大阪公立大学教員、学生ら10名による社会実装を目指すアイデアピッチ
教員/研究者、学生/卒業生によるピッチイベント「第1回 イノベーションアカデミー」レポート
「パン酵母を活用した低環境負荷型金属吸着材の開発」
大学院工学研究科 物質化学生命系専攻 教授 東 雅之氏
資源循環型の安全な社会を実現していくために、環境中にある有害な重金属を除去し、有価金属を回収する技術の確立が急務となっている。東氏の研究室では我々が日常的に食しているパン酵母と食品添加物およびシャンプーの成分を用いることで安全かつ低環境負荷な生物吸着剤を開発した。
もともと資源に乏しい我が国では、得意とする精密機器の製造開発に欠かすことのできない貴金属やレアアースを安定的に確保する必要がある。そのために調達先の多様化だけでなく、廃品などに含まれる有用金属資源の回収、再利用が求められている。また、製造工程で出る工場廃水中の有害物質については厳しい法的基準が設けられており、低コストでその処理を実現する技術の開発が必要とされていた。
東氏の開発した金属吸着剤は、他の金属吸着方式と比較すると、金属吸着能や安全性、環境負荷などの点において強みを持っている。他の凝集剤との比較では、凝集能、環境負荷、コストなどでメリットがある。
「廃水中のレアアース回収では国内で年間約834億円の市場規模がある。有害金属の除去および有機汚泥の凝集についてもそれぞれ約120億円、約158億円の市場が見込まれている。また、海外ではこれら以外にも様々な用途の存在が調査によって明らかになってきている。
高い安全性を持つ安価な材料を用いた金属吸着剤に高い吸着性と選択性を持たせることによって、有害金属や有用金属の回収から安全な社会、循環型社会実現に貢献していきたい」(東氏)
アドバイザーからのコメント
ESG投資的な観点から、事業会社や金融機関などを巻き込んで大きなエコシステムを描くことにより、この技術の重要性が増してくると思う。ビジネスモデルについても起業したときのプライオリティとかどのようにスケールさせていくかなど考えなくてはならないことも多いが、非常に有望な技術だと思うので頑張って欲しい。
「視覚障がい者の単独歩行を案内する車輪付きガイドナビと遠隔見守りシステム」
大学院工学研究科 機械系専攻 講師 今津 篤志氏
視覚障がい者が外出する場合は白杖を用いることが一般的だが、白杖だけでは物にぶつかり、駅のホームから転落するなどの危険を避けることが難しい。家族やヘルパーなどと一緒に外出することも多いがそのためには時間を合わせるとか予約が必要など、面倒なことが少なくない。
今津氏は地図データなどにより視覚障がい者をガイドすることで、ひとりで好きな時に気軽に外出できるようにする車輪付きガイドナビと遠隔見守りシステムの開発を進めている。通常はダウンロードした地図データとセンサーによって設定した経路に沿ってステアリングやブレーキをコントロールして視覚障がい者を目的地までガイドする。遠隔見守りシステムはトラブルなどにより障害物が発生するなどして自動ガイドが利用できなくなった場合に備えて、リモート環境で有人による利用者の誘導を行なうものとなっている。
すでにショッピングセンターなどでの実証実験も行なわれており、全盲の方でもこのガイドナビによってスムーズにショッピングセンター内を歩くことができている。今後は屋内や公園などでテストをしつつ実績を積んだうえで、閉じた施設内で運用を始めることを想定している。さらに将来的には公道で利用可能として、視覚障がい者の通勤と通学に使えるようにしたいとしている。
アドバイザーからのコメント
視覚障がい者に対するアシスト技術はいろいろなものが開発されてきているが、遠隔からのモニタリング技術は非常に良い観点だと思う。農業や建築などの大型機械のモニタリングにも応用できるだろう。ロボットによる自動配送も遠隔モニタリングと組み合わせることによって可能になる。また、視覚障がい者によるマラソンの伴走など、視覚障がい者のQOL向上にも役立つと思う。
「設計士のための手書き図面の自動トレース」
現代システム科学域 2022年卒業生 中庭 健太氏
日本各地で古い道路や橋梁などの改修工事が行なわれている。そういった施設では古い図面が紙媒体で残されていることが多く、改修のためにはそれらをCADデータに変換する必要がある。この作業はコストと時間が非常にかかるものであり、テクノロジーによる課題解決が求められていた。
中庭氏は、正確な図面には既存のトレースソフトなどが利用可能であるものの、現場で手書きによって描いたような図面にはそれらのソフトが効果的に働かないことに着目し、荒い手書き図面をCADデータに変換するソフトウェア「ラクトレ」の開発を進めている。
既存のトレースソフトは大きな図面、もしくは(ソフトでトレースしやすい)正確な図面に特化しており、価格も高いものが多い。そのため荒い手書き図面にフォーカスした低価格ソフトウェアの「ラクトレ」とは住み分けができるとしている。今年はテストマーケティングも兼ねてまず自社でラクトレを使ったトレース作業を請け負うビジネスをスタートする。その後、設計事務所などに月額定額(サブスク)での利用権販売モデルへと移行していく予定だ。
アドバイザーからのコメント
紙の資料のデータ化をやらないとDX化が進まないという課題を抱えている中小企業はたくさんある。そういったところを紹介するので一緒にサポートしてもらえると有難い。