「Sensei」が生成AIでビジネス戦略も提案
それを理解するには、次のデモを見てもらうのがわかりやすいだろう。これは、Adobe Summit2日目(3月22日)の基調講演の冒頭で示されたものだ。これからの経営計画に合わせ、どういう施策をすべきかの提案が行われ、さらに、そこからどのようなキャンペーンを作って実行すべきかが示される。
さらに、キャンペーンで使うグラフィック・マテリアルがFireflyで作られ、調整される。
そのマテリアルはさらに、計画に従って自動的に適応・利用され、全体の調整が終わると、クリック1つでキャンペーンが「スタート」する。
その結果はリアルタイムに集計され、可視化もされる。さらにそこからは当然、次のアクションにもつながる……。こうした作業は、いままでもできた。ただしそこでは、自らがツールとデータの価値を理解し、判断しながら進む必要がある。
だが、Adobe Sensei Gen AIが各ツールの間を繋ぐことで、必要なことは「質問」しながら進めることが可能になった。フローは再構築され、より理解が簡単になり、試行錯誤もシンプルになっている。すなわち、Adobe Sensei Gen AIが各サービスをつなぐ助けをし、さらに、必要なビジュアル・マテリアルの生成をするところまでサポートできる「トータルでの価値」が、アドビの強調したいところなのだ。
「素材ニーズの爆発」をAIでカバーする
アドビにはいくつかの顔があるが、事業で言うなら、「デジタルマーケティング・ツールの会社」と「クリエイティビティ・ツールの会社」という2つの顔に見える。
すごく簡単に言えば、同社のイベントとして、毎年秋に行われる「Adobe MAX」は前者が主軸であり、春に行われる「Adobe Summit」は後者が主軸である。そういう意味で言うと、Fireflyは本来、MAXで発表される方が似つかわしい。
一方、チャットベースのビジネスツールとしてのAdobe Sensei Gen AIは、Summitで発表されるのがふさわしい。
デジタルマーケティングはSummitで扱う領域ではあるが、その中で使う画像や動画などのマテリアルはMaxで扱う領域だ。だからそもそも関連性は強いのだが、今までは「作る人」が分かれていたから違うもの、という印象だったかもしれない。
しかし、それも変わりつつある。ウェブやスマホのブラウザだけでなく、多数あるソーシャルメディアやコネクテッドTVに広告をタイムリーに出し分けるのが当たり前になっていくと、必要になるコンテンツの量は劇的に増える。アドビ側の説明によれば、過去2年間でコンテンツへのニーズは2倍になり、さらにここから2年間で5倍に拡大するという。
そうすると、素早く作るには、元になるものやテイストはアーティストが作るとしても、メディアに対する最適化やバリエーション作成は現場に任せる……という流れになっていくだろう。
だとすると、AIが作業をカバーするのは必須だ。例えば、今回発表された「Adobe Express for Enterprise」には、Fireflyが機能として内蔵されている。Adobe Express自体が、「Photoshopまでは扱えないが、手元で必要なマテリアルを作りたい」という人々のものだった。そこにさらに、自社の持つロゴなどのマテリアルを使い、Adobe Experience Cloudでのデジタルマーケティングに活用する。その基盤になるのがAdobe Sensei Gen AI、ということになる。
ジェネレーティブAIを使う、という意味ではマイクロソフトやGoogleと同じように見えるが、アドビは巧みに、自社の領域にその可能性をうまく当てはめた戦略を展開してきたのである。