまざまなテクノロジーを保有している会社の買収を始める。
2005年にはウェハーレベルのイメージセンサーパッケージ技術を持つShellcaseの資産を買収、2006年にはスマートフォンなどのイメージング技術を持つDigitalOptics Corporationを、2007年にはカメラの自動フォーカス/ズーム技術を持つイスラエルのEyesquadを、2016年にはマルチカメラソリューションを持つPelican ImagingとマルチチャネルオーディオのDTSをそれぞれ買収。2020年にはTiVoと合併もしている。
もちろんその合間に、2015年には2.5D/3Dボンディング技術を持つZiptronixを買収したりもしているのだが、そうした半導体パッケージ事業は2011年に立ち上げた完全子会社のInvensas Corporationに集約し、自身は複数のテクノロジーを保有する企業になった。
社名を2017年Xperiに変更したのはそうした戦略の変更もあってのことかと思う。現在はdtsやTiVo以外にHD RadioやIMAX Enhancedといったテクノロジーをライセンスする会社になっている。
20mWの消費電力で推論処理を行なう
ERGOチップ
さて話をPerceiveに移す。Perceiveを立ち上げたのは、現在もCEOを務めるSteve Teig氏である。もともとはICの配置配線の技術を持つTangent Systemsの創業者兼CTOで、同社がCadenceに買収されたため、今度はBioCADという分子シミュレーションCADの会社を立ち上げ、それを売却後に今度はCombiChemという創薬開発システムの会社を創業する。
新規株式上場後に離脱し、再び半導体の世界に戻りSimplex SolutionsというEDAの会社のCTOを務めるものの、またもやCadenceに買収。しばらくCadenceでCTO兼Chief Scientistを務めた後でTabulaというFPGAの会社を立ち上げる。
残念ながらTabulaは2015年に破産したが、その後Teig氏はXperiにCTOとして参加する。このXperiの時代、Teig氏はXperiが持っていた技術と機械学習を組み合わせることを検討していたそうだ。
具体的に言えば、オーディオやビデオ向けのソフトウェアに機械学習を組み合わせるという話で、その中には例えば映像向けの赤目補正や手振れ補正なども含まれていたらしい。
これを実装するにあたり、ソフトウェアだけでこれを行なうのではなく、適切なエッジ向けの機械学習用ハードウェアを開発すべきという結論に達し、取締役会に対して「20mWの消費電力で、必要な推論処理を行なえるチップを開発すべきで、そのためには新しく企業を興すべき」という提案をする。これが通った結果としてPerceiveが立ち上げられ、そこで最初の製品であるERGOチップが2020年に完成した形だ。
2020年のEmbedded Vision Summitで公開されたスライドによれば、例えばドアベル/ドアカメラの映像をそのままクラウドで処理するのはさまざまな面で無理がある。
一方で2020年の時点では、エッジAIで十分な精度がある構成というのは、それこそNVIDIAのGPUカードを装着したPCクラスになり、コストと消費電力の両面で機器に収めるのは無理がある。一方でエッジというよりはエンドポイント向けでは、性能はともかく精度が足りないという欠点があるとする。
ちなみにこの精度に関しては、“Accuracy: Beware of Red Herrings and Black Swans,”(精度:誤解と想定外に注意)という、Teig氏自身の講演がやはりEmbedded Vision Summitで行なわれている。この中でTeig氏は精度だけを追求するのは難しいとして、新たにsurpriseというメトリックを導入することで、大外れしにくくなるとしているがこれは余談である。
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