最高速を2倍に引き上げながら
消費電力は据え置き
ではEPYCをEPYCたらしめている部分は? というと、IODを含めたSoC全体、ということになる。IODは上の画像で示すように12chのCCD接続用インフィニティー・ファブリックのI/FとメモリーコントローラーとPCIe/CXLなどのI/O I/Fを統合したチップである。
まずメモリーコントローラーであるが、DDR5を12ch搭載、最大で6TBものメモリーを利用可能となっている。
もっとも、6TBの構成にする場合、12chのDIMMスロットにそれぞれ2枚づつのDIMM(それも2×8Rank 3DS-RDIMMで、16Gbit×4構成)を装着する必要がある。そもそもDDR5では、1chのメモリーバスに2枚のDIMMを挿す場合には速度やRankの制約が非常に多い。それもあって、EPYC 9004シリーズの場合は、1ソケットサーバーは24本のDIMMスロットを持つが、2ソケットサーバーはそれぞれ12本のDIMMスロットを持つ構成がデフォルトとされている。
実際AMDのEPYC 9004シリーズ向けのリファレンスボードであるTitaniteの場合、DIMMスロットはソケットあたり12本になっている。
ちなみに速度はDDR5-4800どまりである。コンシューマー向けはともかくサーバー向けのRDIMMや3DS RDIMMは今のところDDR5-4800どまりであり、少なくともGenoa世代ではこれで問題ないと思われる。ちなみにこのメモリーコントローラー、NUMAの分割に合わせて4つまで分割してそれぞれ独立にアクセスすることも可能である。
少しおもしろいのがこのメモリーコントローラーの性能に関する部分だ。DDR4のMilanとDDR5のGenoaなので当然帯域は倍以上異なるわけだが、それよりも特徴的なのはSingle Rank Efficiencyの部分である。
当然ながらサーバーである以上、Multi-Rank Interleaveは前提になっており、2 Rankのメモリーと1 Rankのメモリーでは性能が大きく異なる。実際Milanでは25~30%もの性能低下があるのだが、これをGenoaでは10%未満(実際には5~6%)で抑えたというのは、特にメモリーのコストを抑えたシステム(同容量では2 Rankのメモリーの方が高い)での性能低下を最小限に抑えられるという点で効果的である。
また、DDR4→DDR5では帯域こそ増えるもののレイテンシーも増えることそのものは避けられないのだが、Genoaではこのあたりをずいぶん工夫しており、速度が上がりつつもDRAMアクセスのレイテンシーそのものは13nsしか増えない(このうち10nsはDDR4→DDR5に起因する)あたりは、Zen 4コアが内部の2次キャッシュの大容量化などでよりメモリーアクセス頻度が減ったことと相まって、実質的にさほどGenoaと変わらないレイテンシーで帯域だけ2倍以上になったことになる。
次が2ソケット用のインフィニティ・ファブリック・レーンの話である。Genoaに搭載されたIODでは、このソケット間の接続にx3ないしx4のインフィニティ・ファブリックを利用できる。このファブリックのPHYはPCI Expressと共用というのはGenoaまでと同じである。
x3とx4のどちらを使うのかはアプリケーション次第であって、例えばアクセラレーターを大量に利用するような構成ではソケット間接続はx3にして、余った32レーンでアクセラレーターを2枚余分に接続できるし、Computationなどの用途であればx4接続することでプロセッサー同士の接続がより広帯域になるわけだ。
なおこのインフィニティ・ファブリックの最高速は36Gbpsである。SerDesをPCI Express/CXLと共用する関係で、PCI Express/CXLとしての動作時には32Gbpsになるが、インフィニティ・ファブリックとしての利用時は36Gbpsになり、それでいながら転送時の消費電力は2pJ/bitを下回るとしている。
この2pJ/bitというのは、Genoaまでのインフィニティ・ファブリックと同じ数字であり、つまり最高速を2倍に引き上げながら消費電力そのものは据え置きにできたとされている。ちなみにSerDesはPCI Express/CXL以外にSATA、さらにイーサネットとしても利用できるという構成は以前のままである。
性能に関してはいくつかスライドが出ているが、これはAMDのウェブサイトで示されているものと大差ないし、なんなら動画でデモが公開されているので今回は割愛する。
前回の記事の最後でも書いたが、Genoaの本当の敵は第3世代Xeon Scalableではなく、間もなく登場するはず(出ると良いなぁ)のSapphire Rapidsベースとなる第4世代Xeon Scalableである。
現時点ではまだその第4世代Xeon Scalableの評価ができない以上、これがそろってからが評価の本番だと思うからだ。というわけで、Genoaについてはこのあたりで終わるが、最後にBergamoについて語ろう。
この連載の記事
-
第803回
PC
トランジスタの当面の目標は電圧を0.3V未満に抑えつつ動作効率を5倍以上に引き上げること IEDM 2024レポート -
第802回
PC
16年間に渡り不可欠な存在であったISA Bus 消え去ったI/F史 -
第801回
PC
光インターコネクトで信号伝送の高速化を狙うインテル Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第800回
PC
プロセッサーから直接イーサネット信号を出せるBroadcomのCPO Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第799回
PC
世界最速に躍り出たスパコンEl Capitanはどうやって性能を改善したのか? 周波数は変えずにあるものを落とす -
第798回
PC
日本が開発したAIプロセッサーMN-Core 2 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第797回
PC
わずか2年で完成させた韓国FuriosaAIのAIアクセラレーターRNGD Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第796回
PC
Metaが自社開発したAI推論用アクセラレーターMTIA v2 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第795回
デジタル
AI性能を引き上げるInstinct MI325XとPensando Salina 400/Pollara 400がサーバーにインパクトをもたらす AMD CPUロードマップ -
第794回
デジタル
第5世代EPYCはMRDIMMをサポートしている? AMD CPUロードマップ -
第793回
PC
5nmの限界に早くもたどり着いてしまったWSE-3 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU - この連載の一覧へ