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新車を買った情報2022 第111回

フルサス装備で世界のナベアツ化した自転車について

2022年12月04日 09時00分更新

文● 四本淑三 編集● ASCII

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私はこれでホイールベースになりました

 予想外の効果もありました。このサスペンションは車輪の路面追従性を上げるものではなく、ただ自転車から乗員を浮かすだけのものです。それでもトラクションをかけて走れる場面が増えました。私をバラストとするマスダンパーのような効果も得ているのでしょう。でも明らかに変わったのは私の乗り方です。

 路面の突き上げを避けるために腰を浮かす場面でも、座って荷重をかけたままペダルを踏める。だから悪路でも減速せずに進める。何十年も補修されずに粉砕されグラベルと化したアスファルト路面など、北海道にありがちな悪路も平気。これで平均速度も微妙に上がった気がします。

 もうひとつ驚いたのは、前後のサスの動きが合成されて起きる珍現象です。

 上向きのステムが円軌道を描いて水平近くまで下がると、サドルとの距離が微妙に伸びる。これは先に申し上げたトレーリングアーム式サスの特徴です。加えてパンタグラフ式のサスペンションシートポストは斜め後ろに下がりますから、これも沈み込むことでまたハンドルとの距離が微妙に伸びる。

 では前後輪が衝撃を受け、前後サスが同じタイミングで圧縮されるとどうなるのか。自動車だったらホイールベースが伸びるでしょう。でもこの自転車で伸びるのは力点を握る人体。つまり私とホイールベースが一心同体となるのです。

 それはまるで尺取虫にでもなったかのような未知の感覚。ぬるっと身体が伸びる不思議な体験であります。しかもごく一瞬の出来事で、忘れた頃にしかやってまいりません。ついでに不意を突かれて思わず変な声も出ます。前後サスが同じ位相で縮んだときだけ尺取虫になる、世界のナベアツ式サスとでも申しましょうか。

 長く走っているとホイールベースの声まで聞こえるようになります。

 ボク、ホイールベース。
 いつもタイヤとタイヤの間にいるよ。
 ただの距離だから触れないけど、ボクがいないとキミは真っ直ぐ走れないんだ。
 ほら、ランチアストラトスを覚えているだろ。
 クルクル回っていた、あのクルマさ。
 あれはレースに勝ちたい人間の欲のために捨てられたホイールベースたちの呪いなのさ。
 ボクらの存在を無視して乗り物を造らないで欲しいんだ! 
 ボクらを感じて欲しいんだ、ホイールベースの気持ちを!
 ボクらは一輪車なんか、だーいっきらいなんだあああああああ!

 そんな妄想に耽りながらペダルを回しておりますと、気がつけば遠く離れた河川敷にいて、取水施設なんかをボーッと眺める無能の人と化していますから最高です。

 ならば、もっと気軽に乗れるようにとフラットペダルに交換し、シューズも高校生以来のVANSに。冬も走ったろうと、モンベルやパールイズミのウェアやグローブを購入。グラベルロードらしくタイヤをグラベルキングに交換し、下ハンが広がったフレアハンドルもお試し中。雪が降ったらスパイクタイヤも仕入れてしまうでしょうし、低圧でさらに乗り心地が良くなるチューブレスホイールも注文してしまうでしょう。

 結局、新車のグラベルバイクが買えるくらいの出費になってしまいそうですが、気分は最高です。それではまた。

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