エリアLOVEWalker総編集長・玉置泰紀のアート散歩

丸の内の静嘉堂で、岩﨑小彌太・孝子夫妻の鳥居坂本邸・雛祭りにようこそ

文●玉置泰紀(一般社団法人メタ観光推進機構理事)

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 静嘉堂@丸の内は2023年2月17日、「静嘉堂創設130周年・新美術館開館記念展Ⅲ お雛さま ― 岩﨑小彌太邸へようこそ」を開幕した。岩崎小彌太(いわさき こやた、1879年〜1945年)は、三菱財閥の4代目総帥。2代目の岩﨑彌之助の長男。小彌太夫妻の芸術文化への造詣の深さを象徴する作品の一つとして、岩﨑家のお雛さまが展示される。このお雛さまは、岩﨑小彌太が孝子夫人のために、京都の人形司に特注したといわれる昭和初期の愛くるしい童子形の名品が並ぶ。

 孝子夫人は薩摩藩の島津氏の分家・島津珍彦男爵家より、岩﨑家に嫁入りした。母は島津斉彬の四女・典子。来客の多い小彌太の客のお土産として、虎屋の「ゴルフ最中」(1934年に「ホールインワン」に改称)を考案したという。87歳で亡くなったが、残された美術品は、大部分が静嘉堂文庫に寄贈された。

岩﨑家・鳥居坂本邸を飾った雛人形段飾りと、背景に立つ高さ3mの川端玉章筆『墨梅図屏風』(初公開)。五世大木平藏(1886〜1941)『岩﨑家雛人形』(昭和前期)。川端玉章『墨梅図屏風』(明治時代。紙本金地墨画、六曲一双)

雛人形は有職故実に精通した京の丸平大木人形店・五世大木平藏による昭和初期の美術工芸の名品たち

 岩﨑家雛人形は、岩﨑小彌太が孝子夫人のために特注した。京都の人形司で、有職故実に精通した、丸平大木人形店の五世大木平藏による昭和初期の美術工芸の名品。今回の展示では、「第二章 岩﨑家の雛祭り」として、五世大木平藏雛人形一式を、3mに及ぶ川端玉章の『墨梅図屏風』(初公開)を背景に飾り、岩﨑家の麻布鳥居坂本邸内の大広間に飾られた姿に近い形で展示されている。大広間を飾っていた牧俊高『能彫 梅若六郎能姿羽衣』も展示される。五世大木平藏は、歴代でも最も名工とされる。

※麻布鳥居坂本邸(現:港区六本木、国際文化会館)は、岩崎小彌太が昭和4年(1929)に竣工した。

 全体に、今回の展覧会は、前田青邨が描いた玄関の衝立やダイニングルームなどに飾った大作のほか、邸内で愛でられていた品々で皆様を揃え、小彌太邸の雛祭りに参加したような趣に設えらえている。

 「第一章 岩﨑小彌太鳥居坂本邸へようこそ」では、鳥居坂邸玄関に飾ってあった、前田青邨の衝立を表裏分解して額装した『唐獅子』、ダイニングルームを飾った同じく青邨の『蘭陵王』とともに、他の調度品と公開されている。前田青邨は小彌太に日本画を手ほどきしている。

 「第三章 小彌太夫妻の芸事」では、本格的に茶の湯、俳諧、日本画などを嗜なんでいた小彌太遺愛の茶道具や遺墨などを展示している。関東大震災後に夫妻はしばらく京都に滞在していたが、その際に、表千家惺斎宗匠に茶を学び、大正13年(1924年)には、京都・南禅寺に別邸を開き、茶室「巨陶庵」を営んでいる。

 小彌太は、俳号を巨陶という俳人だったのだが、師はホトトギスの巨匠、高浜虚子。世界大恐慌の真っ最中、小彌太自身が不眠症に苦しみ、主治医・佐藤要人(三菱診療所長)に静養を命じられていたが、要人は、俳号を漾人(ようじん)というホトトギス派の人で、小彌太に、心にゆとりをもたせ、精神のバランスを保たせるために俳句をすすめたのでは、とも言われる。

 岩﨑小彌太は明治12(1879)年、彌太郎の弟・彌之助の長男として東京で生まれ、英国ケンブリッジ大学へ留学後、26歳の若さで三菱合資会社副社長となった。大正5年(1916年)、37歳の年に社長に就任し、事業の組織改革に着手。三菱商事で大正9年(1920年)に小彌太が示した方針は後に要約されて三綱領のかたちとなり、その経営理念はグループ各社の社是や社訓の中に今日も生き続けている。小彌太はまた、父・彌之助の事業を受け継ぐかたちで東京駅開業後の丸の内にオフィスビル街を建築。従来の赤煉瓦建築に比べて規模が大きく工期も早いアメリカ式工法を採用し大正12年(1923年)には丸ノ内ビルヂング(旧丸ビル)を完成させており、今の丸の内を作った人物である。

岩﨑小彌太・孝子夫妻。麻布の鳥居坂本邸庭園にて

『岩﨑家雛人形』(昭和前期)

 五世大木平藏。昭和初期、小彌太氏が孝子夫人のために京人形司の老舗「丸平大木人形店」の五世大木平藏に特別に注文した雛人形。

『能彫 梅若六郎 能姿 羽衣』(明治末~昭和初19~20世紀)

 牧俊高。鳥居坂の本邸大広間に飾ってあった。岩﨑彌之助の謡の師、五四世梅若六郎の舞姿を、台座まで一木で彫り上げられている。

『立雛 次郎左衛門頭』(江戸時代18世紀)

 宝暦年間(1751年~1764年)に、京の人形師「御雛屋次郎左衛門」が作り、そのことから「次郎左衛門頭」と呼ばれる。男雛は像高65センチ、女雛は像高46.5センチ。雛の姿は夫婦長生を表し、江戸時代の立雛としては最大級。

『這子人形』(昭和前期)

 五世大木平藏。孝子夫人に愛玩されたという。木彫り。着物は、春駒や鯛車が刺繍されている。

『赤樂茶碗 銘 ソノハラ』(江戸時代。17世紀)

 道入(樂家三代)。表千家六代・覚々斎宗佐が命銘した。「ソノハラ」は信濃国神坂峠の集落名。

■展覧会概要

会期
2023年2月18日〜3月26日

休館日
月曜日

開館時間
10:00 – 17:00(入館は16:30まで)
金曜日は18:00(入館は17:30まで)

会場
静嘉堂@丸の内(東京都千代田区丸の内2-1-1 明治生命館1F)

入館料
一般 1500円
大高生 1000円
障がい者手帳を所持する人(同伴者1名・無料を含む) 700円
中学生以下 無料

■公式サイト
https://www.seikado.or.jp/exhibition/current_exhibition/

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