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小島寛明の「規制とテクノロジー」 第195回

世界に広がる海賊版被害。文化庁が著作権ポータルはじめる

2022年09月05日 09時00分更新

文● 小島寛明

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 著作権に関わる法律は年々厳しくなっているが、インターネットは海賊版の動画や漫画であふれている。

 文化庁は2022年8月30日、著作権侵害対策について情報を発信するポータルサイトを立ち上げた。

 サイト上で著作権に関する相談もでき、著作権に詳しい弁護士が回答してくれる。

 この取り組みは、全国の1千人以上の弁護士らが参加する「弁護士知財ネット」が文化庁に協力する、大規模なものだ。

 背景には、マンガやアニメなどの日本発のコンテンツが世界に広がったことで、著作権侵害の被害も世界に拡大している現状がある。

 出版社などが立ち上げた一般社団法人ABJの調査では、2021年に「ただ読み」された被害が推計で1兆19億円にのぼったとされる。

 日本のコンテンツが世界で評価され、その人気が世界に広がるのはポジティブな流れだが、その分海賊版対策も困難さを増している。

違法アップロード主は、海外にもいる

 実際、日々の生活の中でも海賊版の世界的な広がりを感じることが増えてきた。

 筆者は、いまだに「週刊少年ジャンプ」をほぼ毎週購読している。

 小学生のころから三十代の半ばごろまで、ほぼ毎週発売日に紙のジャンプを買っていたが、一時止まっていた。

 定期的な購読が復活したきっかけはデジタル化だ。数年前、スマホやPCで読めるアプリが使いやすくなったことで、久しぶりにジャンプを買うようになった。

 ジャンプが発売されるのは毎週月曜日だが、その数日前から、YouTube上には「ONE PIECE」をはじめとした人気作品が違法にアップロードされる。

 マンガの作品をデジタル画像にして、一定の時間ごとにページが切り替わる形で動画にしているものだが、発売日前に人気作が無料で読めるとあって、閲覧数も短時間で数万件に達するようだ。

 毎週のようにこうした海賊版がネット上に出回る。

 出版社側も対策に力を入れていると思われ、YouTubeのような大手プラットフォームでは短時間で削除されているようだ。

 違法アップロード主は、おそらく海外にいる。

 登場人物のセリフがオリジナルの日本語からいったん韓国語に翻訳された後、再び機械翻訳サービスで日本語に翻訳し直したと思われる動画も見たことがある。

 日本発のコンテンツが世界で流通する過程で、発売日前のマンガ雑誌が流出しているのだろうか?

文化庁の「削除要請ガイドブック」

 文化庁の「海賊版情報ポータルサイト」には「初めての『削除要請』ガイドブック」というPDFの冊子が掲載されている。

 この冊子には、ネット上で著作権が侵害された場合、どのように対応するかが具体的に紹介されている。

 さらに、海賊版のアップロード主に対して削除を要請する英語版のメールのひな形まで無料で配布している。

 ただ、こうした削除要請といった手続きが整備されているのは、やはり大手企業が運営するプラットフォームだ。

 文化庁のガイドブックでは、YouTube、Facebook、中国のbilibili動画などの削除要請窓口が紹介されている。

 コンテンツを違法にアップロードされた先が大手プラットフォームの場合、出版社や著者といった著作権を保有している人たちの間でも対策のあり方がある程度確立してきたように思える。

勢い増す海外拠点の「ただ読み」プラットフォーム

 一方、漫画村のように独自にマンガの「ただ読みプラットフォーム」を開設する手口の場合、対策はより複雑になる。

 7月28日には、KADOKAWA、集英社、小学館の3社が、海賊版サイト「漫画村」(閉鎖)の運営者を相手に、約19億円の損害賠償を求めて提訴している。

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