ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第690回
Raptor Lakeの開発を半年短縮できたのはイスラエルチームのおかげ? インテルCPUロードマップ
2022年10月24日 12時00分更新
Raptor Lakeの製品開発サイクルを半年短縮できたのは
Alder Lakeの物理設計を流用できたため
話をRaptor Lakeに戻すと、この製品開発サイクルを半年短縮できたとしている。
Raptor Lakeの製品開発サイクルを半年短縮。なにをどう縮めたのか? をBerenson氏に尋ねたのだが、これはさすがに詳細な返答がなかった。ただバリデーションのフェーズは同じだけかかったと言ってるので、物理設計の期間短縮だろう
どうしてこんなに短縮が可能になったか? と言えば、Alder Lakeの物理設計のかなりの部分をそのまま流用できたためだろう。連載688回でも触れたが、Alder LakeのIntel 7とRaptor LakeのIntel 7+の違いはチャネルの電荷移動量であって、トランジスタや配線の寸法などに変更はない模様だ。
もちろんチャネルの電荷移動量が変われば回路のタイミングが変わることになるから、検証まで省くことはできないにしても、通常の物理設計の手間を大幅に節約できたと考えられる。
もっとも逆に言えば、これはコアそのものには一切手を加えず、2次キャッシュの容量と動作周波数の変更程度しか差がないから可能だった技であって、同じように基本的な構成は変わらないとしつつ、バッファ容量やOpCacheの帯域などを強化したZen 4コアではやはり物理設計のやり直しが発生したものと思われる。
製品開発サイクルの話でもう1つ。下の画像はSkyLake以降のデスクトップ/モバイル向けプロセッサーの出荷状況をまとめたものだ。横軸は時系列、縦軸は「アナウンスした出荷予定日」と「実際の出荷日」の差である。
MBはMobile、DTはDesktop。数字はコア構成で、例えばCML MB 62というのはComet Lakeの6コア+モバイル向けGPU、ADL DT 661はAlder LakeでP-Core×6、E-Core×6、デスクトップ向けGPUの構成というわけだ
いくつか例外(Sky Lake DesktopとIce Lake Mobile、Comet Lake Desktop)はあるものの、ほとんどの製品はアナウンスした出荷予定日から1ヵ月以内に出荷ができている、という話だ。
これはイスラエルチームの優れた開発能力を示すものだという話ではあるのだが、前回も書いたように、まったく新しいプロセスやパッケージが絡む場合は基本オレゴンチームが開発しており、そのプロセスが足を引っ張って製品が遅延した、という過去の経緯を考えると、単にイスラエルチームが優秀であるから遅延が少ないと纏めてしまうのはやや違う気もする。
ちなみに今後これがどうなるか? は少し怪しくなっている。10月11日、Pat Gelsinger CEOはInternal Foundry Modelを発表した。
これはなにか? というと、これまでインテルは社内向けと社外向けで別々の対応を行なってきた。外部顧客に対してはTSMCやSamsung、Globalfoundriesと同じようにファウンダリーサービスを提供するが、社内向けは設計部門と製造部門が一体になる形でチップを製造してきたわけだ。
ただここ数年に関して言えば、この社内一体化モデルの弊害がむしろ出ていたと言わざるを得ない。今回のInternal Foundry Modelは、端的に言えば社内向けであっても社外向けと同じように扱うという話である。これまでの場合、製品製造がうまく行かない場合に、その責任を設計部門と製造部門がお互いに擦り付け合うなんてこともあったらしいのだが、今後は設計部門と製造部門の責任範囲がきちんと決まることになる。
これがなにを意味するかと言えば、今後は新プロセスを導入する製品がオレゴンの担当になるとは限らないということだ。プロセスの開発そのものはファウンダリー側、つまりFab D1Xの担当になり、そこにオレゴンの設計チームは原則関わらないことになる(関わったら、設計と製造を分離することにならない)。
そして設計チームは製造部門からPDK(Process Development Kit)を受け取り、それをベースにプロセッサーの物理設計を行なう形になる。こうなると、別に設計センターがD1Xのそばにある必要はないわけで、イスラエルチームが新しいプロセスを採用した製品の担当になることもあり得る。そうなった時に、上の画像がどうなるのか? は少し怪しい気がする。

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