非ゲームのパフォーマンスでは今ひとつ……
最初に定番ベンチやクリエイティブ系アプリにおける処理性能をチェックしよう。ここでは、Ryzen 9 7950X3DのBIOS設定を「Auto」「Frequency」「Cache」の3通りに設定し、どういった差が出るかチェックする。Provisioning File Driverがあるため全コアを使うような処理では大差は出ないが、シングルスレッド性能の寄与率の高い処理ではFrequency≒Auto>Cacheとなるはずである。
まずは定番「CINEBENCH R23」のスコアー比べから始める。
Ryzen 9 7950X3Dのマルチスレッドスコアーは、7950Xよりも低いがその差は5%程度と非常に小さい。FrequencyやCache設定でもマルチスレッドスコアーが変化しないのは、CPU負荷が高いためProvisioning File Driverが全コアを解放するためだ。
一方シングルスレッドスコアーを見るとAutoとFrequencyはRyzen 9 7950Xとほぼ同程度なのに対し、Cache設定では大幅に下がっている。AutoやFrequency設定だとクロックの高いCCD1で処理されるが、Cache設定にするとCCD0側で処理されてしまうからだ。そしてCINEBENCHの処理では3D V-Cacheのメリットは全くないことが分かる。
また、Ryzen 7 5800X3DやCore i9-13900Kとの差については、コア数やクロック、アーキテクチャーを考えれば順当な結果といえる。
「Blender Benchmark」はマルチスレッド性能だけを見るベンチだ。これでRyzen 9 7950X3Dの設定がスコアーにどう再現されるか検証してみよう。Blenderのバージョンは“v3.4.0”を使用する。
トップはRyzen 9 7950X。その後に続くRyzen 9 7950X3Dは3種類の設定がほぼダンゴになっている。ここではCore i9-13900KとRyzen 9 7950X3Dはほぼ同じようなパフォーマンスであると判断されている。
続いては「UL Procyon」での検証だ。まず「Photoshop」「Lightroom Classic」を実際に運用した際のパフォーマンスをスコアー化する「UL Procyon」の“Photo Editing Benchmark”で検証した。
このテストでもRyzen 9 7950X3Dのスコアーは7950Xよりも微妙に下になる。Auto/ Frequency/ Cache設定の間に大した差が見られないということは、Lightroom ClassicやPhotoshopの処理では巨大なL3キャッシュは全く効かないことを示している。それどころかImage RetouchingのスコアーはCache設定が一番下がっている点を考えると、クロックの低いCCD0に割り当てられる方のデメリットが原因であるとも推測できる。
同じUL Procyonのテストでも「Office 365」を動かす“Office Productivity Benchmark”も試してみよう。
全体傾向はPhoto Editing Benchmarkと同じ。Cache設定にしてもスコアーは向上しないことから、Office 365も3D V-CacheのあるCCD0で処理させてもメリットがないことが示されている。
続いては動画エンコーダーである「Media Encoder 2023」での検証だ。「Premiere Pro 2023」上で再生時間約3分の4K動画を準備し、これをMedia Encoder 2023上で1本の4K動画に書き出す時間を測定した。ビットレートはVBR 50Mbps、1パスのソフトウェア(CPU)エンコードとし、コーデックは「Apple ProRes MXF OP1a」、プリセット“4K ProRes 4444 XQ”とした。
Core i9-13900KとRyzen 9 7950Xでは13900Kが僅差で勝ったが、Ryzen 9 7950X3Dがさらに僅差でトップに輝いた。とはいえ4秒程度なら誤差の範囲なので、Ryzen 7 5800X3D以外はほぼ同じであると考えてよいだろう。
「HandBrake」では、再生時間約3分の4K@60fps動画をプリセットの“Super HQ 1080p Surround”でフルHDのMP4に書き出す時間を計測した。
ここでもRyzen 9 7950X3Dは7950Xより10秒程度遅い程度にとどまる。Ryzen 9 7950X3DはTDPやベースクロックを少々絞ってはいるものの、マルチスレッド性能は既存の7950Xと大差ないCPUであるといえるだろう。
ではこのエンコード処理(正確には連続3回実行)時のシステム全体の消費電力も比較しておこう。計測はラトックシステム「RS-WFWATTCH1」を利用し、システム起動10分後の安定値を“アイドル時”、処理開始序盤に出現するピーク値「高負荷時(最大)」と、処理中盤以降に出現する安定値「高負荷時(安定)」の値をそれぞれチェックした。
Core i9-13900Kの高負荷時消費電力が大きいのと、Ryzen 9 7950X3Dと7950Xのアイドル時消費電力が大きいのはいつも通り。そして、Ryzen 9 7950X3Dの高負荷時消費電力は、7950Xよりも最大100W程度低い。Frequency設定にすると序盤にふけ上がる際にピークが高くなるが、安定値はAutoやCache設定と変わらない。
ゲーム編は後編で!
以上でRyzen 9 7950X3Dの技術的な解説および基本的&クリエイティブ系アプリによる検証はひとまず終了としたい。
Ryzen 9 7950X3Dは7950Xよりもマルチスレッド性能は若干低いものの、せいぜい数%レベルの僅差であり、かつクリエイティブ系アプリでは3D V-Cacheのメリットが感じられるようなものはなかった。例えCPPC Dynamic Preferred Cores設定をCacheにしても、誤差程度のパフォーマンスしか出せていない。
では、本命のゲームではRyzen 9 7950X3Dはどんなパフォーマンスを見せてくれるのか? それは後編の記事を確認して欲しい。
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