福井のベンチャー創出エコシステム
本イベントにあわせて、主催するふくい産業支援センターで「ふくいベンチャー創出プロジェクト」をリードする、新産業支援部ベンチャー支援担当の岡田留理シニアアドバイザーにお話を伺った。
福井県はもともと繊維業や眼鏡産業などの比較的小ぶりな企業が多く、安定的な事業運営はできているものの、新しい事業に取り組むなどの挑戦する機運がやや弱いという特徴を持っていた。日本が高い成長率を持っていた時代なら特に問題にはならなかったが、少子高齢化やDXの遅れなどにより今後も低成長が見込まれている状況では、現状維持は後退につながりかねない。
そこで公益財団法人ふくい産業支援センターを起点に、粗削りだが可能性のある県内企業を発掘し、支援を行うとともに経営者のマインドセットを変えて新たな事業を生み出す後押しをするために、2017年に「福井ベンチャーピッチ」を立ち上げた。
安定志向の気風だからか立ち上げ時は興味を持ってもらうことすら難しかったが、その中でもベンチャーを育てたい、福井を良くしたいという志を共有できる人が徐々に集まってきた。金融機関や大学の先生、県内の上場企業の社長などが緩やかなチームとなっていったとき、それが自走するようになったと岡田氏は話している。
その後、福井県のベンチャー支援は下のように一気通貫のサポートプログラムからなる「ふくいベンチャー創出プロジェクト」へとさらに機能を拡充してきている。各企業の事業フェーズに合わせた支援体制が用意できているのは、このプロジェクトの強みだと言えるだろう。
気運の醸成 | 「ふくいベンチャー創出セミナー」、勉強会・ワークショップ |
企業の発掘 | 担当職員による個別ヒアリング |
企業の育成 | 「福井ベンチャーピッチ」、「U29限定NEXTベンチャーイベント」 |
育成後のフォローアップ | 「福井ベンチャー塾」、県内外VC等による個別面談 |
上場支援 | 「成長支援メンタリングプログラム」、県内外VC等による個別面談 |
ふくいベンチャー創出プロジェクト プログラム
プロジェクトの転機は第4回の福井ペンチャーピッチで、初めて地元福井を離れて東京での開催となった。これは東京に一極集中している投資家の目を福井に向けさせることを目的とした戦略的なもので、岡田氏がビジネス月刊誌に寄稿した記事(https://president.jp/list/author/岡田 留理/)と相まって、福井ベンチャーピッチに参加するVCや投資家を増やすことに成功した。
これと並行して徐々に増えつつある上場志望の企業はサポートに求めるものが高度化してくる。そういった場合には福井で抱え込むことをせず、都会のVCやベンチャー支援者の力を素直に借りることにしていると岡田氏は話す。福井ベンチャーピッチは飛躍のための準備の場、学びの場であるとし、全国に出ていく踏み台にしてほしいとのことだ。
プロジェクトによるベンチャーの定義はいわゆる新規に起業した会社だけでない。スピード感を持って全国・世界に打って出たいという成長意欲の高い企業であれば、何十年続いた老舗であろうとリアル店舗を抱えた地元密着企業であろうとプロジェクトの対象に入ってくる。むしろそういう企業の中から成長したいというニーズが高まってくるまでに福井のムードが変わりつつあると言える。
8回目を数える福井ベンチャーピッチだが、いい意味での“手作り感が”漂う。これは唯一の専任担当者である岡田氏の周りにいる関係者がみな当事者意識をもって運営に関わっていることを示している。地元の人が実態としてプロジェクトに参加し、組織を超えた協力を惜しまない。このことが福井のベンチャー創出エコシステムの原動力になっている。
来年以降も福井ベンチャーピッチは開催が予定されている。さらに登壇を希望するベンチャーは増え、福井の熱量は上がっていく。地方の可能性を示す福井県の取り組みに今後も期待が高まる。