業務を変えるkintoneユーザー事例 第162回
工場だけではなく事務作業だって改善したい
現場の「あったらいいな」をカタチに kintoneを武器に事務作業を変えた一人の社員
2022年10月21日 09時00分更新
「あったらいいな」でおなじみの小林製薬は、全国各地に生産子会社を持つ。そのひとつである仙台小林製薬は、製品品質の向上と生産効率の向上のため生産現場における改善を繰り返してきた。しかし気づくと事務の現場には旧態依然とした光景が広がっている。これを改善すべく、kintoneを武器に立ち上がった社員がいた。kintone hive 2022 仙台のラストバッターを務めた尾崎 誠氏だ。
生産現場と事務作業との改善の差に悩み、検索のすえにたどりついたkintone
仙台小林製薬は、国内に14ヵ所ある小林製薬グループの生産拠点のひとつで、芳香剤やトイレ洗浄剤、衛生雑貨や一般医薬品などの商品生産を担っている。尾崎 誠氏が所属するのは、同社の調剤グループだ。調剤グループでは作業指示に従って原料を量り、機器に投入し、混ぜる。混ぜ終わったら空になったタンクを洗浄して、繰り返しだ。生産現場では歩留まり改善や自動化の推進、整理・整頓などの5S活動に取り組み、改善を繰り返してきた。
「生産現場では改善を繰り返している一方で、事務作業では改善が進んでいませんでした。書類を記入し、記入した書類を回覧し、その書類からシステムに転記入力したりと、無駄な作業が残ったままでした。ある一日の書類を数えてみたら、82枚ありました。こうした状況をなんとかしたいと考えていました」(尾崎氏)
尾崎氏は「業務改善」「ペーパーレス」「デジタル化」など、思いつく限りのキーワードで検索をかけた。そうして情報収集する中で、kintoneというワードが頻繁に目に留まったのだという。そして、kintoneとは一体何なのかと調べていた矢先に、複合機のメンテナンスを依頼しているパートナーからオンラインセミナーのお知らせが届いた。メールに書かれていたタイトルは、「製造業における業務の見える化とDXの推進 ~業務改善クラウドサービスkintone活用~」というもの。こんなお客様におすすめと挙げられていたターゲットに当てはまっていたこともあり、尾崎氏はオンラインセミナーを受講、kintoneへの興味は深まっていった。
「業務改善にkintoneを使ってみたいと、社内でプレゼンテーションしました。社長から、スモールスタートで、なおかつ言い出した本人である私がやるという条件でkintone導入を認めてもらい、管理職とシステム担当の15名でスタートすることになりました」(尾崎氏)
管理職からスタートしたのは、いくつかの理由があった。電子回覧などの承認者として操作する可能性が高いのは管理職なので、まずそこからなじんでもらいたかったということ。どのようなものか知って、各自の部門に展開してほしいと思ったこと。そしてもうひとつは、新しい技術を知って、部下にカッコいいところを見せて欲しかったから、という思いからだった。
シンプルなアプリと想定外の社長のコメントが、kintone浸透のきっかけに
最初にkintoneアプリ化したのは、管理職全員が関係するマンスリーレポートだった。管理指標の結果や重要テーマの進捗、活動における課題や月次アクションなどを記入するレポートで、管理職が月次で必ず入力しているもの。従来は作成したレポートを共有ストレージの決められたフォルダに格納し、管理職同士で事前確認したうえで、報告会で共有していた。課題は、レポートを格納するフォルダの階層が深かったことだ。
「フォルダ階層が深いので、レポートを格納するにも手間がかかります。また、他の管理職がレポートを作成したかどうかをチェックするためには、能動的にそのフォルダを開いて確認しなければなりません。多忙な管理職がそれほど頻繁にチェックできるわけではないので、事前確認はあまり機能していませんでした」(尾崎氏)
これらの課題を解決すべく作成された、仙台小林製薬のkintone第1号アプリは、フィールドが5つあるだけのシンプルなものだった。当然使い勝手もシンプルで、部門を選択し、年度と月を指定してファイルを添付するだけ。レポートの格納先が共有フォルダからkintoneに変わっただけなのだが、これが大きな変化をもたらした。
「レポートを格納して保存すると通知がとどきます。通知を開けばそのまま添付ファイルを見ることができるので、ちゃんと事前に確認してもらえるようになりました。さらにここで、うれしい誤算もありました。格納したレポートについて、社長からコメント欄に質問が投げかけられたのです」(尾崎氏)
コメント機能についてひと通りの説明はしてあったが、どのように使うかということは保留にされていた。しかしそこに社長からの質問が書き込まれたので、回答しないわけにはいかない。想定外ではあったがコメント欄を使って質疑応答が繰り返されることになり、報告会本番を待たずにレポートの内容が精査されることとなった。これが、大きな成果につながった。
「格納の手間を解消し、通知機能により格納状況も共有できるようになりました。さらにコメント活用により事前に質疑応答がなされているので、報告会の時間は1回あたり40分削減されました。スタートは上々、kintoneを使った業務改善の可能性を感じることができました」(尾崎氏)
手応えを感じた尾崎氏はkintoneを使った業務改善を進め、社内の様々な課題を解消していった。
現場から上がってきた課題を解決し、kintoneを社内に定着させていった
一例として挙げられたのは、生産部長からの相談で作った異常発生連絡シートアプリだ。異常発生連絡シートとは、生産現場で品質異常が発生した場合に管理職に報告するために作られるものだ。書類を回覧するので報告に時間がかかるし、回覧を終えてファイリングされてしまうとあとから読み返すのが難しいという課題があった。手間がかかる割に報告だけの機能しかなく、その後の対策まで追えないということにも不満もあった。
「報告のスピード感を上げたい、品質異常の状況を見える化したい、対策の進捗を追いたいという要望を受けて、kintoneでアプリ化しました」(尾崎氏)
できあがった異常発生連絡シートアプリでは、回覧グループを選択すると回覧ルートを自動取得するようにした。必要事項を入力すると関係部署に通知され、電子回覧される。ここでもコメント欄を活用して意見が交わされ、回覧が終わると誰がいつまでに対策するかが設定されることになっている。指名された担当者は再発防止の対策を講じて、その内容を記入する。
「電子回覧にすることで、報告のスピード感を向上。未改善案件一覧という一覧表示をつくり、対策の進捗状況がひと目でわかるようにしました。報告だけで終わっていたこれまでの異常発生連絡シートに比べて、対策という新しい価値を生み出し、要望通りの運用を実現できました」(尾崎氏)
この成果が高く評価され、大幅なアカウント追加のきっかけになったという点でも、仙台小林製薬のkintone活用において重要なターニングポイントとなったアプリだった。さらにこのアプリは、当初の要望以上の効果をもたらした。品質管理グループでは必要な情報をExcelに転記してデータ集計していたのだが、kintoneに入力された情報をもとにそのままグラフ化できるようになった。異常発生連絡シートからExcelに転記しなくても、ライン別発生件数の把握や要因分析ができるようになったのだ。
尾崎氏がもうひとつ例として挙げたのが、安全パトロールのアプリ化だった。労災防止を目的として工場内をパトロールし、不安全箇所を見つけたら改善指示書を作成するもので、毎月実施されている。管理部門は受け取った手書きの改善指示書をExcelに転記して、添えられた写真をアップロードして管理していた。ファイルやシートが多く管理が煩雑なうえ、改善の進捗がわかりにくいという課題があった。
これをスマートデバイスを使うことを前提にして、kintoneでアプリ化した。不安全箇所を見つけたらその場で写真を撮影して添付できるので、入力の手間は格段に少なくなった。
「問題は、指摘エリアをどのように入力するかということでした。152に細分化されたエリアをプルダウンで選ぼうと思ったら、152行分スクロールして目的のエリアを見つけなければなりません」(尾崎氏)
この課題を解決するために尾崎氏らは、安全パトロールの際に持ち歩くマップに目を付けた。エリア毎に4桁の数字を付番し、エリアマップに記載したのだ。パトロール中に不安全箇所を見つけたら、該当する場所をエリアマップで確認、4桁の数字を打ち込めば、ルックアップ機能を使ってエリア名が正確に入力される。kintoneアプリだけですべてを解決するのではなく、そのとき使えるものをきちんと組み合わせて課題を解決した好例だ。
「入力が楽になっただけではなく、回覧や集計をアプリで自動化しました。対策内容も記入、写真を添付することで、対策の進捗もひと目でわかるようになりました。転記や集計作業を毎月90分削減することにつながっています」(尾崎氏)
この成果は、ほかのパトロール系業務にも展開できるのではないかと期待されている。
Kintone活用を広め、現場の「あったらいいな」をカタチにしていきたい
いくつかのアプリを作っていく中で、仙台小林製薬ならではの工夫も生まれた。各アプリの使い方を操作マニュアルにまとめてあり、そのマニュアルを管理するための専用アプリも整備した。各アプリの概要欄にはマニュアルページへのリンクが貼られており、すぐに参照できるようになっている。
こうした工夫もあり、kintoneは社内に浸透。導入後1年間で本運用に至ったアプリは35、アプリ開発者も7名になった。試作中のアプリは100程度あり、今後の展開にもおおいに期待がかかる。
「業務面での成果としては、年間で印刷枚数4850枚、業務時間2500分を削減できました。デジタル改善を自前でできるという意識も芽生え、初年度としては上出来だと感じています」(尾崎氏)
今後はアプリ開発者を増やして、間接業務の改善も活性化させたいと言う尾崎氏。kintoneの活用についても、プラグインを利用したりシステム間連携を進めたりと、重複作業をとことん減らしたいと展望を語る。
「導入から1年の初心者ですが、もっともっとkintoneを使いこなして、現場の『あったらいいなをカタチにする』ことを続けたいと思っています」(尾崎氏)
生産現場での改善は日本の十八番と言われているが、事務作業の改善をも進め始めた仙台小林製薬の今後に期待したい。
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