エリアLOVEWalker総編集長・玉置泰紀のアート散歩

三菱一号館美術館はメンテナンスのための長期休館前の最後の展覧会「芳幾・芳年ー国芳門下の2大ライバル」展を開幕

文●玉置泰紀(一般社団法人メタ観光推進機構理事)

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 東京・丸の内の三菱一号館美術館で2023年2月25日、「芳幾・芳年ー国芳門下の2大ライバル」展(2023年2月25日〜4月9日)が開幕した。開館以来、40展目となる同展を最後に、2024年秋ごろまで、三菱一号館美術館は設備入替および建物メンテナンスのため休館に入る。

 今回の主役、落合芳幾(おちあいよしいく)と月岡芳年(つきおかよしとし)は、江戸後期を代表する浮世絵師、歌川国芳(うたがわくによし)の門下でともに腕を磨き、当時は人気を二分したライバルだった。この度の展覧会では、大阪で書店を営んだ浅井勇助氏が収集した、幕末明治の浮世絵を網羅する「浅井コレクション」をはじめ、貴重な個人コレクションを中心に振り返る。

左側は、芳年『ま組火消しの図』明治12年(1879年)・赤坂氷川神社。右側の二曲一隻の屏風は早稲田大学演劇博物館所蔵で、左側が芳幾『吃又(どもまた)』看板絵、右側が四代鳥居清忠『文覚』看板絵。明治27年(1894年)。『吃又』は、九代目市川團十郎が裃に扇を持って舞い五代目尾上菊五郎が鼓を打つ大団円の場面。題字は福地源一郎

空調設備の入替や全館LED照明化のため、三菱一号館美術館は2024年秋まで全館長期休館し、外壁には服部一成氏デザインの巨大な仮囲いも登場

 旧三菱一号館は、英国人建築家ジョサイア・コンドルによって設計され、1894年に丸の内初のオフィスビル(洋風貸事務所建築)として誕生した。その後、この建物は老朽化のため1968年に解体されたが、40年の時を経て2009年に復元し、翌2010年、丸の内ブリックスクエアの一環として、三菱一号館美術館に生まれ変わった。開館記念展の「マネとモダン・パリ」から13年、数多くの企画展を開催してきた。19世紀末の美術品を多く収蔵し、特にロートレック作品を多く所蔵していることから、フランス・アルビ市のトゥールーズ=ロートレック美術館と姉妹館提携を行っている。

 三菱一号館美術館は、設備入替および建物メンテナンスのため、2023年4月10日から2024年秋まで全館長期休館する。今回の修繕工事では、空調設備の入替や全館LED照明にするほか、予防保全のために建物メンテナンスを行う。外壁周りには仮囲いを設置し、一号館広場に面した外壁面には、グラフィックデザイナーの服部一成氏のデザインによる、高さ14.4m、総面積約1,250㎡の大型の仮囲い装飾を2023年5月から設置する予定。またレンガの建物ならではの電波環境の悪さについても改善を目指す。

仮囲いデザイン(1枚目は南西面/2枚目は北西面)。仮囲い設置期間は、2023年5月中旬から2024年夏ごろまでを予定

新しいメディアに取って代わられていく浮世絵衰退の時代にあらがうべく、芳幾と芳年が如何に闘ったのかを振り返る

 落合芳幾と月岡芳年は、人生半ばの30代で明治維新を迎え、最後の浮世絵師と呼ばれる世代。二人は、歌川国芳の門下として、幕末の慶応2〜3年(1866〜67年)には、当時の風潮を反映した残酷な血みどろ絵を共作していたりもするが、江戸から東京に変わった文明開化の世界で、浮世絵の可能性を切り開いていく。

 芳幾はその後発起人として関わった「東京日日新聞」(毎日新聞の前身)の新聞錦絵を描くようになり、芳年は、国芳から継承した武者絵を展開して、歴史的主題の浮世絵を開拓する。江戸時代には時勢を映すメディアでもあった浮世絵が、写真や石版画といった新技術、新聞や雑誌といったメディアに取って代わられていく衰退の時代にあらがうべく、彼らが如何に闘ったのかを振り返る。

 今回は、「浅井コレクション」に加え、屈指の芳年収集で知られる「西井コレクション」、国芳研究でも著名な「悳コレクション」からも出品される。また、元大阪毎日新聞記者であった新屋茂樹氏による「新屋文庫」から錦絵新聞の出品も興味深い。

■主な出品作品

(左)国芳『浮世よしづくし』

 嘉永(1848〜53年)頃。浅井コレクション。世の中の「よし」が付く事柄を集めた楽しい作品。酒を飲み、ほろ酔い加減は「くちあたりよし」「いつでもよし」といった具合。右上隅の猫を背に載せた男性は国芳自身。

(右)国芳『当世流行見立』

 天保10年(1893年)頃。浅井コレクション。

(左)芳幾『英名二十八衆句 仁木直則』

 慶応3年(1867年)。西井コレクション。英名二十八衆句は慶応2〜3年(1866〜67年)に芳幾と芳年が14図づつ分担して描いた初期の代表作。

(中)芳幾『英名二十八衆句 濱島正兵衛』

 慶応3年(1867年)。西井コレクション。

(右)芳幾『英名二十八衆句 十木伝七』

 慶応3年(1867年)。西井コレクション。朝鮮通信使の殺人事件を題材とした「漢人韓文手管始」の芝居に取材。

(左)芳幾『東京日日新聞』開版予告

 毎日新聞社新屋文庫。明治5年(1872年)に創刊された東京初の日刊紙の記事を芳幾が錦絵にして人気を博した。

(右)芳幾『東京日日新聞』四十号

 毎日新聞社新屋文庫。明治7年(1874年)9月。元記事は明治5年(1872年)春、九代目市川團十郎が「勧進帳」の弁慶を演じた際、感心した1人の欧米人が楽屋を訪ねた様子を描いている。

(左)芳年『月百姿 朝野川晴雪月 孝女ちか子』

 明治18年(1885年)。浅井コレクション。加賀の豪商・銭屋五兵衛の娘、お近が一族の投獄と身代わりに罪を被って冬の浅野川に身を投じて父の赦免を願う講談のくだりを描いている。月百姿は芳年が画業の最後に手掛けた大判錦絵100図の揃物。

(右)芳年『月百姿 雨後の山月 時致』

 明治18年(1885年)頃。浅井コレクション。曽我兄弟の弟、曽我五郎時致。富士の巻狩りの最後の晩に、仇を討つため向かう場面。

(左)芳年『月百姿 朱雀門の月 博雅三位』

 明治19年(1886年)。浅井コレクション。説話集「十訓抄」掲載の話。笛の名手、源博雅が朱雀門で笛を交換した相手が鬼だった、という話。

(右)芳年『月百姿 竹生島月 経正』

 明治19年(1886年)頃。浅井コレクション。

■警視庁草紙外伝『異聞・浮世絵草子』とコラボレーション

 講談社の「モーニング」で連載中の『警視庁草紙 ―風太郎明治劇場―』とコラボレーション。2月22日発売の「モーニング13号」から、本展覧会とシンクロするオリジナルストーリー、警視庁草紙外伝『異聞・浮世絵草子』が3週連続で掲載される。作品や二人の活躍を具体的にイメージしながら楽しめる。また、本ストーリーは、3月23日発売の『警視庁草紙』第8巻に収録される。

■ライバルで色分けされたグッズコーナーはアイデア満載

■開催概要

芳幾・芳年―国芳門下の2大ライバル

会期
2023年2月25日〜4月9日
※会期中、一部の作品に展示替えあり。
※展示作品変更の可能性あり。一部肉筆画を以下日程で展示替え

会場
三菱一号館美術館(東京都千代田区丸の内2-6-2)

開館時間
10:00〜18:00(金、会期最終週平日、第2水〜21:00)

休館日
3月6日、3月13日、3月20日

料金
一般 1900円/高校・大学生 1000円/中学生以下無料

■公式サイト
https://mimt.jp/ex/yoshiyoshi/

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